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ダイハツ・ウェイクL“SA”(FF/CVT)

挑戦の産物 2015.02.11 試乗記 渡辺 敏史 軽自動車の枠内で、徹底的に広さを追求した「ダイハツ・ウェイク」。「タント」をもしのぐ車内空間の代償とは?

走るイナバ物置

3395×1475×1835mm。
横倒ししたらWRカーにちょうどよさそうなディメンションを、わざわざ立てて使っている。この三寸の数字をみるに、外国の人はにわかにクルマのものとは思えないだろう。全高と全幅の比率でいえば、標準ルーフの「トヨタ・ハイエース」も軽く上回るというのだからダイハツ・ウェイク、もうその成り立ちからして異質も異質。常軌を逸した衝撃がある。もし建物ならとても住専地域には建てられそうにない容積率だ。

後席に座ればあろうことか「ロールス・ロイス・ファントム」より広いと思わせる空間を有するタントを元ネタに、そのブラックホールのような前後席間をちょっと詰めたぶん後端の荷室を広げ、天井高をさらに上げることでゴルフバッグや自転車の縦載せ、あるいは釣りざおなど長尺物の頭上差し込みにも余裕をもたせる。ウェイクはいわば乗るより積む側に力点を置いたクルマだ。活用例を示したカタログの写真をみていると、それはさながら走るホームセンターだ。月極め駐車場に置ける、車輪のついたイナバ物置と考えれば街場暮らしの身にも途端に魅力的に映る。

だったら「ダイハツ・アトレー」や「スズキ・エブリイ」のようなワンボックスタイプでもいいんじゃない? と思うところにあえて5ナンバー乗用なりの商品性を持たせたというところがウェイクの立ち位置というところになるだろう。積めて走れればいいってもんじゃない、見栄えやくつろぎも大事という人々のために贈る限界容量ワゴン。客筋としては狭そうにみえるが、今や年間250万台をうかがう軽の総需は、こんな隙間狙いの車種も受け止めるだろうということだろうか。

ルーフを高くすることで「ダイハツ・タント」を上回る車内空間を確保した「ウェイク」。1835mmという全高は、5ナンバーの箱型ミニバンに匹敵する。
ルーフを高くすることで「ダイハツ・タント」を上回る車内空間を確保した「ウェイク」。1835mmという全高は、5ナンバーの箱型ミニバンに匹敵する。
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「ウェイクL“SA”」のインテリア。助手席側の大型インパネトレイをはじめとした、豊富な収納スペースも「ウェイク」の特長となっている。
「ウェイクL“SA”」のインテリア。助手席側の大型インパネトレイをはじめとした、豊富な収納スペースも「ウェイク」の特長となっている。
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フロントグリル内に設置されたレーザーセンサー。緊急自動ブレーキや誤発進抑制制御機能などからなる予防安全装備「スマートアシスト」は、全グレードで選択が可能。
フロントグリル内に設置されたレーザーセンサー。緊急自動ブレーキや誤発進抑制制御機能などからなる予防安全装備「スマートアシスト」は、全グレードで選択が可能。
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1トンの車体を660ccで動かす

しかしこの特異なパッケージがすべてをかなえるわけではない。ウェイクの車重は最もベーシックな自然吸気(NA)エンジンのグレードで990kg。ターボのそれでは1トンをやや超えている。さらに用途を思えば検討されるだろう4WDでは1060kgと、それはもう「トヨタ・ヴィッツ」「ホンダ・フィット」の範疇(はんちゅう)だ。ちなみに同価格帯のライバルとなるアトレーやエブリイのワゴンは、同等の車重に対して設定されるエンジンはターボのみ。その負荷を思えば妥当な選択だろうが、とても「スズキ・ワゴンR」や「ダイハツ・ムーヴ」ほどの燃費は望めない。維持費を思えばNAのウェイクが気にもなるが、果たして日々のアシとして使い物になるのだろうか……という疑問は募る。

