第247回:大型トラック/バスの先進安全技術を体験
日野安全技術試乗会リポート
2014.07.02
エディターから一言
乗用車ではここ数年で「衝突被害軽減ブレーキ」や「車線逸脱警報装置」などの安全装備が急速に普及してきた。
では、万一の際により重大な事故となりやすい大型車の安全装備はどうなっているのか、日野自動車が開いた説明会に参加し、実際に体験試乗してきた。
大型車では義務化へ
最近では軽自動車にまで搭載され始めている衝突被害軽減ブレーキ。
レーザーやレーダー、カメラなどで前方を監視し、障害物や前方車両との衝突の危険性が高まると自動的にブレーキをかけて、衝突を回避したり衝突時の被害を軽くしたりするこのシステムが、一般の乗用車に先駆けて大型車で装着が義務づけられる。
衝突被害軽減ブレーキシステムの搭載が義務化されるのは2014年11月からで、まずは車重22トン以上のトラックと13トン以上のトラクター、12トン以上のバスの新型生産車が対象。これ以外に該当する大型車にも順次装着が義務化される。
これにともない、日野は大型トラック「プロフィア」と大型観光バス「セレガ」のマイナーチェンジに合わせて、衝突被害軽減ブレーキ「PCS(プリクラッシュセーフティ)」の性能を向上させるなど、安全装備の充実を図った。
一般乗用車よりも先に大型車で義務化されるのは、衝突被害軽減ブレーキ装着によって死亡事故件数の大幅な削減が見こまれるからだ。
国土交通省のデータによると、大型トラックによる事故の50%は追突事故で、追突事故の死亡率は乗用車のおよそ12倍だという。
大型トラックに衝突被害軽減ブレーキを装着することで、被追突車両の死亡事故件数を約8割減らすことができると同省は試算している。
確かに、渋滞の末尾に大型トラックが追突し、帰省中の家族が犠牲になるという事故がしばしばニュースになる。
こうした事故を減らすために、衝突被害軽減ブレーキの装着が有効なのは間違いないだろう。
日野は2006年に商用車としては世界で初めて衝突被害軽減ブレーキを取り入れたメーカーだ。プロフィアとセレガにもすでに装備していたが、これまでは停止している前方車両にのみ対応していたものを、新型では渋滞などで低速走行している車両に対しても衝突回避の支援が可能となるよう機能を強化することで、国土交通省の定める2014年11月適用の新基準に適合させた。
プロフィアとセレガに装着されるPCSは、ミリ波レーダーを使用する。今回の改良では、先行車との速度差が50km/h以下の場合に衝突回避する機能を追加している。
また、赤外線LEDとカメラによりドライバーをモニタリングし、居眠りや注意散漫を警告する「ドライバーモニター」の精度も向上させた。
さらに、車線逸脱警報装置のカメラを高解像度化させ、より少ない逸脱量でも警報を発することを可能としている。
バスに乗ってテストコースへ
安全技術に関するレクチャーの後は、いよいよ体験試乗だ。
これまで、私は何度か乗用車でこうした安全装備を体験したことはあるが、大型車では初めてである。
まずはドライバーモニターの動作を実車で説明してもらう。
ドライバーが脇見をしたり、目を閉じたりすると計器パネル上のモニターに警告が表示され、アラームが鳴る。
会場には、ドライバーの動きをどう認識しているかを解説するため、特別に大型モニターが用意されていた。
ドライバーが目を閉じると、モニター脇にある目の開度を示すバーが「0」を示す。まばたきをした際には一瞬だけバーが消えるところを見ると、感度はかなり高いようだ。目の大きさには個人差があるが、もともと細い目の人か、大きい目の人かを自動的に認識し、それに合わせて開度を検知する仕組みになっているそうだ。
まばたきではなく一定の時間以上目を閉じていると警報音が鳴る。この警報音は、指向性の高いスピーカーから発せられるので、ドライバー以外には聞こえにくくなっている。
またこのシステムは、居眠りだけでなく脇見をしていても警告される仕組みになっている。
