日産エクストレイルG e-4ORCE(4WD)
エンジン良ければすべて良し 2022.09.12 試乗記 “電気自動車の新しいかたち”としてシリーズハイブリッドの「e-POWER」を推してきた日産だが、新型「エクストレイル」で真に注目すべきは縁の下の力持ちとして発電に徹する新型エンジンである。久しぶりに「技術の日産」を目の当たりにした思いだ。4代目は「e-POWER」のみ
今や日産のグローバルでの稼ぎ頭となったエクストレイルの新型がようやく登場した。ずいぶんと遅れた感じがするのは、既に北米では「ローグ」として、さらにエクストレイルとしても1年以上前に中国市場には投入済みで、本拠地の日本が後回しになったからだろう。ここしばらく新型車が少なかった日産にとっては待望の新型ミドルクラスSUVだが、遅れた理由は新しい「e-POWER」パワートレインの完成を待ったからということらしい。
2000年発売の初代から数えて4代目にあたる新型エクストレイルは、先に登場した「三菱アウトランダー」と同様の新世代「CMF-C/D」プラットフォームを採用するが、2705mmのホイールベースは先代と同じ。全幅はわずかに広がったが、全長は前後デザインの変更で30mmだけ短くなった。FWDと4WD、通常の5人乗りに加えて3列シートの7人乗り(4WDのみ)も用意され、ラインナップは幅広いが、パワートレインはすべてエンジンで発電した電気によるモーター駆動のシリーズハイブリッドe-POWERとなるのが特徴だ。
初めての公道試乗会で試すことができたモデルは前後にモーターを搭載する4WDの最上級グレード「G e-4ORCE」である。フロントに最高出力204PS(150kW)と最大トルク330N・m、リアには136PS(100kW)と195N・mをそれぞれ発生するモーターを搭載して4輪を駆動する。ちなみにモーターとブレーキによって各輪の駆動力をコントロールする技術を「e-4ORCE」と称するが、前宣伝が華々しかった「アリア」よりも先にエクストレイルで試すことになった。
VCターボエンジンがスムーズだ!
フロントモーターだけでもBEVの「アリアB6」と同じ204PSだから力強いのは当然ながら、モーターによる静かな走行感覚よりもまず特筆すべきはそのエンジンである。KR15DDT型1.5リッター3気筒直噴ターボエンジンは、VC(可変圧縮比)ターボという通称のとおり、ピストンとクランクシャフトの間に複雑なリンク機構を設けて圧縮比を変化させ(8:1~14:1)高効率を追求したエンジンであり、日産が長年開発してきた自慢のユニットだ。
既に海外向けには4気筒版がインフィニティに、さらに中国向けエクストレイルには同じ3気筒版が搭載されているが、モーターと組み合わせた仕様はこれが初登場、国内向けモデルに積まれるのも新型エクストレイルが第1号である。ちなみに新型e-POWERは続いて欧州向けの「キャシュカイ」に搭載される予定という。これまでのe-POWERは高速性能に難があり(ご存じのように燃費も悪化する)、国内向けのみとなっていたが、新型は平均速度の高い欧州市場でも通用するというわけだ。
1.5リッターVCターボのスペックは最高出力144PS(106kW)/4400-5000rpm、最大トルク250N・m/2400-4000rpmというものだが、巡航時は当然その存在を感じさせないほど静かでスムーズであり、さらにフルスロットルを与えても、健康的な生き生きとしたエンジン音を発して軽々と回る。しかもタイヤと直接結ばれていないにもかかわらず、車速の伸びと同調してリニアに回転が高まり、その場合でも「ノート」などとは違って急にやかましく感じるようなことはないし、3気筒ユニットにありがちなバイブレーションも感じない。そもそもの余裕があることはもちろんながら、フルスロットルでエンジン回転が上昇していく時でさえ、耳障りで苦し気な音を発することはなく、誠にスムーズで、むしろ積極的に回したくなるようなエンジンだ。何だかきつねにつままれているようで、エンジン単体で走っているわけではないから確信は持てないが、これは近年まれな素晴らしい出来栄えのエンジンではないか!
