第353回:クルマ好き目線で行こう!
紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」
2014.06.27
マッキナ あらモーダ!
マセラティのポロウエア
世界最大級の紳士モード見本市、第86回「ピッティ・イマージネ・ウオモ」が、2014年6月17日から20日までの4日間、イタリア・フィレンツェで開催された。
2015年春夏のコレクションを占う今回は、世界約30の国と地域から1030ブランドが参加した。多くのイタリア系ブランドは、ラペル(襟)の粗いステッチ使いなどでサルト(仕立屋)の伝統を感じさせるとともに、流行色のブルーやデニムの多用で機能性の追求をさらに高めていた。
このイベント、昨夏はジュリアン・セルッティとのコラボレーションで、イタルデザイン・ジウジアーロのコンセプトカー「パルクール」が展示されたが、今年もクルマと関連した話題に事欠かなかった。
まずは、町おこしの連動企画として行われたのが「フィレンツェ・ホームタウン・オブ・ファッション」である。イタリアデザイン文化の豊かさを物語る一分野として、この国を代表するカーコレクターのひとり、コッラード・ロプレスト氏によるワンオフのコレクション10台が展示された。場所はなんと、ミケランジェロのダヴィデ像があることで有名なシニョリーア広場だった。
いっぽう本会場で最も話題となった自動車関連といえば、「La Martina(ラ・マルティナ)」とマセラティによるリレーションシップである。ラ・マルティナは1986年設立で、自国アルゼンチンをはじめ数々のポロクラブにおけるウエアのオフィシャルサプライヤーとして有名なブランドだ。
今回発表したのは、マセラティ100周年の今年企画された「センティニアル・ポロ・ツアー」を記念してデザインされたものだ。すでに開催済みのパームビーチ、北京、ロンドン、7月開催のモンテカルロ、そして来年のアラブ首長国連邦、それぞれをイメージしたリミテッドエディションのウエアである。
ちなみに、両社にとって、競技の宣伝効果は上々のようだ。6月に開催されたロンドン戦では、ウィリアムとハリーの両王子が腕前を披露して話題となった。さらに、関係者の話によると、既開催の各地では、マセラティ車のオーダーが毎回3、4台入っているという。
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ファッション性と機能性
クルマ好きなら気になるのは、ドライビングシューズであろう。このカテゴリーでも、見る者を楽しませてくれたブランドが数々あった。
まずは「HARRYS OF LONDON(ハリーズ・オブ・ロンドン)」によるモカシンのドライビングシューズ「JET DRIVER(ジェットドライバー)」の新作である。基本わずか3パーツで構成されたシンプルなストラクチャーにおける最大の注目点は、底から側面に向かって上がる個性的なラバーソールだ。
実際に作るのは、すでに同社と関係が深いイタリアのラバーソールメーカー「Vibram(ビブラム)」だが、今回のプロジェクトは彼らの深い関心を呼び起こし、ブランドサプライヤーの枠を超えた協力関係が築けたという。クリエイティブディレクターのケヴィン・マーテル氏の言葉を借りれば、その結果「足が完全に包み込まれる」感覚が実現できた。
いっぽう「ATLANTA MOCASSIN(アトランタ モカシン)」は、1987年ポルトガルに設立されたブランドである。最大のチャームポイントは、ドライビングシューズには珍しい、インソールに備えられたクッションだ。ベビーシューズから創業したメーカーならではである。子供靴や婦人靴もラインナップするため、家族全員トータルなルックで楽しめるのも強みという。受注による商品は、ペブルラバー(靴底のボツボツ)の色も選べる。日本で先に知名度を上げたドライビングシューズのブランドと比べ、よりリーズナブルな価格も魅力である。
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プロモデルが立ち上げたのは……
そうしたプロダクトを見学しながら、会場を歩いていたときである。しゃれたベストを身につけた、ナイスなお兄さんが歩いてきた。よく見ると大理石柄だ。呼び止めて写真を撮り終えると、エルビオさんという彼は「あとでスタンドにも寄って寄って!」と言う。
ランチの後、訪ねてみると、本当にベスト屋さんであった。聞けばエルビオさんは大学の経済学部を卒業後、ドルチェ&ガッバーナのショーなどで活躍してきたプロファッションモデルであった。もちろん今も現役。どうりで写真を撮るときのポーズが決まっていたわけだ。
そしてこのたび、建築家のエドアルドさんと、クリエイティブディレクターのアダさんとで、ブランド「レタスカ」を立ち上げたという。もちろん、モデルはエルビオさんが務める。少人数ながら最強のチームである。
ベストはリバーシブルで、素材やポケットなど機能性は軍用ベストをお手本にしている。同時に「仕事が終わったらスーツの下に着たままで、パーティーに出られるスタイリッシュさ」をアピールする。サイクリストやモーターサイクリストにもアピールしていきたいという。
10個のポケットのうち、ひとつはタブレットPCサイズを確保し、さらに背側にも薄型ノートPCがすっぽり収まるポケットが付いている。狭いわが家のレイアウト上、少し前まで酷暑の日でも女房が使うPCの放熱をもろに浴びていたボクである。「熱をもったノートブックPCをベストに入れて、ホカロン代わりに」という妙案を思いついた。
だが、どんな重量物を入れても涼しい顔をして歩ける、エルビオさんのようなたくましい体格づくりが必要であろう。ファッショニスタへの道は長い。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里<Mari OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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