ランドローバー・レンジローバー イヴォーク クーペ ダイナミック(4WD/9AT)
4×4からSUVへ 2014.05.08 試乗記 9段ATの採用など、走りの効率が大幅に改善された「レンジローバー イヴォーク」。成功作の進化の方向性を探るために、3ドアのスポーティーな仕様「イヴォーク クーペ ダイナミック」で伊豆を目指した。ヒット作のさらなる進化
ランドローバーの末っ子、「レンジローバー イヴォーク」がいま一番カッコいいSUVであることには誰も異論を唱えないのではないか。パキッとシャープでエッジの効いた大胆かつ斬新なスタイリングは、4WDの老舗の面目を一新したうえに、オンロードでのダイナミックな走行性能、快適性とランドローバーの名に恥じないオフロードでの走破性を両立させており、実際2011年の発売以来世界中でヒット(18カ月で17万台以上売れたという)、今やランドローバーを支える大黒柱となっている。
そのイヴォークが乗用車としては世界初という9段(!)オートマチックトランスミッションを備えて2014年モデルとしてバージョンアップした。狙いは効率と洗練度をさらに引き上げること。9ATに加え、通常走行時にはFWDに切り替える「4WDアクティブ・ドライブライン」を備えたこともあって、JC08モード燃費は従来型の9.0km/リッターから10.6km/リッターに一気に向上、CO2排出量も217g/kmへ19%削減されたという。人気の「コンパクトプレミアムSUV」だからこそ、ランドローバー唯一の弱点と言える燃費についても改良の手を休めるわけにはいかないのだ。
それでも、個人的には今なおランドローバー各車をSUVと呼ぶことにはちょっと抵抗がある。斬新でクールなスタイルがどれほど都会に似合っているとしても、レンジローバーの名が付いているからには、イヴォークの上下に薄いウインドシールド越しに見たいのはハイウェイではなく世界の果ての荒野である。これまでナミビアの大砂丘やアイスランドの原野など極めつけのオフロードで、いやと言うほど思い知らされたランドローバーの能力を思えば、SUVという呼び方はふさわしくないというか、一般的に過ぎるような気がする。そもそもランドローバー自身、SUVと称するようになったのはごく最近のこと、それまでは4×4(フォーバイフォー)と名乗っていたのだが、最もコンパクトなイヴォークにはついにFWDモデルも本国ではラインナップされているから4×4とは言い切れなくなったのかもしれない。
燃費のためのオンデマンド式
従来のアイシンAW製6ATに代えて新たに搭載されたZF製の横置きエンジン用9ATは、数年前に同社が発表していたもので、スタート&ストップシステムやハイブリッドにも対応可能という最新世代AT、しかもZFでは“ECOnnect”と呼び、ランドローバーは「4WDアクティブ・ドライブライン」と称するFWD/4WD切り替えシステムも装備し、より一層の燃費低減を図っている。
4WDのスペシャリストたる、あのランドローバーでさえもいわゆるオンデマンド式の“ちょっとだけ”4WDシステムに宗旨替えしてしまったのか、とちょっと寂しく感じもしたが、確かにドライのオンロードでの通常走行時に2WDに切り替えれば燃費に有利なことは言うまでもない。無論、必要な場合にはわずか300ミリ秒で4WDにすかさず復帰するシステムであり、また車速180km/h以上になると自動的に4WDになるという。さらに自慢のテレインレスポンスであらかじめモードを選択すれば、雪道や砂地、マッドなど状況に応じたトランスファー(ハルデックス)のセッティングに最適化されることは既に定評のあるところ、それゆえオンデマンド式でもユーザーにとって実用上のデメリットはないと判断されたのだろう。
もちろんイヴォークも、目の当たりにすると泣きそうになるようなランドローバーのテストコースで鍛えられ、車体が傾いた状態で延々とアイドリングを続けて冷却や潤滑に問題がないことを確認する耐久テストなどを受けているはず。今回はオフロードの走破性を試すチャンスはなかったが、その点では4WDの名門の暖簾(のれん)を信じていいと思う。
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9段の恩恵は?
