トヨタ・カローラ フィールダー1.5G“W×B”(FF/CVT)
平凡を突き詰めよう 2015.06.12 試乗記 マイナーチェンジを受けた「カローラ」シリーズの中からワゴンモデルの「フィールダー」に試乗。23.0km/リッター(JC08モード)の燃費をうたう新型1.5リッターエンジン搭載車の“実用車力”を探った。主役の交代
かつて自動車雑誌のペーペー編集部員だったころ、カローラのフルモデルチェンジは一大事だった。搭載エンジン別に数車種の試乗記事はもちろん、インタビューやデザイン解説など計数十ページの巻頭特集を組む大イベントでわけも分からないままお手伝いに走り回ったものだ。カローラはまさしくトヨタの、日本車の象徴であり、個人所有の自家用車が“マイカー”あるいは“大衆車”と呼ばれた時代の王様だった。
だが諸行は無常である。このような呼び方ももはや通用しなくなった。確か2002年に30年以上にわたって守り続けてきたベストセラーカーの称号を「ホンダ・フィット」に奪われてからは、トヨタの重心もハイブリッドモデルの「プリウス」、そして「アクア」に移り、その名前の持つ重みは少しずつ低下し、今ではどのような扱いにせよ話題に上ることすら少なくなった。
カローラのすごさもBMWの素晴らしさも理解していない人たちが「3シリーズ」を「六本木カローラ」と揶揄(やゆ)していた時代に修業を積んだわれわれ世代からすると、カローラは常に“偉大なる平凡”として視界に入る存在だったのだが、久しぶりに乗ってみると、やはり忘れられかけた大物歌手のような寂しさも漂っている。聞けばカローラのカスタマーは高年齢化が顕著であり、セダンの「アクシオ」では60代後半が中心、スポーティー路線で若者向けを強くアピールするワゴンの「フィールダー」にしても顧客層の真ん中は50代後半だという。
長く続くブランドは顧客層の新陳代謝に悩むのが当然ながら、これではキムタク世代にアピールするどころか、お爺(じい)さんの車になっているのが現実。顔つきを「ミライ」風にお化粧し直したとしても、それで急に売り上げが伸びるほど簡単な時代ではないことはご承知の通りである。
無論カローラは今も販売ランキングのトップ10に入る実力の持ち主だが、その立ち位置は舞台の真ん中ではない。ちなみに月販目標はフィールダー6000台、アクシオ3000台とワゴンが中心である。
驚きのない新型エンジン
現行型カローラは3年前にモデルチェンジした11代目に当たるが、そのビッグマイナーチェンジ版が今回の新型で、予防安全装備の追加とよりスポーティーな新しい内外装、新エンジン搭載による燃費向上が主な変更点だ。
新型1.5リッターガソリンユニットは膨張比を大きく取ったいわゆるアトキンソンサイクルユニットの2NR-FKE型で、現行型1NZ-FE型とまったく同一の排気量ながら(ボア・ストロークは異なる)、JC08モード燃費を従来型の21.2km/リッターから23.0km/リッターへ向上させたという。最高出力と最大トルクは109ps(80kW)/6000rpm、13.9kgm(136Nm)/4400rpmで従来型とほぼ同じである。新エンジンはひとことで言えば燃費優先ユニットである。スロットルペダルをあまり踏まずにCVTのレシオの変化にまかせてスルーッと走ればまったくスムーズで不足はないものの、追い越しや合流の際に加速しようとしても切れ味のあるレスポンスは期待できない。最大トルク域に近い4000rpmまで回すと耳障りになり、5000rpmまで引っ張るとビーンというこもり音も加わってくるので、何だかエンジンをいじめているような気がしてとてもそこまで使う気になれない。踏まなければ好印象というエンジンだ。ちなみにこの新型1.5リッターが載るのはFWDのCVT車でMTモデルや4WD車は従来型エンジンのままでアイドリングストップもつかない。
実際の燃費は都内から富士スピードウェイの往復と、千葉方面への往復合わせて約400kmの平均で15.9km/リッターだった。データとしては限定的だが、そのうち8割がたがおとなしく高速道路を走ったという走行条件を考えると期待したほどの数値ではない。
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トヨタ初の予防安全パッケージ
新型フィールダーにはプリクラッシュセーフティーと車線逸脱警報、そしてオートマチックハイビームから構成される予防安全パッケージ、すなわち「トヨタ・セーフティセンスC」が採用された。トヨタ車としては初めてだという。これはウインドシールド上部に設置されたレーザーレーダーとカメラを使用するものだが、レーザーレーダーのみを使用するシステムがだいたい30km/hまで作動するのに対して、およそ10~80km/hの範囲で自動ブレーキを作動させる点が異なる。もちろんミリ波レーダーとステレオカメラを併用する“センサー・フュージョン”式やステレオカメラだけを使うスバルのアイサイトに比べればカバーする範囲は狭く、歩行者検知機能も付かないやや簡便なシステムだが、この種の装備には基本的に消極的なトヨタがようやく重い腰を上げたというわけだ。