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久々の「技術の日産」
その割には発表資料にも言及は少なくどこか冷淡な扱いに感じられたが、エンジニアにまとわりついて聞いてみると、やはり大変に凝ったエンジンである。そもそも量産エンジン初の可変マルチリンク機構を持つから、素人目には本当に滑らかに回るのか? と心配になるほどだが、連結ピンやリンクブラケットにはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングや浸炭処理などレーシングユニットに使われるような高度な技術が採用されているという。さらにシリンダー壁にはプレミアムブランドが採用するプラズマ溶射コーティングも施されているという。要するに、コストにうるさい日産にしては大変にお金がかかったエンジンなのである。
常に連続的に圧縮比を変化させているというが、爆発圧力がかかっているコンロッドの動きを高精度に緻密にコントロールするのは言うほど簡単なことではない。にもかかわらず、しかも3気筒なのに、これほど気持ちよく回るのなら(リンクのおかげでバイブレーションも抑えられたという)、モーターのための発電用ではなく、エンジンだけで試してみたい、と正直思った。会社としては電動化戦略を積極的に推進しなければならないのだろうが、クルマ好きオジサンとしてはこういう基礎的な要素技術が大好物である。少なくともエンジンを併用する限りは、そのエンジンが基本である。久しぶりに感じた「技術の日産」である。
エンジンがいいと七難隠す?
おかげで従来のe-POWER車でどうしても気になった弱点、すなわち予期せぬエンジン始動や、パワーが必要な時に急に高まるエンジン音、といった点がほぼ払拭(ふっしょく)されている。新型エクストレイルは従来モデルの「タフギア感」に加えて「上質感」を目指したというが、ダイナミックな性能はなるほど洗練されている。Gグレードには19インチタイヤが標準装備されるが、乗り心地もフラットでSUVとしては十分にしなやかと言っていい。頻繁にトラックが行き交う道での試乗ゆえ、e-4ORCEの実力を試せたわけではないが、モーターによる緻密なコントロールの片りんはうかがえた。ちなみに本格的なオフロードでも(ドライブモードはオート/スポーツ/エコ/スノー/オフロード)、まったく問題なしとエンジニアは胸を張っていた。
洗練されたパワートレインに比べると、インストゥルメントパネルまわりはちょっとごちゃごちゃしすぎか、という印象である。レザーもブラックパネルもウッド調トリム(はやりのオープンポアのウッドかと思ったらツルツルのプリントだった)も、と各種素材を欲張りすぎのようで、上質感を演出するにはもうちょっと整理整頓が必要と思われる。
電動化路線をいち早く表明していたメーカーの最新内燃エンジンの出来栄えが素晴らしいのは皮肉というか何というかと戸惑いもあるが(実は「シビックe:HEV」のあれも出色だ)、VCターボはエンジンのみの車種も世界に目を向ければ実は多数あり、エンジン単体でも最新の要求性能を満たす必要があったのだろう。まずは、これまでいろいろあったにもかかわらず完成にこぎ着けたエンジニアの皆さんにお祝い申し上げたい。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産エクストレイルG e-4ORCE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1840×1720mm
ホイールベース:2705mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:144PS(106kW)/4400-5000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/2400-4000rpm
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)/4501-7422rpm
フロントモーター最大トルク:330N・m(33.7kgf・m)/0-3505rpm
リアモーター最高出力:136PS(100kW)/4897-9504rpm
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/0-4897rpm
タイヤ:(前)235/55R19 101V/(後)235/55R19 101V(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3 SUV)
燃費:18.4km/リッター(WLTCモード)
価格:449万9000円/テスト車=514万8835円
オプション装備:特別塗装色<ステルスブラック×スーパーブラック ツートン>(7万7000円)/アダプティブLEDヘッドライトシステム<オートレベライザー付き>(1万1000円)/クリアビューパッケージ<リアLEDフォグランプ>(2万7500円)/ナッパレザーシート<抗菌仕様>(8万8000円)/BOSEプレミアムサウンドシステム<9スピーカー>+ルーフレール+パノラミックガラスルーフ<電動チルト&スライド、電動格納シェード付き>(29万7000円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(7万9800円)/ウィンドウはっ水 12カ月<フロントウィンドウプラスフロントドア>(1万1935円)/ラゲッジトレイ(1万7800円)/デュアルカーペット(3万9800円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:747km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
