ダイハツ・ウェイクG“SA”(FF/CVT)
すべては広さのために 2014.12.02 試乗記 ダイハツから全高1835mm(!)の軽乗用車「ウェイク」が登場。「タント」をも上回る全高と、軽乗用車とは思えない車内空間を持つニューフェイスの、気になる走りを確かめた。タテヨコ比がおかしなことに!
11月10日に発表されたダイハツの新型軽自動車ウェイクは、現時点で最も背が高い軽乗用車である。その全高1835mmは、ベースとなった同社のタントを85mmも上回る。
ダイハツはこの“超背高ワゴン”のアイデアを以前から温めており、2009年と2013年の東京モーターショーでは「DECA DECA(デカデカ)」というコンセプトモデルを提案している。
けれども、この超背高軽ワゴンを市販すると聞いて、「?」と思った。なぜなら、タントでも十分に広かったからだ。
後席の足元スペースは大人が足を組めるくらい余裕があるし、どんなに座高が高い人でも頭上空間に不満を訴える人はいないだろう。それなのに、中東の超高層ビルのように高さを競うのはなぜ?
ダイハツの答えは、居住空間を確保するためではなく、アウトドアのアクティビティーを楽しむベースとしての全高アップ(=容量拡大)というものだった。キャンプ、釣り、サーフィン、サイクリング、スキー/スノーボード、登山の6ジャンルの専門家からのアドバイスをもとに、装備やオプションを企画したとのことだ。
「スズキ・ハスラー」がウケていることから考えても、「遊び用途の広い軽」、すなわちSUK(スポーツ・ユーティリティー・軽)の需要があることはわかる。
試乗会会場で対面したウェイクに一瞬ぎょっとする。常識として頭に刷り込まれている自動車の縦横比から外れているからだ。2台を横に並べると、ようやく見慣れた自動車の形になる。それくらい、背が高い。
事実、正面から見たときの縦×横(全高×全幅)は1835×1475(mm)だから、縦:横はだいたい1.25:1だ。2台並べると、1835×2950(mm)だから、縦:横が0.62:1になる。ちなみに、腰高に見える「ランクル70」でさえ全高1950×全幅1770(mm)で縦:横は1.1:1。やはりウェイクは、横に2台並べたほうが慣れ親しんだクルマの形に近づくのだ。
興味の焦点は、いままでのクルマから見れば異形のモデルであるウェイクが、果たして走らせるとどうなのかというところだ。
これだけ背が高くてふらふらしないのか。ふらふらを抑えるために足ががちがちに固められていないか。風切り音はどうなのか。エンジンの力は足りているのか。確認したいことはいくつかある。早速、試乗に連れ出した。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
アクティブに使うならターボがおすすめ
ダイハツ・ウェイクのグレード展開を説明すると、エンジンは自然吸気(NA)エンジンとターボエンジンの2種類。トランスミッションはCVT(無段変速機)のみで、NAにもターボにもFF(前輪駆動)と4WDの2種類の駆動方式が用意される。
すべてのグレードに、予防安全装備である「スマートアシスト」を備える「SA」という仕様が設定される。スマートアシストは、大きく以下の3つの機能を備える。まず、低速(約4km/h~約30km/h)での衝突回避を支援する自動緊急ブレーキ。次に、前方に障害物がある場面での誤った急発進を防ぐシステム。そして、信号待ちなどで先行車が発進したことに気付かない時に知らせてくれる警報装置だ。
試乗したのは、主にターボエンジンのFFモデル。
運転席に座ると、その見晴らしのよさに驚く。ダイハツが「ファインビジョン」とうたっているのは大げさではなく、軽自動車というよりSUVやミニバン並みに視界が開けている。
グレードにもよるけれど、ウェイクはタントより約60kg重くなる。けれども、ことターボ仕様に関しては発進から中間加速まで、力不足を感じることはない。エンジンからのノイズも、NAよりターボのほうが低く抑えられている。
10万円程度の価格差を考慮する必要はあるにせよ、アクティビティーを楽しむためにアクティブに走らせるという用途なら、ターボモデルがふさわしいように思う。
市街地を走りはじめて、乗り心地は思ったほど悪くはないと感じた。少なくとも、がっちがちに固めて、傾くのを阻止しているセッティングではない。
全高は85mm高くなっているけれど、重心高は10mmしか高くなっていないとのことで、なるほどカーブを曲がってもグラついて怖い思いをすることはない。ただ、特別に風が強い日ではなかったけれど、それでも横風に針路を乱されることは間違いない。
ここまでは「普通に走るじゃないか、見かけほど変わったクルマじゃない」と思っていたのだけれど……。
苦労の跡がうかがえる
撮影のために、大通りから1本それて脇道に入ると、舗装のコンディションが悪くなった。すると途端に路面からのショックが気になった。鋭い突き上げが伝わってくる。特に後席でその傾向が強く、後ろに座ったカメラマン氏は「うーん」と腕組みをした。
ベースとなるタントより85mm車高を上げて、なおかつ安定して走らせるために、前後のショックアブソーバーやリアのスタビライザーなど、ウェイクの足まわりは相応に強化されている。
足まわりをしっかりさせつつ、ゆったりとした乗り心地を確保することに心を砕いたことはよくわかるものの、どうやらギリギリのセッティングだったようだ。余裕がないというか糊代(のりしろ)が少ないというか、ちょっとでも路面が悪くなると馬脚を現す。
広大な室内スペースには、それなりの代償を伴うことがわかった。
と、ここまで走行性能の話ばかりになってしまったけれど、室内空間の広さには目を見張るものがある。シートアレンジもよく練られており、大人4人が余裕を持って乗ることができる状態から、荷物満載の1人乗りの状態まで、特にコツ要らずであっという間に変更できる。
荷室床下のアンダートランクや助手席シート下やグローブボックスなど、収納スペースにも気配りがなされている。各種アクティビティーのギアを収納するためのオプションも魅力的だ。
ただし、ここで大前提がある。どんなにたくさん荷物を積めたとしても、走らなければ目的地には着かないということだ。しかもアウトドアのアクティビティーを楽しむような場所は、道が悪いことも多い。この乗り心地だと、正直なところ不安だ。
実は、このクルマにはもっとほかの可能性を感じた。床が低いうえにドアが大きく開き、しかも空間に余裕がある。この乗り降りのしやすさは、福祉車両にはうってつけであると感じた。メーカーの戦略とはちょっと違うけれど。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ダイハツ・ウェイクG“SA”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1835mm
ホイールベース:2455mm
車重:1020kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:23.8km/リッター(JC08モード)
価格:174万9600円/テスト車=185万7600円
オプション装備:スマートフォン連携メモリーナビゲーションシステム(8万6400円)/レジャーベースパック(8640円)/ドライビングサポートパック(1万2960円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:707km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
NEW
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。