もっとも全車標準装備ではなく、下位グレードには5万4000円のオプションとなる。それを指摘すると「そういうお客さまもいらっしゃるので」とお決まりの言い訳が返ってくるが、それが今でも通用すると思っているなら、時代感覚がないと言わざるをえない。「もっといいクルマ」というスローガンを掲げるならば、わずかな金額で安全装備に差をつけるべきではない。
フィールダーはスポーツモデルという位置づけであり、この「W×B(ダブルバイビー)」はトップグレードという。なるほど足取りは予想以上にしっかりしており、通常走行時は静かで滑らか、きっちり鍛えたボディーを備えていると感じられる。が、左右輪同時に段差を越えるような場合は、これまた予想以上の突き上げに「ああそこまでじゃないんだ」と引き戻される。シートはシェイプが深く、みっちりと餡子(あんこ)じゃなくてウレタンが詰まっている感触でしっかりとした反発力も頼もしいが、シート横のリフターレバーはいかにもやわな造りで、操作するとグニッと曲がって折れやしないか、と使うのを遠慮してしまうほど華奢(きゃしゃ)というよりチープなものだった。残念ながら、最新の軽自動車のほうがよほどしっかりしている。
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お客さまはどんな人か?
ステーションワゴンの魅力というか長所は当然荷室である。ただし現行フィールダーは見た目でもそれほど広くないうえに、一番気になるのが荷室内へのリアサスペンションのハウジングの張り出しが大きいこと(内側壁面から左右20cmほど荷室側に張り出している)。形状や取り付け位置を工夫して、できるだけ荷室内をフラットにスクエアに設計するのがワゴンの常識だが、マイナーチェンジでもそこは問題にならなかったようだ。
気になったのでもう一度スペックを確認してみたら、実際の容量も実はたいしたことがない。フィールダーのラゲッジスペース容量は基本407リッターでシートバックを倒した時の最大が872リッター、セダンのアクシオは461リッターだからステーションワゴンのほうが小さいことになる。もっともフロア下にも小物入れが備わるし、その気ならワゴンはトノカバーを外して天井まで荷物を積み上げることができるのだが、そうすると後方視界を妨げることになる。いわゆるVDA法などの計測方法では床下は含めず、体積1リッターの箱が何個詰め込めるかで計測する方式だが、それを積み上げる高さはサイドおよびリアウィンドウの下端までだ。ちなみに発売されたばかりの「ホンダ・シャトル」は540~1147リッターと端から比較にならない。
スペースユーティリティーではホンダにかなわない。ドライビングダイナミクスではマツダに水をあけられている。燃費では身内のハイブリッドに譲るし、価格面での優位性もそれほどではない。だが総合点でみればなかなかの高得点、というのがカローラの特徴だったはずだが、どうも今は様子が違う。安定した品質、機能性、信頼性などひとつひとつの積み重ねによって描かれたきれいな円形は、今ではずいぶんこぢんまりとしているようだ。かつてカローラに関わるエンジニアは「平凡も突き詰めれば誰もかなわない非凡になる」と胸を張ったものだが(豪快な人が多かった)、そんな気概と真っすぐさを懐かしく思い出した。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
トヨタ・カローラ フィールダー1.5G“W×B”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1695×1510mm
ホイールベース:2600mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:109ps(80kW)/6000rpm
最大トルク:13.9kgm(136Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:23.0km/リッター(JC08モード)
価格:211万4837円/テスト車=243万1439円
オプション装備:ボディーカラー<クールボルドーガラスフレーク>(3万2400円)/185/55R16タイヤ 16×5 1/2Jアルミホイール<ブラック塗装>+センターオーナメント(5400円)/スマートエントリー<運転席・助手席・バックドア/アンサーバック機能付き>&スタートシステム+スマートキー2個(4万6440円)/ ※以下、販売店装着オプション スタンダードナビ ステアリングスイッチ<オーディオ用>付き(15万120円)/バックガイドモニター(3万3480円)/ETC車載器ビルトインタイプ ナビ連動タイプ(1万7442円)/フロアマット<W×B専用>(3万1320円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1073km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:395.3km
使用燃料:24.9リッター
参考燃費:15.9km/リッター(満タン法)/16.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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