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第421回:あのフィアットの御曹司が、ミラノに秘密基地を設営中!

2015.10.23 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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ラポ・エルカンの新ビジネス

ラポ・エルカンといえば、本欄第91回で紹介したとおり、現代イタリアを代表するファッションリーダーのひとりである。フィアット創業家出身のジョヴァンニ・アニェッリ元会長の孫にあたり、自身のファッションブランド「イタリア・インディペンデント」を率いている。
前回記した後も、高級時計「ウブロ」など数々の名ブランドとのコラボレーションを果たし、イタリアの女性週刊誌にはファッションモデルとの交際など、仕事&生活両面において毎月のごとく彼の動静が報じられてきた。

そのラポが、2015年10月7日、新たなビジネスをミラノで正式披露した。名付けて「ガレージ・イタリア・カスタムズ(GIC)」。彼のセンスを投影した自動車のカスタムメイド工房だ。
スタッフは総勢12名である。ラポは「クルマのサルト(仕立て師)を目指す」と宣言するとともに、「バイクでもヘリコプターでも、そして船でも、クライアントから持ち込まれれば、私たちは全力で対応する」としている。

カスタムメイド工房「ガレージ・イタリア・カスタムズ」を立ち上げたラポ・エルカン(写真中央)。右は後方の社屋のリニューアルを監修するミケーレ・デルッキ、左は将来併設されるリストランテのシェフ、カルロ・クラッコ。
カスタムメイド工房「ガレージ・イタリア・カスタムズ」を立ち上げたラポ・エルカン(写真中央)。右は後方の社屋のリニューアルを監修するミケーレ・デルッキ、左は将来併設されるリストランテのシェフ、カルロ・クラッコ。 拡大
ラポの個人車として有名な、ラッピングを施した「フェラーリ458イタリア」も展示された。ミリタリーカムフラージュにピースマークは、彼なりのハイブリッド感覚であろう。
ラポの個人車として有名な、ラッピングを施した「フェラーリ458イタリア」も展示された。ミリタリーカムフラージュにピースマークは、彼なりのハイブリッド感覚であろう。 拡大

ファッショニスタのセンスが光るラッピング

……と書くと敷居が高く思えるが、フィルムによるカーボディーのラッピングもメインの業務に据えている。価格は一台1500ユーロ(約20万円)で、所要時間は2-3日という。セレブであるラポの工房で愛車をドレスアップしてもらえると考えれば、それなりにアフォーダブル(手ごろ)なプライスといえよう。

ビジネスの概要と同時に、すでに手がけた参考作品やイタリアのメディアでは、かねてラポの個人車として有名なカムフラージュ柄ラッピングを施した「フェラーリ458イタリア」も展示された。
ただし、ベースモデルはゆかりあるフィアット・クライスラー系にとどまらない。「BMW i8」のブルーの鏡面フィルムで覆われたボディーが醸し出す視覚的エレキ感は、オリジナルを数万ボルト上回る。

なお、近い将来、米国のマイアミとモナコ公国のモンテカルロにもブランチを開設する予定だ。さらにドバイ、オマーンにも進出を模索しているという。ニューヨーク生まれでパリ育ち、そしてロンドンのビジネススクール卒というラポのセンスをうかがわせる。

GICの手になるベスパにまたがるラポ・エルカン(写真中央)。
GICの手になるベスパにまたがるラポ・エルカン(写真中央)。 拡大
イタリア車のみにあらず、「BMW i8」も彼が手がければこのとおり。視覚的エレキ感は、オリジナルを数万ボルト上回る。
イタリア車のみにあらず、「BMW i8」も彼が手がければこのとおり。視覚的エレキ感は、オリジナルを数万ボルト上回る。 拡大
千鳥格子の「アバルト500」にキスのパフォーマンス。サービス精神を欠かさないのはラポらしい
千鳥格子の「アバルト500」にキスのパフォーマンス。サービス精神を欠かさないのはラポらしい 拡大

こういうキャラクター、日本にも欲しい

いっぽうで、今回のお披露目の場にも使われた、GIC本社となる物件が面白い。ミラノ・アクルシオ広場にある元アジップのガソリンスタンドだ。といっても、ただのスタンド跡ではない。イタリアの建築家マリオ・バッチョッキによるアールデコスタイルを取り入れた1952年の作で、第2次大戦後のミラノにおける近代建築の一代表例でありながら、放置されていたものだ。

ラポが今回の修復にあたって指名したのは、工業デザイナーとして有名なミケーレ・デルッキだ。完成目標は次のミラノ国際家具見本市の季節、つまり2016年春である。
新しいビルを建てるのではなく、歴史的建物を手に入れたあと一流デザイナーの監修のもとレストアして本社とするのは、この国で成功した人物が好む手法だ。
ましてや、今回の建物は、スタンド時代にバールを併設していたことから、ミラノから週末各地へドライブを楽しむドライバーたちのたまり場だった。そのため経済成長を謳歌(おうか)していた時代の象徴として、今もミラネーゼが郷愁とともに語る施設だ。

そうした意味で、ラポはたとえ国際派であっても、根底にはイタリア人のセンスが脈々と流れていることがうかがえる。ちなみに修復の暁には、内部には人気シェフ、カルロ・クラッコによるリストランテも併設される。古い建物の中でクルマがカスタマイズされ、その脇に美食も。この秘密基地感覚は、ディープな自動車ファンたちの心をくすぐるに違いない。

それにしても、ラポの存在感は、ただものではない。日本の自動車界にも今日まで「御曹司」といわれる人は幾人か存在したが、特にクルマに関心がない人々まで振り向かせるという観点で、弱冠38歳のラポに到底及ばない。
日本の国内自動車マーケット再生にも、こうした強烈なキャラクターとセンスをもった人物が必要に違いないと思えてきたのである。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Garage Italia Customs、Mari OYA)

※お知らせ
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今回のお披露目に先行し、2015年3月のシュネーブモーターショーにGICが参考出品した「フィアット500X ブラックタイ」。
今回のお披露目に先行し、2015年3月のシュネーブモーターショーにGICが参考出品した「フィアット500X ブラックタイ」。 拡大
ベース塗装の上にクロム入りフィルムを貼り付けている。
ベース塗装の上にクロム入りフィルムを貼り付けている。 拡大
絶妙なセンスでデニムが配されたインテリア。写真にはないが、サンバイザーはカシミヤである。
絶妙なセンスでデニムが配されたインテリア。写真にはないが、サンバイザーはカシミヤである。 拡大
テールゲートをのぞく。ラゲッジカバーはウッド製である。
テールゲートをのぞく。ラゲッジカバーはウッド製である。 拡大
これから修復が始まるGIC本社がガソリンスタンドだった時代。
これから修復が始まるGIC本社がガソリンスタンドだった時代。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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