マセラティ・クアトロポルテS グランスポーツ(FR/8AT)
伊達男も努力する 2018.02.22 試乗記 マセラティのフラッグシップサルーンである「クアトロポルテ」。2018年型では、3リッターV6ツインターボエンジンが430psの最新仕様にアップデートされたほか、先進運転支援システムが充実した。イタリアの伊達(だて)男も努力しているのだ! 「クアトロポルテS」をスポーティーに仕立てた「グランスポーツ」に試乗した。ダンディズムは細部に宿る
昨年末に登録された2018年モデルのクアトロポルテSである。外観ではヘッドライトがフルLEDになったことが新しい。テスト車は17年モデルで導入された「グランルッソ」とグランスポーツの2種類のトリムオプションのうちの後者で、内外ともにたいへんスポーティーな仕立てになっている。
こんにちスポーティーな仕立てというと何を指すか、見本のような男っぷりだ。足元のホイールは「チターノ合金」製で、トライデントを思わせる3本×5方向で構成されている。なんと21インチ! 奥に赤いキャリパーがチラリとのぞく。薄いタイヤは前245/35、後ろ285/30のZR規格の「ピレリPゼロ」。赤と黒の対照がなにごとかを訴えかけてくる。
グランスポーツを象徴するのが、トライデントエンブレム、三又の鉾(ほこ)の3本のツノの下の水平線の一部がブルーに塗色されていることだ。1920年代、ということはアルフィエーリを筆頭とするマセラティ3兄弟が奮闘していた創業初期に使われていたデザインだという。マセラティのファンならこれだけで感涙だろうし、知らない人にとっては、美は細部に宿る、と申しましょうか、小さなひと手間によってダンディズムはつくられることの証左になるのではあるまいか。
3リッターV6は430psへ
ドアを開けると、真っ赤なレザーにほれぼれとする。黒のボディーに赤の内装はひとつの定番だけれど、マセラティの黒と赤は一味違うように思われるのはブランドの持つ魔力だけではなくて、革の選びや染色その他につくり手のこだわりがあるからだろう。
試乗車は右ハンドルで、マセラティがいかにインターナショナルになっているかを示す。その隣のスターターボタンを押すと、革巻きのそのステアリングホイールとシートが自動的に動いてドライバーを歓待してくれる。これは初代「レクサスLS」が導入した「おもてなし」だと筆者は記憶するけれど、目覚めたエンジンは明瞭な呼吸を感じさせるもので、タダものではないことを知らしめる。
このモデナ製60度のツインターボこそ、現代のマセラティを輝かしめる精華であり、文字通りエンジンであって、そのエンジンにいっそう磨きがかけられている。ご存じのように「GT S」がV8なのに対して、「S」はV6を搭載する。それも、スタンダードのV6が最高出力350ps/5500rpm、最大トルク500Nm/1750-4500rpmであるのに対して、2018年モデルのSはそれぞれ430ps/5750rpm、580Nm/2250-4000rpmに強化されている。2018年モデルは前年度のモデル比プラス20psと30Nmを手に入れているのだ。
ひとたびエンジンを吠えさせれば……
クアトロポルテは全長5270×全幅1950×全高1470mm、ホイールベース3170mmという巨体の持ち主である。にもかかわらず、外から見ても運転席に座っても、大きさを感じさせない。イタリアンデザインのマジックというほかない。このクルマ、「メルセデス・ベンツSクラス」よりも、全高が若干低いことを除けば、わずかながら数値的にはでっかい。もっともSクラスにしてもさほどでっかく見えない、ということを書き出すと話がややこしくなるだけですね。
フェラーリが設計した先代クアトロポルテは、まさにフェラーリが設計した4ドアだったわけだけれど、現行モデルはFCAが設計した4ドア、つまりもう少し幅広いオーナー層を対象にしていることは明らかで、カミソリのごときシャープさを備えていた先代に対して、同じカミソリでも、こちらは5枚歯の安全カミソリぐらい安定感がある。なにぶんスポーティヴネスに振っているため、低中速では細かいピッチングというか微妙なハーシュネスが気になる。「スカイフックサスペンション」をもってしても、いわゆるバネ下の巨大な21インチのホイール&タイヤを制御しきれなかったと見える。
しかるに、V6エンジンを一度高らかに吠(ほ)えさせれば、そういうことはどうでもよくなる。たいした問題ではない。すっかり忘れる。忘却は人間の美徳である。イタリア的「甘い生活」神話は、21世紀の房総半島でも生きている。そこにボローニャの石畳はなくとも、マッジョーレ広場のネプチューン像を幻視する。というのはウソだけど、ま、それぐらいイタリア気分、イタリアの伊達男気分が味わえるのは本当です。
ADASの仕上がりもイタリア的!?
