第105回:N-BOXは怪獣だ
2018.10.02 カーマニア人間国宝への道N-BOXをディーラーでプチ検証
日本一売れていて、現時点では事実上の国民車である「ホンダN-BOX」。その実像をプチ検証すべく、私は近所のホンダディーラーに出撃した。
平日の午前中だというのに、店内にはチラホラと客がいる。むこうのテーブルのおじいさんは、お茶を飲みながら新聞を読んでいる。
以前「トヨタ・アクア」に乗っていた時も、ディーラーの接客スペースでお茶を飲みながら新聞を読んでいるご老人を何度か拝見したが、あれは何をしているのだろう。
確かにお客さまではあるのだろうが、歩いて来られる距離にお住まいで、散歩がてら毎日のようにやってきては、お茶を出してもらって新聞を読んで帰るのではないかなどと勝手に想像していたが、どうなのだろう。
それともフツーに整備待ちとかなのだろうか? あまり国産新車ディーラーと縁のない人生を歩んできたので、いまだに新鮮な光景だ。
「あの~、N-BOXの試乗車はありますか」
そんな感じでフツーにリクエストしたところ、営業マン氏は「ターボがあります!」と、ほがらかに応えてくれた。ホントはノンターボのほうが売れてるのでそっちに乗りたかったが、元気に「ターボがあります!」と言われたら、男として引き下がれない。「よっしゃぁ、『F40』なみにブーストかけまくったるぜ!」ではなく、「あ、それでお願いします」と答えた私だった。
デカイぞ! N-BOX
「こちらの白いおクルマです」
それは、街でもよく見る「N-BOXカスタム」だったが、内心「こんなにデカいのかぁ!」と思ってしまった。
ディーラーであらためて見る軽ハイトワゴンは、スレたモータージャーナリストではなく一般客として接しているせいか、あるいは膨張色の白のせいか、とってもデカく感じたのだ。遠目には「ステップワゴン」とも見分けがつかない気がする。
近くに行くと、N-BOXはさらにデカかった。なにしろ私より背が高い! 我が愛車「フェラーリ328GTS」に比べたら怪獣なみにデカい。私の身長は175cm。フェラーリ328は113cm。対するN-BOXは179cm! 「ダイハツ・ウェイク」はもっとデカいけど。
とにかくこんなに背が高かったら、ルーフの上に手が届かず掃除ができない。国民車なのに大丈夫か。
室内に乗り込んでみると、知ってはいたが猛烈に広い。乗ってきた自分のエリート特急(激安「BMW 320d」)が独房に感じる。トイレからリビングに出てきた感じですかね。
いよいよ試乗だ。営業マン氏を助手席に乗せ、ディーラー既定の試乗コースを一周させていただくのである。
とある関係者は約1年前、ディーラーを3軒はしごしてN-BOXに試乗したけど、どれも広報車より足が固く突っ張っていて乗り心地が悪かったと衝撃の告白をしたわけだが、果たしてどうなのか。緊張の一瞬。
ブイ~~~~~ン。
こ、これは……。
ぜんぜん固くな~い! むしろやわらか~い!
超初期ロットに難あり!?
近所の幹線道路を4回左折して四角く走っただけではあるが、ディーラー試乗車のN-BOXカスタム ターボは、広報車より足が固いどころか、足がとってもふにゃんふにゃんしていた。サスの動きはなめらかだが、やわらかすぎて揺れの抑えが弱~い!
これで高速走ったら、ちょっと不安定なんじゃないかと思ったが、考えてみりゃ軽ユーザーにとって、高速でのスタビリティーなんて二の次三の次。横転のほうが心配だが、そこまで心配してクルマを買う人もいない。
見れば試乗車は今年の登録。ということはつまり、ディーラーに配られた当初のN-BOX試乗車は超初期ロットで、それは足が固かったのかなぁと推測される。
超初期ロット生産車が、熟成不足で「え?」という仕上がりであるケースは少なくない。加えて、アナウンスされない小変更は日常茶飯事。いつのまにかクルマの印象がかなり変わったりすることはままある。
しかしまぁ、この試乗車に比べると、今年の春に乗った広報車のN-BOXは良かったなぁ。ボディーカラーは黄色と白のツートーンだし、カスタムじゃないから見た目はこれより上品だし、足はこれほどソフトじゃなくて、ちょうどよくしなやか。ノンターボでもトルクがあって痛痒(つうよう)を感じず、明るいカラーの広々室内はとっても陽気で楽しげだった。どーもカスタムはオラオラで好かん。
ちなみにその広報車は、N-BOXの中で一番の売れ筋グレード「N-BOX G・L Honda SENSING」(CVT仕様)だった。ノーマルとカスタムの販売比率は4:6でカスタムのほうが若干多いが、グレードごとで見るとこれが一番ということでした。車両本体価格は、リア右側パワースライドドア&前席用i-サイドエアバッグシステム+サイドカーテンエアバッグシステム付きで159万6240円。高いけど内容を考えたら納得です。
拍子抜けのディーラー試乗を終えてふと見ると、試乗車の価格表があった。これはおいくらなんでしょう。
「249万5000円」
な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!
(文=清水草一/写真=清水草一、茂呂幸正/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。