あえてNAエンジン搭載グレード、そして大人3人&撮影機材搭載のウェイクは、一般道をトコトコと進んでいく。撮影を兼ねた目的地はアクアラインの向こう側。マジでNAなわけね……と仕事を棚に上げ軽く後悔しながら走り始めてみたが、これが意外と不満がたまらない。動き始めの駆動の食いつきもまずまずで、市街地で常用する40km/h前後からの加速でも、アクセルを深く踏み込まずとも想像以上にスルスルと速度を高めてくれる。
おっ、これだったらファミリーカーとしても十分なんじゃないの? と、思わせる、過不足のない動力性能を実感しながらの首都高入り口。料金所に向かうまでの上りアプローチで、その恐る恐るな自信は途端に崩れ去った。

残念。これ1トンですから。

グレード構成は「D」「L」「X」「G」の4種類で、DとLには自然吸気エンジンが、XとGにはターボエンジンが搭載される。
グレード構成は「D」「L」「X」「G」の4種類で、DとLには自然吸気エンジンが、XとGにはターボエンジンが搭載される。
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「ウェイクL“SA”」のフロントシート。助手席は背もたれを前倒しすることが可能なほか、座面の下にアンダーボックスが備わっている。
「ウェイクL“SA”」のフロントシート。助手席は背もたれを前倒しすることが可能なほか、座面の下にアンダーボックスが備わっている。
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リアシートは左右個別にリクライニングやスライド、格納が可能。
リアシートは左右個別にリクライニングやスライド、格納が可能。
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自然吸気モデルに装備される単眼式の大型センターメーター。ちなみにターボ車には3眼式のメーターが採用される。
自然吸気モデルに装備される単眼式の大型センターメーター。ちなみにターボ車には3眼式のメーターが採用される。
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下り坂に喜び、上り坂に泣く

車重の負荷がもろに車速に表れる。グッとアクセルを踏み込んでも状況はさほど変わらず、グイッと踏み切ってやっとこさ、エンジンを高らかにうならせながらウェイクは加速体制に入った。が、ETCゲートを越えるには、せっかく高めた速度をまた落とさなければならない。そしてゲートを越えてからの本線への短いアプローチはベタ踏みだ。

そりゃあそうである。無過給ナマの660ccと、バイク並みの排気量で1トンの車重を引っ張っているというのに、高速道路もス~イスイなんて、そんな虫のいい話があるはずがない。むしろオッさん3人がこの広大な車室内でエアコンを回しながら高速移動できていること自体を奇跡と思うべきだろう。頭のなかではわかっていても、目の前に迫る坂道の上りか下りかでの一喜一憂ぶりはハンパない。加えて海風吹きさらしのアクアラインでは横風による進路の乱れがさすがに目立つところとなった。

あらためて、そりゃあそうである。四方を板壁で囲んだような形の1トンのクルマが、さもすれば100km/hの時速で走る。それがどれほどの抵抗であるかは多分僕らの想像を超えている。これらを支えて安定化させなければならないということで、最も大変な足まわりはさすがに相当バネやスタビでロールを規制しているぶん、乗り心地ははっきりと硬い。高速道のコーナーでもズッこけそうな不安感はないが、目地段差の鋭利な突き上げやうねりでのピッチングはムーヴやワゴンR辺りのスタンダードなモデルに比べるとかなりキツ目に現れる。

