ロータス・エキシージSロードスター(MR/6MT)
ライトウェイト原理主義 2014.12.11 試乗記 ロータス史上最速のオープンスポーツとうたわれる「エキシージSロードスター」。その実力を探るためにワインディングロードを目指すも、あいにくの天候に見舞われた。そこで見えてきたものは……?変わらずユニーク
丸く小さなステアリングホイールを前にして、変わらないなとしみじみ思う。ホーンとエアバッグ以外は、オーディオコントローラーやインフォメーション切り替えスイッチなどはもちろん、今では当たり前のパワーアシストも付いていない。まるでフォーミュラカーのような小径ステアリングホイール(外径約32cm)のせいで、据え切りではなおさら重いが、わずかでも動き出せば途端に軽くなる。金属が触れ合う感触が伝わってくるシフトレバーもまた、懐かしいというか今ではかえって新鮮だ。「エリーゼ」がデビューしてからそろそろ20年にもなるが、最新のエキシージSロードスターでもその手触りはあの当時と少しも変わらない。
顧客を呼び込む間口を広げるためにポルシェはもちろん、フェラーリもランボルギーニでさえ新型に変わるたびにより乗りやすく、扱いやすい方向を目指さざるを得ない中にあって、ロータスだけは今も独自のポジションを守っている。ある程度快適なクルーザーを志向した「エヴォーラ」もラインナップされているとはいえ、すべてアルミニウム製スペースフレームにエンジンをミドシップ、ボディーパネルはFRP製という軽量最優先の基本デザインは一貫している。価格を見れば「ポルシェ・ケイマン」などを仮想敵と見立てているようだが、それでもロータスはあくまでロータスである。もう一枚の皮膚のように体にピタリとフィットするタイトなスポーツカーとしてのキャラクターを堅持、今なおあらゆる市販モデルの中で最もピュアでスパルタンな車だろう。
こんなストイックさはわれわれ日本人の大好物である。たとえ実用性には乏しくても、あるいは経営的には常に危なっかしくても、いやだからこそライトウェイト・スポーツカーの教義に忠実なロータスを応援したいと思うファンは少なくない。昨年日本ではおよそ300台が売れたという。ストイックなスポーツカーを愛する人にとっては、ロータスの名は今も絶大である。
タルガトップは乗り降りしやすい
もともと「エキシージ」はエリーゼのレース仕様車をベースに生まれたロードバージョンであり、ロータスのラインナップの中で最もレーシーでパフォーマンス志向のモデルだったはず。大きなリアウイングなどエアロパーツを備えたクーペボディーがエリーゼとの相違点だった。ところが、2年前のジュネーブショーでスーパーチャージドV6を積むエキシージSにタルガトップ・ルーフを持つロードスターも追加された。ちょっと紛らわしいが、こちらはリアウイングが備わらず、すっきりとしたスタイルが特徴である。
このエキシージSロードスターはパッケージオプションを装備しているために、シートやドアパネルには粋なキルティングレザーが張ってあり、一見ラグジュアリーな雰囲気も漂っているが、シートそのものは相変わらず板のように薄いし、遮音材も無きに等しい。フレームのアルミ材もそこここに顔をのぞかせているので軟弱さを嫌うマニアも安心してほしい。ただ空調だけはきちんと働き、本降りの雨でも、たとえルーフの隙間から雨がにじんできたとしてもウィンドウが曇ることはない。実際にありがたかった現代的装備である。
タルガトップを持つエキシージSロードスターは、ルーフを取り去った状態では乗り降りしやすい。開放感もさることながら、実はこれが最大のメリットだろう。1130mmしかない全高と小さなドア、そしてアルミフレームの一部である幅広いサイドシルによって、ロータス各車は市販モデルの中では最も乗り降りしにくい車と言っていい。それゆえ屋根がないことは体が硬くなったオヤジにとっては(大きな外国人はなおさら)実に歓迎すべき利点である。
速くて当然
トヨタ製3.5リッターV6をベースにスーパーチャージャーを装着したエンジンはクーペと同一で、350ps(257kW)/7000rpmと40.8kgm(400Nm)/4500rpmを生み出す。車重は900~950kg程度のエリーゼよりもだいぶ増えているとはいえ、それでも1170kgにすぎない。これは「マツダ・デミオ」に350psエンジンを積んだようなものだから、言うまでもなく加速は強烈。2速全開では、加速Gで一瞬気が遠くなる、あの感覚に襲われるほどだ。実際に0-100km/h加速は4.0秒、最高速は233km/hという。また前軸荷重はわずか410kgだから、当然ながらノーズはわずかなステアリング操作にも間髪入れずに鋭く反応する。素足で地面を踏みしめているようなダイレクトかつ自由自在なボディーコントロールは、まさにロータス特有のものである。
