マセラティ・クアトロポルテS Q4(4WD/8AT)
ドライバーズサルーンの白眉 2014.05.29 試乗記 マセラティのプレミアムセダン「クアトロポルテ」。同社の歴史上初となる4WDモデル「S Q4」をテストした。プレミアムセダンのトレンドを取り入れた
年間販売台数を2012年実績の8倍にもなる5万台まで引き上げるという野心的な目標の達成のために、マセラティは目下きわめてアグレッシブに攻めている。まずは車種ラインナップを拡大。新たにミディアムクラスセダンの「ギブリ」がデビューし、主力商品だった「クアトロポルテ」は上級移行を果たした。
今、プレミアムセダンの世界で確実にトレンドとなりつつあるフルタイム4WDモデルが充実してきていることにも注目したい。昨今のこのセグメントのモデルはいずれもハイパワー化が進み、もはや後輪駆動では賄いきれなくなっている現状や、ビジネスエクスプレスには条件を選ばない走破性がますます強く求められていること、さらには新興国需要まで考慮に入れるならば、その重要さも理解できる。
クアトロポルテとギブリに用意される、マセラティが「S Q4」と呼ぶフルタイム4WDシステムは、V型6気筒3リッター直噴ツインターボユニットと組み合わされる。最高出力410ps、最大トルク56.1kgmを発生するこのエンジンの出力はまず8段ATへと伝達され、続いてその後端に置かれた電子制御式油圧多板クラッチによって前後輪へ分配される。前後駆動力配分は0:100が基本で、ドライビングスタイルや路面状況などに応じて変化する。
興味深いのは、エンジン搭載位置をできる限り下げるために、フロントデフから左右輪に向けて伸びるドライブシャフトが、オイルサンプの中を貫通するかたちでレイアウトされていること、そしてリアには機械式LSDが装備されていることだ。総じて高い走行安定性だけでなく、自由度の高いハンドリングも志向されていることが見て取れる。
クアトロポルテらしさは健在
それにしてもクアトロポルテ、大きくなった。何しろその全長は、先代より150mm以上も長いのだ。伸びやかな、個人的にはやや間延びした……と言いたい気もするスタイリングがその大きさをさらに強調しているという面もある。インテリアも同様に、従来と比べると強い個性は抑えられ、あっさりまとめられている。
しかし、ひとたび走りだせば、クアトロポルテらしさは健在でうれしくなった。まず好印象なのは、そのエンジン。低速域からトルクが出ていて扱いやすいだけでなく、右足の動きに即応して軽やかにレスポンスし、しかも乾いたサウンドが何ともソソるという具合で、それだけで気分が高揚してくる。
参考までに「クアトロポルテGT S」のV型8気筒ターボユニットは最高出力530ps、最大トルク72.4kgmと力強さでは上手なのだが、スポーツユニットとしてのイキイキとした感触は、むしろV型6気筒の方に軍配があがる。コラム固定式のシフトパドルも、これなら大いに活用できる。
ではハンドリングはと言えば、普段はほぼFRに近い前後駆動力配分で走行するため、ほとんどフルタイム4WDと意識させることはない。その威力が発揮されるのは、より限界に近い状況。実は以前、アルプスの麓の雪上でステアリングを握っているのだが、この時には、わずか150ミリ秒という、後輪のスリップを感じるより早いタイミングで前輪に駆動力が伝わることによる発進の容易さ、よく曲がる一方、コーナー出口でアクセルペダルを踏み込むと、後輪を軽く流しつつも前輪でクルマを引っ張り出して安定させる絶妙なコーナリング姿勢に、大いに感心させられたのだった。
そういえばクアトロポルテGT Sでは、思い切り攻めると車体の大きさを意識させないニュートラルステアのコーナリングを楽しめる一方で、調子に乗り過ぎればリアの流れ方も大きいという印象だった。きっとそうした場面でも、不安を感じさせることはないはずだ。
「誰にでもお薦め」ではないが
その大きな体躯(たいく)も、フルタイム4WDであることも、普段は強く意識させないのがクアトロポルテS Q4である。もちろんアルプスでの経験からすれば、必要な時にはすっと手を差し伸べてくれるはず。しかし、その時ですらも単に安定方向に導くだけでなく、操る喜びを損なわない、いやそれどころか引き延ばす方向にフルタイム4WDが生かされている。
マセラティというのは、つまりこういうブランドなのだ。ある意味、フルタイム4WDという条件の下で、ブランドにとって譲れないものがより明確に表現されたと言うこともできるかもしれない。
何しろ目標とする数字の規模が半端じゃないだけに、これまでよりきっと“やらなければならないこと”のリストは長くなっているはず。自由闊達(かったつ)なクルマづくりという意味では、ある意味で足かせとなっている部分もあるのではないかと想像する。
しかしながらマセラティの面々は、スピリットを失ってしまうどころか、それをうまく利用して、これまでなかった新しいマセラティらしさを表現しようと試み、そして見事にそれに成功した。
これなら定番であるドイツやイギリスのサルーンではなく、あえてイタリアのマセラティを選ぶ十分な理由になる。押さえておいてほしい基本はクリアしつつ、他ではなくこのクルマじゃなければならない理由がしっかりある。誰にでもお薦めだなんて言う気はないが、ビジネスエクスプレスにも趣味性を強く反映させたいという人は、まず試してみてはと言いたい。
突き抜けるようなエグゾーストノートを響かせ、ちょっとスリリングなハンドリングでこそという先代にほれ込んでいるユーザーだって、この走りにはきっと……と思うのだが、さすがに内外装のだてっぷりでいえば先代にはかなわないという印象は否めない。個人的にも、そこだけはちょっと惜しいなと思うところなのだけど。
(文=島下泰久/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
マセラティ・クアトロポルテS Q4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5270×1950×1470mm
ホイールベース:3170mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:410ps(302kW)/5500rpm
最大トルク:56.1kgm(550Nm)/1700-5000rpm
タイヤ:(前)245/45ZR19 98Y/(後)275/40ZR19 101Y(ダンロップSP SPORT MAXX RT)
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:1363万円/テスト車=1426万9198円
オプション装備:マイカペイント(15万5952円)/ギアシフトパドル(12万4146円)/INOXスポーツペダル(6万7716円)/アルカンタラ・ルーフ・ライニング(20万70円)/ウッドトリム(9万1314円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3843km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:232.4km
使用燃料:55.7リッター
参考燃費:4.2km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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