日本仕様のエンジンはこれまで通り240ps(177kW)/5500rpmと34.7kgm(340Nm)/1750rpmを生み出す4気筒2リッター直噴ターボである。従来の6ATモデルでも、実用域での十分なトルクを利してスムーズで軽快な走行性能を身につけており、車高の高さを感じさせない安定したハンドリングもイヴォークの特徴だった。その点、6から9へギア数が増えた新型がどう変わったのか注目されるところだが、普通に運転している限り、はっきりその差が分からないというのが正直な感想だ。もちろん目まぐるしく変速しているはずだが、あまりに素早く、かつ滑らかにシフトしているのでショックも音もほとんど感じ取ることができない。同様に従来に比べて加速が鋭くなった、というほどの違いも感じられない。あくまで黒子に徹している印象である。
はっきりと異なるのはクルージング時のエンジン回転数だ。例えばトップギアで100km/h時の回転数は1600rpm(同じく8速は1900rpm、7速は2200rpm)。従来の6ATモデル(6速でおよそ2000rpm)でも2リッター4気筒としてはかなり低かったものの、新型はさらに低く、当然ながら高速巡航時には効果を発揮するはずだ。“はず”と言ったのは、都内から伊豆山中を往復した今回の試乗の平均燃費では指摘できるほどの違いが表れなかったからである。JC08モード燃費は前述の通り、9.0km/リッターから10.6km/リッターに向上しているが、300kmほどの試乗の実際の平均燃費は8.5km/リッター、高速道路を流れに乗ってクルーズしている際の車載コンピューター燃費は11.5km/リッターを示した。軽量設計とはいえ1.8トン近くの車重を持つこの種のSUVとしては優秀ではあるが、従来型と比べてこの数字が明らかに向上していると言い難い。もう少しサンプル数が必要だろう。
SUVにもいろいろある
9段に増えたギア数は実はオンロードだけではなく、オフロードでもメリットがある。高い方のギアはオーバードライブギアとして巡航時の回転数を下げるいっぽう、低いギアはより低く、つまり本格的な悪路に踏み入る場合のスーパーローギアのように、しかも副変速機を用いずに設定することができるからだ。実際に従来の6ATモデルと新型のオーバーオール・ギア比(ファイナルレシオをかけた数値)を比べてみると、従来型の1速=15.555に対して新型は21.415とさらに低く、対してトップギアの9速(2.181)は従来の6速(2.572)に比べてより高くなり、結果的に広い範囲をカバーしていることが分かる。
新型イヴォークにはアンダーステアを抑える“トルクベクタリング”機能が備わり、またこの車にはマグネライド可変ダンパーを含むオプションのアダプティブダイナミクスも装備していたせいで、巨大なタイヤを持て余すことなく、フラットで安定した姿勢のままヒラリヒラリと軽快にコーナリングすることができた。オンロードのハンドリングがよりイージーな方向へ洗練されたことは確かである。
一般の新聞紙上で、SUV=“多目的スポーツ車”あるいは“スポーツ用多目的車”という訳語を見つけるたびに、苦しい感じが伝わって何となく気の毒になる。日本人はできるだけ明快にラベル付けしたがるが、当のアメリカ人たちはあまり気にしない、というより都合よく使い分けている。メーカーがSUVと言っても、当たり前だがその中身はさまざまだ。世の中に溢(あふ)れる、車高をちょいと上げただけの4WD風SUVとは一線を画しているからこそ、イヴォークの値段は高いのである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク クーペ ダイナミック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1900×1605mm
ホイールベース:2660mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103V/(後)245/45R20 103V(コンチネンタル・コンチクロスコンタクト)
燃費:10.7km/リッター(JC08モード)
価格:625万円/テスト車=791万9000円
オプション装備:インテリアトリム・フィニッシャー(グロスブラック・ストラータ)(3万1000円)/アダプティブダイナミクス(13万4000円)/20インチ スタイル7アロイホイール(7万8000円)/ラゲッジスペース・レール(2万1000円)/PRESTIGE/DYNAMICテクノロジーパック(29万8000円)/DYNAMIC PLUSパック<PRESTIGEシート仕様>(56万6000円)/ウェイド・センシング+ブラインド・スポットモニターおよびリバース・トラフィック・ディテクション(14万3000円)/アドバンスド・パークアシスト(12万7000円)/8型デュアルビュー・タッチスクリーン・ディスプレイ(8万2000円)/アダプティブ・クルーズ・コントロール<ACC>(18万9000円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:2546km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:351.5km
使用燃料:41.2リッター
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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