もっとも、試乗の日は雨にたたられたうえに装着タイヤに難があった。Pゼロ トロフェオ(17万2800円のオプション、標準はPゼロ コルサ)はサーキット走行専用と言ってもいいドライ用高性能タイヤで、「サーキットまでの公道も走ることは可能だが、雨の場合はアクアプレーニングに十分注意して走行すること」とピレリのカタログにも明記されているほど。これで冷たい雨が降りしきる箱根の山道を走るのは、陸上競技用スパイクで登山に行くようなもの。慎重にスロットルを開けてもパワーが盛り上がりかけた瞬間にズルリと滑り、モードを「ツーリング」にしておくと、とにかくスロットルが絞られて失速するだけだった。ダイナミックパフォーマンスマネジメント(DPM)と称するスタビリティーコントロールシステムの「スポーツ」または「レース」を選ぶとある程度のドリフトアングルを許す設定になるが、それでもトラクションはままならず。この車にはレースパックというオプションが備わり、ローンチコントロールやトロフェオ専用サスペンション、オフモードを含む4モードのDPMシステム付きだったが(標準は3モード)、その真価を引き出すことはかなわなかった。
自己責任のスポーツカー
というわけで実にフラストレーションが募るコンディションだったが、まるでグリップしないタイヤのおかげで、図らずもリニアにトルクが湧き出るスーパーチャージャー付きエンジンの扱いやすさと、軽く慣性モーメントの小さいミドシップカーのコントロールの容易さを再認識させられた。たとえラフにスロットルを開けて大きく滑っても、素早く的確にコントロールする余裕がある。カウンターステアを当てる練習にはなるだろうが、もちろんこんな瞬間芸はエキシージSの本分ではない。スムーズなドライターマックの上なら、恐ろしく速く、同時に針の穴を通すような精密さでコーナリングできるはずである。雨の箱根や東名高速ではそんなことを想像しながらおとなしく走るしかない。乗り心地そのものは意外に悪くない。ボディーというよりフレームがしっかりしているのでビリビリとした安っぽい振動が伝わってくるようなことはないし、基本的にフラットだ。そうは言ってもクッション材のようなものはないから、路面の不整はそのまま正直に伝わってくる。また鋭敏であるからには、ステアリングも不整に対して寛容ではない。路面状態によっては不意にタイヤ1本分ぐらいは針路が乱れることも珍しくはないから、ボーっとしながらの運転は禁物だ。
余分なものを削(そ)ぎ落として不便を楽しむスポーツカーをあえて選ぶような愛好家には言わずもがなだろうが、エキシージSロードスターが特別な車であることを忘れてはいけない。それからタイヤ銘柄にはくれぐれも要注意。そんなタイヤを付けるディーラーが悪い、などと他人のせいにするのではなく、リスクを自分でコントロールできる腕と覚悟を持つ人だけが乗る車なのだ。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ロータス・エキシージSロードスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4070×1800×1130mm
ホイールベース:2370mm
車重:1170kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:350ps(257kW)/7000rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)205/45ZR17 88Y/(後)265/35ZR18 93Y(ピレリPゼロ トロフェオ)
価格:972万円/テスト車=1088万6400円
オプション装備:メタリックペイント<ナイトフォールブルー>(16万7400円)/プレミアムパック(33万4800円)/レースパック(41万5800円)/ピレリPゼロ トロフェオタイヤ(17万2800円)/シートヒーター(7万5600円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4366km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:217.0km
使用燃料:28.1リッター
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)

高平 高輝
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