最終戦アブダビGP「成長したハミルトンに、2度目の栄冠」【F1 2014 続報】
2014.11.24 自動車ニュース ![]() |
【F1 2014 続報】最終戦アブダビGP「成長したハミルトンに、2度目の栄冠」
2014年11月23日、アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1世界選手権第19戦(最終戦)アブダビGP。今季最速マシンのメルセデス「W05」を駆るルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグによる頂上決戦は、ハミルトンが優勝し決着。29歳のイギリス人ドライバーが、2008年以来となる2度目のチャンピオンとなった。
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■チームメイト対決、いよいよ最終章へ
全19戦の2014年F1シーズンは、中東アブダビで最終戦を迎えた。2008年以来、2度目のワールドチャンピオンの座を狙うルイス・ハミルトンと、初タイトルにチャレンジするニコ・ロズベルグ、2人のメルセデス・ドライバーによる王座決定戦となった。
前半に4連勝、後半は5連勝し、これまでの18戦で10勝を挙げているハミルトンは334点。一方でポールポジション10回、前戦ブラジルGPでハミルトンの連勝を止め、今シーズンの勝利数を5としたロズベルグは317点。その差は17点だ。
1勝=25点と考えれば、ハミルトンが断然有利なポジションにいると言えるかもしれないが、今年はショーアップを目的に採用された「最終戦に限りダブルポイント」という大胆なルールにより、状況は変わっていた。
仮にロズベルグがアブダビで優勝すると317+25×2=367点、ハミルトンは2位でフィニッシュして334+18×2=370点となり、3点差でハミルトンがタイトル獲得となる。たが、もしハミルトンが3位に終わると、今年誰よりも多く勝っているドライバーが3点差で栄冠を逃すことになる。
ちなみに通常のポイントシステムであれば、ロズベルグのタイトル獲得条件は「自らが優勝し、ハミルトンが7位以下」。ダブルポイントがロズベルグに有利に働いていたことが分かる。
2014年の最速マシンである「W05」をもって、既にメルセデスは、マクラーレンの年間記録を塗り替える1-2フィニッシュを11回達成していた。アブダビでもハミルトンかロズベルグのどちらかが勝つ可能性は高いとみられ、1-2フィニッシュの場合はハミルトンがチャンピオンになれるわけだが、開幕戦オーストラリアやカナダでハミルトンに起きた、シルバーアローのアキレスけんである信頼性に問題が出ればまた別の展開もあり得た。
タイトル決定戦の難しさを知っているのはハミルトンだ。デビューイヤーの2007年最終戦、ポイントリーダーとしてレースに臨むもスタートから順位を落とし、結果、一番タイトルから遠かったキミ・ライコネンに年間王者の座を奪われた。翌2008年のシーズンフィナーレでは悲願の初タイトルを勝ち取ることができたが、コンサバティブな作戦が裏目に出て、危うくフェリッペ・マッサにタイトルを取られるところだった。追われるもののプレッシャーの大きさを、身をもって体験している。それはハミルトンの強みでもあった。
このような頂上決戦の経験がないロズベルグは、同時に、失うものもなかった。ロズベルグにできることは、とにかく勝利を目指すこと。あとは宿敵ハミルトンのエラーや不運を祈るしかないのだ。
歴史をひも解けば、ニコの父ケケ・ロズベルグはわずか1勝で1982年王者となった。その息子は今年だけで父の生涯記録に並ぶ5勝を得ていたが、勝利数がチャンピオンの条件とは限らないともいえる。
特売のチラシかと疑いたくなるような「ポイント2倍ルール」。確かにチャンピオンシップに最後まで緊張感を残す演出ではあるものの、一方でシーズンを通してコツコツと稼いできたポイントが一瞬でふいになるという危険性も否めず、ドライバーや関係者からの評価も良くないということで、今年限りでなくなるのではないかといわれている。
歴史上一度しかない(かもしれない)、稀有(けう)なチャンピオン決定戦となれば、たとえ否定的な立場の人間であっても楽しんで損はない。一年を通して激しく火花を散らしたチームメイト対決、いよいよ最終章のページが開かれた。
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■ロズベルグ、今年11回目のポールポジション
中東のトワイライトレース、アブダビGPは今年で6回目。過去5年間で1勝と2回のポールポジションを記録しているハミルトンに対し、ロズベルグは昨シーズンの3位が最高位と戦績では見劣りしていたのだが、まず予選で最上位につけたのはロズベルグだった。
トップ10グリッドを決めるQ3、その最初のアタックでハミルトンに0.324秒差をつけて暫定首位。ハミルトンは最終ターン手前でわずかにコースをはみ出すミスをおかした。2回目のフライングラップでは両者ともタイムアップを果たしたが、ここでもロズベルグがハミルトンより0.386秒速く、3戦連続、今年11回目のポールポジションを獲得。目に見えない心理戦でロズベルグが一歩リードした格好となった。
2列目はウィリアムズ、3列目レッドブルといつもの顔ぶれ。予選3位はバルテリ・ボッタス、その後ろにフェリッペ・マッサ、ダニエル・リカルド、そしてレッドブルでの最後のレースに臨むセバスチャン・ベッテルが並んだ。
しかしセッション終了後にレッドブルの2台に予選失格の処分が言い渡されてしまう。フロントウイングのフラップが規定に反し“たわむ”設計となっていることがその理由とされる。チームはその判断を受け入れ、リカルドとベッテルは最後尾からレースに出走することとなった(結果、チームはピットレーンからのスタートを選択)。
