フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTSIコンフォートライン(FF/7AT)
価値あるワゴン 2014.02.05 試乗記 4年ぶりに世代交代を果たした「ゴルフヴァリアント」に試乗。日本カー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた7代目「ゴルフ」の、ワゴンバージョンの実力やいかに!?ファーストタッチで「いいクルマ」
「ちょっと動かしただけでも、いきなり“いいクルマ”ですね」。
箱根のてっぺんで、撮影のためにほんの数十メートル運転した『webCG』編集部のKさんがそう言った。そこまで彼が乗ってきたのが、すでに10万km近く走った社用車の「トヨタ・プリウス」だったことを考慮しても、新しいゴルフのワゴンはそんなふうに言わせるクルマだ。
ぼくも都内を走り始めたとき、いきなりいいクルマだと思った。ハッチバックやノッチバックセダンから派生したステーションワゴンでは、荷重の増加に備えてリアサスペンションが硬くなったり、その結果、なんとなく後ろが重く感じられたりしがちだが、そうしたネガが新型ヴァリアントにはまったくない。
ボディー全長が31cm延び、車重が60kg重くなっても、7代目ゴルフの上等で高級な乗り味がそのまま引き継がれている。プラットフォームも今回はゴルフVIIと共通。先代ヴァリアントのように、「車台はひと世代前のかァ……」なんて引け目を感じることもなくなった。
試乗車はコンフォートライン。2グレードあるうちの“安いほう”である。だが、乗っていてこれだけコンフォートなのだから、てっきり上級の1.4リッターモデルかと勘違いしていた。その後、車検証で1.2リッターと知り、驚いた。それくらい、ハッチバックと同じ105psの直噴1.2リッターターボは、なお十分に力強い。ワゴンだから大きめのエンジンを選ぼう、というようなステレオタイプな考え方はしなくていいと思う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
肝心の積載性は……?
ハッチバックじゃない、ワゴンのゴルフを選ぼうとしている人にとって、当然一番気になるのは荷室問題だろう。
まず後席使用時の平常状態の荷室にメジャーを当てると、奥行きは105cm。ハッチバックよりも31cm延びた。ボディー全長の増加分がそのまま荷室の延長に充てられたことがわかる。
左右側壁のレバーを引くと、後席背もたれがバネで勢いよく前に倒れて最大荷室になる。奥行きは実測164cm。助手席を一番前に押しやると、190cm強の長尺物まで収納できる。ただ、そうした長い“かさモノ”を積む場合、ちょっと不満なのは、ハッチバック同様、倒した後席背もたれ部分に傾斜が残り、完全なフラットフロアにはならないことだ。ワゴンくらいは後席クッションもめくれるダブルフォールディング設計を復活させてもらいたかった。
テールゲートの開口部にハッチバックのような高い敷居はないが、かといって、ホウキで掃き出せるほど平滑ではない。そこもできればメルセデスのワゴンのようにまっ平らにしてほしかった。と、16kgもあるMTBを積み下ろししたときにそう感じた。もともと実用ボディーが持ち味のゴルフで、あえてワゴンにしようという人は、そうとう“ほしがるタイプ”だと思うので。
リアシートの居住性はハッチバックと変わらない。しなやかで快適な乗り心地もそのままだ。後席のほうが乗り心地が落ちるというようなこともない。
走りも価格も新世代
ゴルフVIIで走りだした途端、いいクルマだなあと感じさせるその要因はなんなのか。今回、あらためて観察して、そのひとつはステアリングだ! と思った。
FFなのに、エンジンからもタイヤからもいやなキックバックがまったくない。操舵(そうだ)力は先代ゴルフより明らかに軽くなり、操舵フィールからはおよそ雑みがなくなった。電動パワーステアリングの操舵品質が、すっかり「脱FF」なのだ。
なんてことにしみじみ感じ入りながら新型ヴァリアントを走らせること450km、燃費は13.6km/リッターだった。1.2リッター車だと思えばこれくらい当然かもしれないが、ターボと7段DSGの絶妙なチューニングで、とてもそんな小排気量とは思えないパワフルさを実現していることや、これだけの収容能力を誇るステーションワゴンであることを考えると、実用燃費のよさも自慢のひとつと言えそうだ。
新しいワゴンのスタイリングはちょっとビジネスライクにも見えるが、シューティングブレーク的にカッコよくしようという色気を見せないところが、ゴルフ・ワゴンの伝統かもしれない。
ヴァリアントにはリアビューカメラがなかったり、パドルシフトやアダプティブ・オートクルーズがコンフォートラインではオプションになったりと、装備が多少省かれるきらいはあるものの、安全装備のマイナスはない。それで、ハッチバックのコンフォートラインと比べた“ワゴン代”はなんとたったの5000円である。明らかにひとクラス上だった旧型のプライスタグを思い起こすと、売る気満々の戦略価格も新型ヴァリアントのニュースである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰昌宏)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTSIコンフォートライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4575×1800×1485mm
ホイールベース:2635mm
車重:1300kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:105ps(77kW)/4500-5500rpm
最大トルク:17.8kgm(175Nm)/1400-4000rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V(後)205/55R16 91V(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:21.0km/リッター(JC08モード)
価格:269万5000円/テスト車=310万4500円
オプション装備:ディスカバープロパッケージ<カーナビ本体+ETC+メディアイン>(17万8500円)/バイキセノンパッケージ<バイキセノンヘッドランプ+ヘッドランプウオッシャー>(7万3500円)/セーフティパッケージ<レーンキープアシスト+アダプティブクルーズコントロール+パドルシフト+レザー3本スポークマルチファンクションステアリングホイール>(15万7500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2470km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:444.2km
使用燃料:32.7リッター
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。

