と、ここからが肝心である。クアトロポルテ2018年モデルの最大のハイライトは、安全装備面、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)と呼ばれる先進運転支援システムをレベル2に引き上げたことにある。正直に申し上げて、プラス20psと30Nmの向上について筆者はよくわからなかった。なんせ初めてクアトロポルテSに乗るもので……。
ADASはすでに2017年モデルで採用されていた。けれど、これまではレーン・デパーチャー・ウォーニングどまりだった。これがレーン・キープ・アシスト(LKA)に進化した。「先進運転支援システムをレベル2に引き上げた」とはつまり、自動操舵(アシスト)機能が付加されたことを指す。これに併せてマセラティとしては初めてEPS(電動パワーステアリング)を、「ギブリ」「レヴァンテ」ともども、つまりADASを装備するモデルすべてに採用した。
このEPSについてもっと早く記しておくべきでした。試乗中、EPSについて知っていたけれど、まったく意識しなかった。なんとなれば、デキがよいからである。
しかしながら、LKAについては、まだ始まったばかりの段階にある。走行中、LKAを作動させてみると、たとえば路面が何らかの理由で傾いていたりして、クルマが左側の白線を感知すると、ステアリングがクイッと右に動いて内側に車両をとどめようとする。でも減速はしない。速度はそのままである。そうすると、今度は右側の白線を感知することになって、クイッと左に動く。つまり、つねに車線中央を走るようにはできていない。白線を感知するたびに、ピンボールのボールのように、というともっとあっちこっちに跳ねることになるけれど、あたかもそんな感じで反対側に跳ね飛ばされる。現段階では人間=ドライバーを機械の上位に置く、その意味ではきわめてイタリア的といっていいシステムで、筆者なんぞはむしろ、これでいいんじゃないの、と思ってしまう。自動運転には遠いけれど、警告としては目がさめる効果があるわけだし。
交通標識認識(TSR)というのも初採用されていて、これは制限速度の交通標識も読み取ってくれる。だけど、房総半島の富津岬へいたる県道90号線に、色は違うけれど、円形のなかに90と書いてある標識が立っていて、それを制限速度90km/hと誤読して、これまたイタリア的といってよい愛嬌(あいきょう)をふりまいてくれたりもした。
マセラティのようなイタリアの伊達男ブランドは、自動運転分野において頑固なまでに保守的、むしろ遅れているほうがよいのではないか、と個人的には思うけれど、メーカーとしてはそうもいかない。まして、このクラスはSクラスをはじめとするドイツ勢と互していかなければならない。どんな分野であれ、努力の継続こそが力となる。2018年モデルでマセラティはそれを見せているのである。伊達男なのにね。
(文=今尾直樹/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
マセラティ・クアトロポルテS グランスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5270×1950×1470mm
ホイールベース:3170mm
車重:2000kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:430ps(316kW)/5750rpm
最大トルク:580Nm(59.1kgm)/2250-4000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR21 96Y XL/(後)285/30ZR21 100Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:9.6リッター/100km(約10.4km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:1553万円/テスト車=1718万4362円
オプション装備:ドライバー・アシスタンス・パッケージ(16万2000円)/カーボン・トリム(16万5927円)/21インチ・チターノ・ホイール(40万5491円)/マイカ・ペイント(16万0036円)/リア・ドア拡張キーレス・エントリー(2万2581円)/アルカンタラ・ヘッドライニング(20万5200円)/フル・レザー・インテリア(48万0109円)/ヘッド・レスト・トライデント・ステッチ(5万3018円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2974km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:220.6km
使用燃料:36.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/6.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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