以下はグリッドが2つずつ繰り上がり、来年レッドブルに昇格するトロロッソのダニール・クビアトが5番グリッド、マクラーレンに残留できるかどうかまだ分からないジェンソン・バトンが6番手につけた。フェラーリ勢はキミ・ライコネン7位、このレースでスクーデリアに別れを告げるフェルナンド・アロンソ8位、マクラーレンのケビン・マグヌッセン9位、トロロッソのジャン=エリック・ベルニュ10位というグリッド順で決勝を迎えた。
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■ハミルトンがスタートでトップ、ロズベルグにはトラブル
レースのスタートでは、ハミルトンが抜群の飛び出しからトップでターン1に進入。ロズベルグは2番手に落ち、マッサ、バトン、ライコネン、アロンソらがメルセデス勢の後ろに並んだ。予選3位のボッタスは一気に8番手まで後退した。
今回ピレリが持ち込んだタイヤはソフトとスーパーソフト。一番やわらかいスーパーソフトは持ちが悪く、各車数周の後に続々とピットへ入りソフトタイヤに変更し始める。
先頭集団のメルセデス勢は、2.7秒リードを築いたハミルトンが55周レースの10周を終えてタイヤ交換、翌周ロズベルグもピットに入り、ほぼ同間隔の2.6秒差で第2スティントに突入した。その後、首位ハミルトンは2位ロズベルグがペースを上げれば反応し、2秒半のタイムを維持、つまりはレースをコントロール下に置いた。
なかなか反撃の機会を見つけられないでいたロズベルグは、24周目にタイヤをロックさせコースを大回り。その後、「パワーを失っている」と無線で伝えたロズベルグはペースダウンし、27周目にマッサに抜かれ3位、33周目にはボッタスにもかわされ4位に落ちてしまった。エネルギー回生システムである「ERS」ほか、もろもろの不調でおよそ150ps足らない状況での走行となっていた。
トップを快走するハミルトンにもトラブルが襲いかかるかもしれない。ロズベルグはポジションを落としながらも諦めず周回を重ねたが、事実上、チャンピオンシップはこの時点で決したと言っていいだろう。
他車に次々と抜かれていったロズベルグは、レース終盤にチームからリタイアを勧められるも「走り続けたい」と申し出、ハミルトンに周回遅れにされながら、最終的にポイント圏外の14位で最終戦を終えた。
やや拍子抜けするようなレース展開に熱を入れ続けたのがウィリアムズの2台だった。
2位のマッサは第2スティントを長く走り、残り12周でライフの短いスーパーソフトを選択、最終戦勝利に向けハイペースで飛ばした。トップとのギャップは見る見る縮まり、まさかの逆転劇も想像できたが、タイヤが音を上げ、最終的に2.5秒差で2位となった。
そして、スタートの大失敗を取り戻したボッタスが今年6度目の表彰台となる3位の座を獲得。ウィリアムズは2005年以来となるダブルポディウムを成し遂げ、2014年シーズンをコンストラクターズランキング3位という上々のポジションで終えることができた。
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■成長したハミルトンに、2度目の栄冠
チェッカードフラッグを真っ先に受け、拳を上げて6年ぶりの戴冠を喜ぶハミルトン。表彰式を前に、旧知の間柄でもあるロズベルグが、ハミルトンに祝福の言葉をかけにやってきた。
年齢も違わぬこの2人の間には、今年さまざまな出来事があり、同じチーム内の逃げ場のない戦いは熾烈(しれつ)を極めた。モナコGPの予選ではロズベルグがハミルトンのアタックを邪魔したのではないかと騒がれ、またベルギーGPでは同士打ちという“事件”も起きた。
シーズン前には「一発の速さならハミルトン」「クレバーな走りができるロズベルグ」と見られていたが、19戦を終えるとまったく逆の結果が残った。ロズベルグはポールポジション11回、予選での戦績はハミルトンに12勝7敗で勝ち越した。ただ肝心のレースではハミルトンの一日の長があり、ハミルトン11勝、ロズベルグは5勝と倍以上開いた。この違いはどこから生まれたのか。
メルセデスでの2年目、ハミルトンはドライバーとしてひとまわり成長した。開幕戦でメカニカルトラブルによりリタイアと出ばなをくじかれたものの、その直後に4連勝。だがシーズン中盤のカナダ、ドイツ、ハンガリーと相次いでマシンの不調に見舞われ、ベルギーではロズベルグとの接触のあおりで得点できずにいた。
ロズベルグがチャンピオンシップをリードする展開から、シーズン後半の5連勝で再び勢いに乗り、そのまま逃げ切ることができた。不運が続いた時もくさらず、また予選で負けてもレースをしたたかに走り勝利するというスタイルは、かつてのハミルトンでは見られなかったものだ。
ただ速いだけではない、レース巧者として一皮向けたハミルトンは、デビュー2年目にマクラーレンで獲得した初タイトルと比較して「2008年は特別だったが、今回はそれを超えるもの。今まで経験してきた中で最高の気分だ」と語った。一方の敗れたロズベルグは、「ハミルトンはチャンピオンに値する」と最大のライバルを潔くたたえた。
ロズベルグの言葉には、多くが深くうなずいているに違いないだろう。
1.6リッターターボ+ハイブリッドによる新世代F1は、多くのエピソードを残し初年度を終えた。2015年シーズンは、いよいよホンダがGPに復活し、フェラーリは新しいエース、ベッテルを迎え、そして今シーズンを席巻したメルセデスとハミルトンは、チャンピオンとしてタイトル防衛に挑むことになる。開幕戦オーストラリアが今から待ち遠しい。
(文=bg)