第378回:プジョー&シトロエン版より売れている! トヨタの欧州製「末っ子」がすごい
2014.12.19 マッキナ あらモーダ!「アイゴ」というクルマ
「アイゴ」とは、トヨタのヨーロッパ市場専用車である。1リッターのいわばエントリーモデルで、欧州のAセグメントに属する。そのアイゴの新型が、この夏から秋にかけて欧州各国で本格的に発売されたので、今回はその話題をお届けする。
振り返れば、初代アイゴが登場したのは、2005年のことだった。生産は、チェコに設立したトヨタとPSAプジョー・シトロエンの合弁会社「トヨタ・プジョー・シトロエン・オートモービル(TPCA)」が担当。姉妹車「プジョー107」「シトロエンC1」と一緒のデビューだった。
エンジンは、ガソリン仕様が「トヨタ・パッソ」「ダイハツ・ブーン」と同じ1リッター3気筒の1KR-FE型で、ディーゼルは日本の商用車「トヨタ・プロボックス」に搭載されていた4気筒ディーゼルの1ND-TV型が前期型のみ用意されていた。
個人的な記憶をたどれば、その3姉妹を当時プジョー・シトロエンの開発センターに勤めるフランス人は「あれはプジョーでも、シトロエンでもない。トヨタだ!」と真顔で言い放った。それに対する賛否はともかく、開発段階におけるトヨタの強いイニシアチブがうかがえた。
しかしアイゴは、欧州で根強い支持を獲得した。途中でトヨタのラインナップに加わった「iQ」よりも売れたし、女性ユーザーからの支持も少なくなかった。今や多くのドイツ車よりも長い9年というライフサイクルは、その人気の証しである。販売台数は76万台に達した。
ボクがフランスでアイゴのレンタカーに乗ったとき、エンジンの吹き上がりはイタリア車のような感動こそないものの十分なものがあった。そのうえ、オートルートの流れにひるむことなく淡々と走れるさまは、初代「オペル・コルサ」のごとくであった。
立派になったもんだ
いっぽう今回の新型アイゴは、姉妹車のシトロエンC1、プジョー107改め「108」とともに、2014年3月のジュネーブショーでデビューした。
「日本のユースカルチャーから着想を得た」というデザインは、従来型に増して若い世代への関心をひこうとする意欲が、内外に感じられる。フロントフェイスは、昭和生まれのボクなどは、どこかお母さんが子供をおんぶするときの「ばってんがけ」を想像してしまうのだが、ヨーロッパの若者にはデザイナーが意図するように、アルファベットの「X」をイメージさせるに違いない。
そのXをさらに強調すべく、ヘッドライトからドアミラーまで濃色のパネルでつないでいる。1980年代のルノー製クーペ「フエゴ」をほうふつとさせる処理だ。
エンジンは基本的に従来型を踏襲しているものの、EBD(電子制御動力配分システム)付きABS、VSC(車両安定制御システム)、6エアバッグを全車標準装備し、安全性を向上させている。
装備をみると、エントリー車種にもかかわらず、ダッシュボード一体型ナビゲーション、パーキングセンサーまで設定されている。立派になったものである。そのかたわらで先代同様、テールゲートがグラスハッチだったり、5ドア仕様のリアウィンドウ開閉が巻き上げ式ではなくヒンジ式だったり、と、ベーシックカーらしい割り切りが継承されているのが潔くて楽しい。
「愛護」ではなく……
これを機会に、わが街シエナのトヨタディーラーをのぞいてみると、早速外には、一番目立つポジションにアイゴが並んでいた。店内にも、人気の「ヤリス(日本名:ヴィッツ)ハイブリッド」とともに、数台のアイゴがディスプレイされている。知り合いのセールス、ロベルトとマッシミリアーノに声をかけると、「アイゴ、評判いいよ!」という答えが返ってきた。
「当面のライバルは?」と質問すると、「ルノー・トゥインゴ」に加えて、姉妹車であるシトロエンC1やプジョー108を挙げた。ただし価格は「実はシトロエンC1より高いんだよ」と、マッシミリアーノは教えてくれた。たしかにベースモデルだけ見ても、C1が9950ユーロ(約147万円)という1万ユーロを切る戦略的価格で始まるのに対して、アイゴの最廉価モデル「x-play」は1万250ユーロ(約151万円)である。4万円の差とはいえ、こうしたAセグメントのクルマユーザーとしては大きい。
にもかかわらず、アイゴは3姉妹の中で一番売れている。2014年10月の欧州新車販売台数(JATO調べ)では、シトロエンC1の5837台、プジョー108の5896台に対して、アイゴは6813台である。ディーラー網の数からいって、トヨタは圧倒的に不利であることを考えると、大健闘である。
その秘密をロベルトとマッシミリアーノに聞くと、決しておごった口ぶりではないものの「デザインと、今まで築いてきたトヨタの評判に間違いないね」と答えてくれた。
彼らによると、下取り車は先代のほか、前述の姉妹車シトロエンC1やプジョー107からの乗り換えもあるそうだ。それでもロベルトは「もっと売らねば」と、自戒するように言った。イタリアでもトヨタマンは謙虚だ。
ところで「Aygo」とは? カムリが日本語の「冠」であるごとく、「愛護」か? それとも、欧州で教養ある人なら誰でも知っているラテン語か? 眠れなくなってしまったことがある。
聞くは一時の恥。トヨタの人に尋ねたところ「I go」を基にした造語なのだそうだ。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、トヨタ自動車)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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