マツダ・ロードスターS(FR/6MT)/ロードスターSレザーパッケージ(FR/6MT)/ロードスターSスペシャルパッケージ(FR/6AT)
まずはカジュアルに楽しんで 2015.06.19 試乗記 いよいよ発売された「ND」型こと4代目「マツダ・ロードスター」に、伊豆のワインディングロードで試乗。3グレードの“イッキ乗り”を通して足まわりの味付けを検証するとともに、そこに込められた開発者の意図を探った。リアサスペンションの動きが違う
筆者が初めてND型ロードスターに試乗したのは、横浜のみなとみらいで行われた試乗会だった。そして今回は、修善寺のサイクルスポーツセンターをベースに、伊豆スカイラインを往復するコースをマツダが用意してくれた。「人馬一体」のオープンスポーツを体現するロードスターに最もふさわしい、ワインディングロードが試乗の舞台だ。
試したグレードは3種類。まず一番シンプルなグレードである「S」の6MT。その次に一番豪華な「Sレザーパッケージ」の6MT。そして最後に、「Sスペシャルパッケージ」の6ATに試乗した。
車重990kgを達成し「NAロードスターの再来」と多くのジャーナリストが称賛するベースグレードのS。マツダコネクト用の7インチモニターも、各種ノイズを吸収するボンネットインシュレーター(防振材)も、トルセンLSDもない一番安価なグレードである。
とはいえパワステも、パワーウィンドウも付いている。これらは初代NAではバッサリ省かれていた。時代が変わったといえばそれまでだが、「スズキ・アルト」でいえばあえて「バン」を買うような、ちょっとマニア心をくすぐるチープチョイスな感じは、もはやまったくない。
いざ峠道へと繰り出すと、「おっ!?」と思わされる変化があった。みなとみらいでの試乗で感じた、リアサスペンションの頼りなさがなくなっていたのだ。あの時はサスペンションの伸び方が速すぎ、高速コーナーではタイヤが滑るわけではないのにオシリが少しソワソワ動く場面があった。それはあたかもリアスタビライザーレスを誇張するかのような不安定さだった。
ただシャシー開発の担当氏は、あのときから仕様はまったく変えていないという。今回のリアダンパーの落ち着き具合も、「まだ新車だから、マルチリンクの動きが渋いのではないか?」というのだ。
「スカイアクティブ世代」の方向性
そうであるなら、ワインディングでの所作にも納得がいく。相対的に早くこなれたであろうフロントサスペンション(ダブルウィッシュボーン)に対して、リアサスペンションが伸びるスピードは遅いから、ハンドルを切ると余計にフロントが“くてん”と沈んでしまうのだ。だから、そこそこのペースで走ると、「一本背負い」をかけられたような感じになる。フロントのロールスピードを速く感じて、切り返しでは少し怖い。リアが滑らないから安全といえば安全? それは違う。前後の自然なロール感があってこそ、「人馬一体」感は達成される。あらためてリアメンバーブッシュとダンパーがこなれたSに乗ってみたいと思った。
でも、ジャーナリストの悲しいサガか、担当氏の説明に対しては「本当にそうなのぉ?」とも思ってしまう。というのも、これまでに乗ったマツダ車は「デミオ」も「CX-3」も「CX-5」も「アテンザ」も、ここで試乗したSと同じ方向性だったからだ。一貫性があるという意味では、筋が通っている。また、スカイアクティブ世代以前の「テールハッピーなマツダ時代」からの脱却意識が、リアのスタビリティーを高くさせているのではないかとも。
確かに、こうしたフロント・スムーズ/リア・ステイブルなハンドリングは、常用域ではとても気持ちが良い。ハンドルを切ればクルマはスイスイ曲がってくれる。そして乗り心地も素晴らしい。ダンパーのしなやかさ以外にも、フロントロワアームのボディー側ブッシュに工夫を凝らすことで、路面の段差による突き上げを、それはそれはみごとに吸収しているからだ。新型はオープンカーに付きものだった、ブルブルと震える床下の低級振動やインパネのビビリ音がなくなっている。
そして、Sグレードで感じた不安定さは、“全部乗せ”のSレザーパッケージでは上手に補われていた。ダンパーが少しだけ締め上げられ、そこにフロントメンバーとリアスタビが加わることで、フロントのロールがほどよくスローになっている。もちろんこちらも「リア・マルチリンクの慣らしが終わっていない」ようで、基本的な味わいは同じ。だから速度域が上がれば結局同じハンドリングになるのだが……以下省略。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「十人十色」の思いを背負うクルマ
というか、正直この時代に後輪駆動のスポーツカーを不特定多数の人々に提供するのは、ヒッジョーに難しいことなのだと思う。普通の人にしてみれば、車体が横に傾くロールは怖い。でもフロントサスペンションの剛性を必要レベルまで引き上げれば、乗り心地が悪いと言われる。そんな厳しい条件下で、どうやってハンドリングの軽快感を伝えるか。
その回答のひとつとして、マツダのやり方はアリなのだろう(マルチリンクの一件は、ちょっとこの際、無視!)。その証拠に、BMWにも同じハンドリング傾向は見られる。
しかし、その理想論を実践しているクルマもある。「ロータス・エリーゼ」はその筆頭だ。それは車重の軽さが理由ではない。あの四肢が自在に伸び縮みして、タイヤが路面を捉え続ける自然な操縦感覚を、顧客が個性として認めているから、彼らはロールを許すセッティングを採用できるのだろう。
長々と意見を交わしたマツダのシャシー開発担当氏は、最後に「ロードスターには、いろいろな人たちの思い入れがあるとは分かっているんですが、新型にはもっとカジュアルに乗ってほしいんです」とひとこと付け加えた。それを聞いて、筆者はなんかピンと来てしまった。
そういう意味では、最後に乗ったAT仕様のSスペシャルパッケージが、その意図を一番くんだモデルだった。だって世界中を見渡しても、AT仕様のオープン2シーターで、これだけ軽やかかつ自在に走れるクルマはほかにないのだから。そのコンセプトを味わえるのは、筆者のような“保守派”ではなく、もっとライトな感覚を持った人たちかもしれない。
生真面目なオーナーたちが喜ぶ、かつての「Sスペシャル」のような仕様も、今後出てくると思われる。熱い話は、そのときまでとっておこう。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
拡大 |
テスト車のデータ
マツダ・ロードスターS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:990kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:131ps(96kW)/7000rpm
最大トルク:15.3kgm(150Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:249万4800円/テスト車=254万8800円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルレッドプレミアムメタリック>(5万4000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
マツダ・ロードスターSレザーパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:1020kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:131ps(96kW)/7000rpm
最大トルク:15.3kgm(150Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:303万4800円/テスト車=303万4800円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
マツダ・ロードスターSスペシャルパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:1050kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:131ps(96kW)/7000rpm
最大トルク:15.3kgm(150Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:18.6km/リッター(JC08モード)
価格:280万8000円/テスト車=302万4000円
オプション装備:セーフティーパッケージ<ブラインド・スポット・モニタリング[リア・クロス・トラフィック・アラート機能付き]+ハイビーム・コントロールシステム+アダプティブ・フロントライティング・システム+車線逸脱警報システム>(10万8000円)/CV/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)/Boseサウンドシステム<AUDIOPILOT 2>+9スピーカー(7万5600円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。






