ドライバーモニターはPCSとも連動しており、ドライバーの注意力が低下している状況で先行車がいる場合には、PCSの作動を早めるように設定されているそうだ。
続いてわれわれはバスに乗ってテストコースへと繰りだした。
実際に乗客として座席に座った状態で、ドライバーモニターやPCSの動作を体験するためだ。
バンクのついた周回路をバスで走るのは初めてだったので、そのスピード感にまず驚いた(というか楽しんだ)。
バスは直線道路に入り、60km/hほどで道路上に置かれた模擬障害物に向かってゆく。ここでドライバーはわざと脇見運転をする。ピピピピという警報音が聞こえ(先述したように本来はドライバーにのみ聞こえるのだが、この試乗会では乗客にも聞こえるようにされている)、その直後に急ブレーキがかかった。
減速力はかなりのもので、身構えていたにもかかわらず体が前に大きく振られた。
もしこれが立っている状態であれば、おそらく転倒してしまうだろう。それを考慮して、今回の義務化では、立っている乗客も想定される一般の路線バスについては対象から外されている。
続いて、低速走行中のダミー車に対してPCSの動作を体験する。
ノロノロ走行の渋滞末尾に追突するという、大型車でよく起こりやすい事故を模したテストだ。
バスは先ほどと同様に60km/h、先行車は30km/hで走行している。先行車との距離がぐんぐん近づき、「ああ、あぶない!」と通常なら思うくらいの距離でバスは急減速した。
テストコースに降り、車外からも動作を見学したが、大きな車体がギュッと沈む様子に減速力の高さを感じ取ることができた。
プロドライバーは眠気との戦い
大型車の事故といえばまず思い浮かぶのが、2012年に関越自動車道で起こったツアーバスの居眠り運転事故だ。乗客7人が死亡するという、大変痛ましい事故となってしまった。
私は、バスではないがタクシーやハイヤーの運転手をしていた経験がある。そのため、この事故が人ごととは思えない。もし自分がこの運転手の立場だったらどうなっていただろうかと考えると、複雑な思いがある。
プロドライバーの場合、いかに眠気と戦うかがどうしても大きな問題になってしまう。
もちろん、体調管理をしっかりして仕事中に眠気を催さないようにするのが基本だが、どんなに体調がよくても眠気というのはやってきてしまうものだ。
ましてや繁忙期ともなれば体への負担も大きくなり、眠気がより近いものになってくる。
これはドライバーならばだれでも同じだと思うが、特にプロの場合は休憩を取って眠るということがしにくい立場にある。高速バスの運転手が「ちょっと眠いので30分休ませてください」なんて絶対に言えないし、荷物を運ぶトラックも、物流が厳密に管理された現代では時間厳守が鉄則だ。
本当は眠ければ休むべきなのだけれども、プロドライバーはどうしても「まだいける、もうちょっと大丈夫」と思ってしまう。
眠気は判断力を低下させ、「前に進みたい、早く到着したい」という気持ちに支配される。そういった時に、警告によって自分が危険な状態だと気づくことができるというのは、文字通り「目が覚める」思いだろう。
もう一つ、これはいいなと思ったのが、警報音を乗客に聞こえないようにしている点だ。
乗客にも危険を知らせた方が安全だという考え方もあるだろうが、もしそうした場合は、頻繁に警報音が鳴らないよう、危険検知のレベルを低く設定することになってしまうだろう。それではこのシステムの効果は大きく下がってしまう。
ただ、ある程度警告してもドライバーが反応しない場合は乗客にも知らせるというようなシステムも備えた方が、より安全につながるのではないだろうかと思う。
ともかく、技術の進歩によって大型車の安全性も飛躍的に高まっているのは歓迎すべきことだ。
既存の大型車にも、後付けでこうした安全装備を追加できるような技術が開発されれば、より多くの命を救えるだろう。技術者のみなさん、がんばってください! 応援していますので。
(文=工藤考浩/写真=郡大二郎)
