ボルボV40クロスカントリー T4 ノルディック(FF/6AT)
見ても乗ってもカジュアル 2014.04.24 試乗記 ボルボのクロスオーバーモデル「V40クロスカントリー」に、高効率エンジンを搭載するFF車が新登場。試乗を通じてわかった、その見どころを報告する。最新ボルボの立派な数字
ボルボのセールスが好調だ。2013年度はトータルで前年比3割増しの1万8223台を売り、輸入車ブランド別ランキングでアウディに次ぐ6位につけた。続く7位はMINI(1万7163台)。都内じゃ頻繁に見かけるようになったMINIより、ボルボは売れているのである。
販売台数急伸の原因は「V40」シリーズ。今までありそうでなかったガチンコ・「ゴルフ」クラスの5ドアコンパクトボルボである。昨年2月の導入以来、大ヒットして、2013年度は1万294台を記録、いきなりボルボの稼ぎ頭になった。
V40には、ノーマルの1.6リッター4気筒FF、2リッター5気筒4WDの「クロスカントリー」、同じエンジンを積むFFの「R-DESIGN」という3タイプがある。発売以来、V40セールスの約2割を占めていたというクロスカントリーに1.6リッターのFFモデルが出た、というのが今回のニュースである。
限定200台で販売される「T4 ノルディック」のエンジンは、ノーマルと同じ180psの直噴4気筒ターボ。ノルディックといえば、ボルボ・カー・ジャパンが以前から使ってきた廉価モデルの名だが、380万円の価格は4WDのクロスカントリーより5000円高い。その代わり、カーナビや電動調節シート(前2席)が標準装備。JC08モード燃費は2リッター4WDの12.4km/リッターから16.2km/リッターに向上し、クロスカントリー初のエコカー減税(約12万6000円分)もゲットしている。
ポイントは「軽さ」
今回は90分という限られた試乗時間で、高速道路も走っていない。その短い経験でいうと、これまでのクロスカントリー“T5 AWD”と比べて軽快感が増したのがT4 ノルディックの印象である。
パワーは5気筒の2リッターターボより33psドロップしたが、それでも1.6リッターターボは180psある。しかも車重は140kg軽い。アクセルを深く踏み込んだときの力強さはT5 AWDにかなわないものの、よりカルく走るカジュアル感がT4 ノルディックの身上だ。
ボルボには5気筒エンジンや4WDがあるので紛らわしいが、ちなみにT4、T5といったグレード名の数字は、気筒数や駆動輪の数ではなく50ps刻みの最高出力を表している。すなわち、150~199psならT4、200~249psならT5である。
ホイールの径はT5 AWDと同じ17インチだが、優に大人ふたり分軽いボディーのせいか、乗り心地もかろやかだ。車検証の前後軸重を見ると、T4 ノルディックは横置き5気筒のT5 AWDよりフロント軸重が100kg軽い。ノーズの軽さをはじめ、身のこなしがより軽快に感じられたことも納得がいく。
145mmの最低地上高はAWDと同じ。もともとクロスカントリーはヘビーデューティーなオフローダーではない。悪路踏破性能の基本ともいえるロードクリアランスもノーマルV40と比べて1cm高いだけである。その意味で、クロスカントリーのFFモデルは最初からあってよかった品ぞろえといえるかもしれない。
「ゴルフ」以外のベストチョイス
室内では、クリーンで乾いた質感のファブリックシートと、銅の色をしたセンタースタックが目を引く。T5 AWDは乗り込むとゴルフよりひとクラス高級なクルマに見えるが、T4 ノルディックはインテリアもカジュアルだ。
安全装備はこれまでどおりで、「ぶつからないクルマ」を目指した“ヒューマンセーフティ”は、新たにサイクリスト検知機能を備えた最新バージョンだ。地上高90cm以上の位置に反射板を付けた自転車ならヒューマンセーフティの追突防止機構が働く。
T4 ノルディックには設定がないが、V40シリーズから導入された歩行者エアバッグも、そこまでやるか!? のセーフティーデバイスである。人との衝突を感知すると、アルミボンネットの後端を瞬間的に開いて、フロントウィンドウ周辺にエアバッグを展開する。“ぶつからないクルマ”だけでなく、ボルボは“ぶつかっても痛くないクルマ”も目指している。
というのは冗談だが、まじめな話、東京オリンピックが開かれる6年後に向けて、ボルボは「ビジョン2020」という目標を掲げている。この年までに新車のボルボでの死亡・重傷事故をゼロにするという大胆な行動プログラムである。つまり、ぶつかっても、ぶつけられても「ウチのクルマじゃ、死なせません」ということ。現在進行形で盛り込まれている安全対策は、その目標に向けての具体策なのである。
個人の感想だが、V40シリーズは「ゴルフじゃない選択」のベストだと思う。ゴルフのようにパーフェクトではないが、そのかわりゴルフよりイケメンで、潤いがある。
1.6リッターFF版クロスカントリーであるこのT4 ノルディックが、じゃあ、同じエンジン+駆動系のノーマルV40(297万2571円~338万4000円)とどれくらい違うのか。短時間の試乗経験では、それほどの差はないと感じたのが正直なところだが、SUV風味をきかせたクロスカントリーのスタイリングが好きだという人は多いだろう。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
ボルボV40クロスカントリー T4 ノルディック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1470mm
ホイールベース:2645mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(132kW)/5700rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94V/(後)225/50R17 94V(ミシュラン・プライマシー)
燃費:16.2km/リッター(JC08モード)
価格:380万円/テスト車=392万7858円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(10万2858円)/ETC車載器(2万5000円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。