日産エクストレイル20X“エマージェンシーブレーキ パッケージ”(4WD/CVT)
王座奪還のために 2014.02.12 試乗記 デザインも走りも一新した新型「日産エクストレイル」。好評だった初代、2代目の路線に別れを告げ、新境地に乗り出した3代目の実力を試した。四角い形をやめた本当の理由
納得した。なぜ新型「日産エクストレイル」がスクエアなフォルムを捨て、 スラントノーズとキックアップしたウエストラインが特徴の、スマートなスタイリングになったか。その理由が、1月末に行われた公道試乗会のプレゼンテーションで明かされたからだ。
公道試乗会と書いたのは、公道以外での新型エクストレイルの試乗会なら昨年末に行われており、webCGでも紹介しているから。あのときは横浜の日産自動車本社に隣接した特設オフロードコース内限定だった。今回晴れてナンバーが付き、同じ横浜の街に繰り出すことができたのである。
で、新型が激変した理由。昨年末の試乗記では、欧米のユーザーは新型のようなデザインを歓迎しており、かつてわが国で「テラノ」として売られていた「パスファインダー」の最新型も似たようなフォルムをまとっていることを書いたけれど、国内に目を移すともっとシリアスな事情があった。クロスオーバー系の台頭だ。
走りもスタイルもオンロード志向に
エクストレイル自体は、昨年もモデル末期にかかわらず順調な販売台数を記録した。ところがオンロードでの快適性能や走行性能、環境性能を重視したクロスオーバー系の人気はそれを上回る勢いで、かつてはエクストレイルが保持していたSUV販売台数ナンバー1の座は「マツダCX-5」に奪われてしまった。
つまり激変したデザインには、王座奪還の熱い思いも込められているというわけだ。なにしろ試乗会のプレゼンテーションでは、「今のポジションはキープしたまま、こちらのポジションのお客さんも獲得して……」という、ストレートなフレーズまで飛び出していたのだから。
いやデザインに限った話ではない。横浜市内の市街地と都市高速を走ってみると、乗り味からもオフロードっぽさが消え、クロスオーバー系に近いテイストを手に入れたことが感じ取れたのだった。
試乗したグレードは前回同様「X20“エマージェンシーブレーキパッケージ”」だ。ただし前回は2列シート5人乗りしか用意がなかったのに対し、今回は3列シート7人乗りも、短時間ではあるが触れることができた。
使い倒すなら2列シート車がおすすめ
まずは3列シート車の3列目について報告しておくと、いわゆるプラス2である。スライド機能が追加された2列目を、身長170cmの僕が座れる範囲でもっとも前にスライドすると、足は入るものの、頭がつかえてしまう。しかも新型のウリのひとつである、2分割の防水フロアボードを垂直に立てたり高い位置に固定したりして変幻自在の荷室を作り出せるユーティリティーも犠牲となってしまう。
年に1、2度しか3列目を使わないという人なら、エクストレイルらしいギア感覚を満喫できる2列シート車のほうがいいという個人的な気持ちは、変わることはなかった。
2列シート車に乗り換えて、編集スタッフとカメラマンを交えた3人乗車でスタートする。直噴化された2リッター直列4気筒エンジンと、不要な回転上昇を抑えた新型CVTのコンビは、1500kgの車体を不満なく加速させてくれた。3000rpm回せば楽に流れをリードでき、100km/h巡航はDレンジならたった1750rpmでこなす。
ちなみにその後乗った3列シート車は70kg重いことが響いて、3000rpm以上回すことがしばしばだった。この点でも2列シート車がお勧めだ。
もっとも2列シート車でも気になる部分があった。それはアイドリングストップだ。エンジンを止めるには明確にブレーキペダルを踏むことを必要とするようで、交差点でおだやかに停車する時のような踏み方では働かないときがあった。始動や停止のマナーはスムーズなので、制御の見直しを期待したい。
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SUV用タイヤをうまく履きこなしている
走りの面でクロスオーバー化を実感したのはサスペンションだ。旧型は、SUVらしいストロークの長さを生かしたしっとりした乗り心地が特徴だったが、その分フットワークはおっとりしており、ロールも目立った。その点新型は、かなり一般的な挙動を示すようになった。
コーナーでの姿勢変化は明確に少なくなり、軽快に曲がれるようになった。3列シート車はステアリングを切った瞬間にややリアの重さを感じたけれど、2列シート車はバランスが取れている。それにストローク感こそ減ったものの、ショックを巧妙にいなしてくれるし、踏面の固いSUV用タイヤをうまく履きこなしていて、良好な乗り心地を保っていた。
スマートな造形のインパネの向こうに、スラントしたエンジンフードが目に入る。そして動きを抑えた足回り。いろんな部分からエクストレイルに乗っていることを実感できた旧型とは対照的に、SUVをドライブしていることさえ忘れそうだ。個人的には寂しさを覚えたけれど、それは日産が目指した方向性なのだから、モデルチェンジは成功したと評価すべきだろう。
変わった部分は多いけれど
