アバルト695ビポスト フルスペック仕様(FF/5MT)
並大抵のクルマではない 2015.10.02 試乗記 レース専用車「695アセットコルセ」のロードバージョンという位置づけで登場した「アバルト695ビポスト」。走ることに特化した“史上最速のアバルト”の魅力に触れた。“操縦”する楽しみにあふれている
いや、まいった。コイツは楽しい。めちゃくちゃ楽しい。通常の「アバルト500」でも小さいけれどズバッ! と行けて、そりゃもうただでさえ痛快だっていうのに、その究極の姿といえる695ビポストなのだから、さらに遠慮なしだ。
手の加え方からして並大抵じゃない。アバルト500がベースなのは明白なのだけど、そこからリアシートを取っ払い、エアコンやオーディオも取っ払い、ボンネットはアルミ製に、ホイールボルトはチタン製に変更するなど、徹底的に軽量化を図った結果、車重はドライで997kg。エンジンは1.4リッターの排気量はそのままに、タービンや吸排気系、ECUを換えるなどのチューンナップを施し、パワーはノーマル比+55psの190psとなった。
加えて、リアシートがあった場所にはリアのボディー剛性を高めるためのチタン製のバーをマウント。フロントのトレッドを左右5mmずつ拡大し、前後のジオメトリーも変更し、エクストリーム製ダンパーと専用開発のバネやゴム類を採用し……と、シャシーのセッティングも全面的に見つめ直している。走りを磨き抜くことのみにフォーカスして数限りないモディファイを加え倒した、かなりハードコアなモデルなのだ。
しかもフルスペック仕様と呼ばれるモデルは、ノンシンクロの5段ドグミッションのみならず、メタルクラッチ、軽量フライホイール、機械式LSDを標準で備えた、かなり乗り手を選ぶ仕立てとなっている。正式なカタログモデルとして当たり前にこれを売るところが、実にアバルトらしい。
ビポストの走りはかなりダイナミックだ。その加速は1.4リッターらしからぬ怒濤(どとう)の勢いで、スピードもメキメキと伸びていく。減速から加速までのコーナリングにまつわる一連の流れも素早くて鮮やかだ。あらゆる場面で、その速さは標準型アバルト500の3割増し、楽しさは4割増し、といったら言い過ぎだろうか? でも、サスペンションのストロークを使い切ったその先のコントロール性なんぞを味わってしまうと、標準型アバルト500からひとつかふたつ上のフェーズに達した感すらあるのだ。
フルスペック仕様は、強烈に素早く、吸い込まれるように決まるドグミッションのシフトフィールが快感だし、最強のスモールボムのパフォーマンスを日常的に味わえる標準仕様の気楽さもいい。強烈に刺激的なテイストはどちらにもしっかりとあるから、どういうステージで乗ることが多いかで選べばいいと思う。フルスペック仕様は850万円、標準仕様は600万円と安くはないが、適価であることはこのクルマを知れば知るほど理解できるはず。峠道でも走らせてみれば、アバルトが今も昔も“ジャイアント・キラー”であることが嫌でも分かる強じんなパフォーマンスに、納得すらできちゃうはず。最高速ではやられちゃうけど、峠あたりでは意外やスーパーカーを追い回せちゃったりもするのだから。
でも、それより何より、ビポストはクルマを“操縦”する楽しみをむさぼり尽くしたい人にこそオススメしたい。いや、楽しい。めちゃくちゃ楽しい。こんなクルマ、そうそうあるもんじゃないのだ。
(文=嶋田智之/写真=荒川正幸)
【スペック】
全長×全幅×全高=3675×1640×1480mm/ホイールベース=2300mm/車重=1060kg/駆動方式=FF/エンジン=1.4リッター 直4 DOHC 16バルブ ターボ(190ps/5750rpm、25.5kgm/2500rpm ※SPORTスイッチ使用時は27.5kgm/2500rpm)/トランスミッション=5MT/燃費=14.0km/リッター(JC08モード)/価格=845万6400円
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嶋田 智之
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