「ウェイクL“SA”」に搭載される660ccの3気筒自然吸気エンジン。最高出力52ps、最大トルク6.1kgmを発生する。
「ウェイクL“SA”」に搭載される660ccの3気筒自然吸気エンジン。最高出力52ps、最大トルク6.1kgmを発生する。
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トランスミッションはCVTのみの設定で、トルコン式ATやMTなどは用意されない。
トランスミッションはCVTのみの設定で、トルコン式ATやMTなどは用意されない。
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14インチもしくは15インチのアルミホイールを装着するターボモデルに対し、自然吸気モデルにはフルホイールキャップ付きの14インチスチールホイールを採用。タイヤサイズは155/65R14となっている。
14インチもしくは15インチのアルミホイールを装着するターボモデルに対し、自然吸気モデルにはフルホイールキャップ付きの14インチスチールホイールを採用。タイヤサイズは155/65R14となっている。
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空力フィンが施されたリアコンビランプの横には「ecoIDLE」のバッジが。「ウェイク」は全グレードにアイドリングストップ機構やオルタネーター回生制御などが標準装備される。
空力フィンが施されたリアコンビランプの横には「ecoIDLE」のバッジが。「ウェイク」は全グレードにアイドリングストップ機構やオルタネーター回生制御などが標準装備される。
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それでも応援したくなる

こうして、エンジンをうならせながらの高速走行で得られた燃費は15km/リッター余りといった辺り。もちろん追い越し車線はほとんど使わなかったことを考えると、あまり褒められたものではない。やはり物理にはあらがえないか……と、しかしそれらのネガを僕はあまり責める気にはなれなかった。

それはウェイクが、軽自動車の枠内でどこまでやれるかということに対してまっしぐらに挑んでいるからだろう。むしろ重ねたリサーチの結果が挑戦でも進化でもなく、単なる多数決になってしまっている登録車のフルモデルチェンジよりも、その存在感はよっぽど前のめりだ。かつてダイハツは誰もがあぜんとしたタントを市場に提案し、見事に新しいカテゴリーを切り開いた。そんな挑戦を許す社風が今もあるとすれば喜ばしいことだ。

乗るのは主に平たんな一般道、かつ大きな荷物も頻繁に載せないという使い方でもなければ、ウェイクは積極的にターボエンジンを選ぶべき車種だろう。それこそレジャー用の荷物をいっぱい載せて郊外へと高速道路を走らせるような「らしい」使い方では、さすがにNAエンジンでは荷が重い。そして乗り心地や燃費に関してもある程度の割り切りは必要だ。代わりに得られる天地側の強力な積載力をいかに使いこなすか。ユーザー側にとっても挑みがいのある車種である。

(文=渡辺敏史/写真=河野敦樹)

ボディーカラーは全8色で、「フェスタイエロー」「トニコオレンジメタリック」「オフビートカーキメタリック」の3色にはルーフを白で塗り分けたツートンカラーも用意される。写真のテスト車はオフビートカーキのモノトーン。
    ボディーカラーは全8色で、「フェスタイエロー」「トニコオレンジメタリック」「オフビートカーキメタリック」の3色にはルーフを白で塗り分けたツートンカラーも用意される。写真のテスト車はオフビートカーキのモノトーン。
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「ウェイクL“SA”」のラゲッジルーム。高さを調整できるデッキボードは、このグレードではオプション扱いとなる。(写真をクリックすると、シートアレンジの様子が見られます)
「ウェイクL“SA”」のラゲッジルーム。高さを調整できるデッキボードは、このグレードではオプション扱いとなる。(写真をクリックすると、シートアレンジの様子が見られます)
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デッキボードの下に備わる90リッターのアンダートランク。ボードを開いた状態で固定すれば、1485mmの荷室高が確保できる(FF車)。
デッキボードの下に備わる90リッターのアンダートランク。ボードを開いた状態で固定すれば、1485mmの荷室高が確保できる(FF車)。
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テスト車のデータ

ダイハツ・ウェイクL“SA”

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1835mm
ホイールベース:2455mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:25.4km/リッター(JC08モード)
価格:156万6000円/テスト車=170万9273円
オプション装備:スマートフォン連携メモリーナビゲーションシステム(8万6400円)/レジャーベースパック(1万4040円) ※以下、販売店装着オプション ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ・グレー>(2万5553円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:760km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:309.8km
使用燃料:23.1リッター
参考燃費:13.4km/リッター(満タン法)/14.0km/リッター(車載燃費計計測値)
 

ダイハツ・ウェイクL“SA”
ダイハツ・ウェイクL“SA”
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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