昨年末の試乗記でも触れたとおり、新型には電子制御を駆使した3つの先進技術が搭載されている。「アクティブライドコントロール」「アクティブエンジンブレーキ」「コーナリングスタビリティアシスト」がそれで、最初の2つは世界初だ。
今回の試乗ではとくに、コーナー入口やブレーキング時にアクセルから足を離すと自動的にエンジン回転を上げて減速を促すアクティブエンジンブレーキの利きが明確だった。 裏を返せば残りの2つは効果が体感しにくく、もう少し分かりやすくてもいいのでは? と感じたけれど、オフロードを見越した技術であることを考慮すれば納得できる。
昨年末のような人工的なセクションではなく、今回のような都会でもなく、果てしない荒野に連れ出してみれば、これらのテクノロジーが本領を発揮するかもしれない。機会を見つけて野山を目指してみたい。たしかにオンロード志向は強まったけれど、そういう気持ちにさせるあたりはエクストレイルそのものだった。
(文=森口将之/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
日産エクストレイル20X“エマージェンシーブレーキ パッケージ”(2列シート車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1820×1715mm
ホイールベース:2705mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:147ps(108kW)/6000rpm
最大トルク:21.1kgm(207Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)225/65R17 102H/(後)225/65R17 102H(ヨコハマ・ジオランダーG91)
燃費:16.0km/リッター(JC08モード)
価格:252万7350円/テスト車=309万7500円
オプション装備:LEDヘッドランプ<ハイ/ロービーム、オートレベライザー付き、フレンドリーライティング作動付き、シグネチャーLEDポジションランプ付き>+フォグランプ<クロムメッキリング付き>(7万3500円)/NissanConnectナビゲーションシステム+アラウンドビューモニター<MOD〔移動物検知〕機能付き>+インテリジェントパーキングアシスト+ステアリングスイッチ<オーディオ、ナビ、ハンズフリーフォン、クルーズコントロール>+BSW<後側方車両検知警報>+ふらつき警報+クルーズコントロール(31万8150円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンエアバッグ(7万3500円)+リモコンオートバックドア<ハンズフリー機能、挟み込み防止機構付き>(5万2500円)+ルーフレール(5万2500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2177km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
日産エクストレイル20X“エマージェンシーブレーキ パッケージ”(3列シート車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1820×1715mm
ホイールベース:2705mm
車重:1570kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:147ps(108kW)/6000rpm
最大トルク:21.1kgm(207Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)225/65R17 102H/(後)225/65R17 102H(ヨコハマ・ジオランダーG91)
燃費:15.6km/リッター(JC08モード)
価格:259万7700円/テスト車=316万7850円
オプション装備:LEDヘッドランプ<ハイ/ロービーム、オートレベライザー付き、フレンドリーライティング作動付き、シグネチャーLEDポジションランプ付き>+フォグランプ<クロムメッキリング付き>(7万3500円)/NissanConnectナビゲーションシステム+アラウンドビューモニター<MOD〔移動物検知〕機能付き>+インテリジェントパーキングアシスト+ステアリングスイッチ<オーディオ、ナビ、ハンズフリーフォン、クルーズコントロール>+BSW<後側方車両検知警報>+ふらつき警報+クルーズコントロール(31万8150円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンエアバッグ(7万3500円)+リモコンオートバックドア<ハンズフリー機能、挟み込み防止機構付き>(5万2500円)+ルーフレール(5万2500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1407km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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