ボルボXC90 T6 AWD インスクリプション(4WD/8AT)
メーカーの意気込みを感じる 2016.03.04 試乗記 ボルボの旗艦SUV「XC90」がモデルチェンジを受け、12年ぶりとなる新型が登場。「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」と呼ばれる新開発のプラットフォームや、新しいデザインコンセプトを取り入れた“新世代ボルボ”の出来栄えを確かめた。“ドイツ系”とは違う世界観の持ち主
XC90で初めて採用される新世代のデザインキューは、新開発のプラットフォーム「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー」とともに、デザイン担当のトーマス・インゲンラート副社長就任後に発表されたクーペ、SUV、ステーションワゴンのコンセプトカー3部作で既に予告済みのものだ。シャープな現行モデル系デザインを刷新し、「これが新しいボルボである」と誰の目にも明らかな新世代感満載の意匠を新型XC90に与えた。コンセプトカーが十分なリードタイムを作ったおかげか、日本を含むどの市場でもこのデザイン刷新は違和感なく受け入れられ、XC90は予想を上回る受注を得ているという。
フラッグシップSUVらしく全長×全幅×全高=4950×1960×1775mm、ホイールベース=2985mmに及ぶ堂々たる体躯(たいく)は、7人乗り3列シートの実用性向上にも貢献する。エクステリアデザインを細かく見れば、T字の“トールハンマー(映画『アベンジャーズ』のマイティ・ソーが持つハンマーも同モチーフ)型”としたLEDのポジションライトを内蔵するヘッドライト、ショルダー部分を強調したボディーラインに沿ったテールライトなど、新世代デザインの見どころは多い。
一方、そのエクステリア以上にモダンなインテリアは、おなじみの「フローティングセンタースタック」に代わって採用されたタッチスクリーン式縦型モニターと、高い質感が印象的だ。このモニターはスマホやタブレット感覚で、ナビやエアコンの温度調整など各種機能のコントロールが行える。物理スイッチを極力排した操作系は、シンプルでクリーンな北欧的インテリアの表現に貢献している反面、当たり前だが慣れも必要だ。各種設定から、これを“ホーム画面”としたいナビに戻るまでにひと手間かかるなど、ボルボ初のユーザーインターフェイスにはさらなる熟成の必要性を感じたのも事実である。
ボルボは今後直4までのエンジンしか造らないと公言しており、これはフラッグシップSUVのXC90も例外ではない。直4ガソリンターボ+スーパーチャージャーのダブル過給で320psを発生する「T6」は、2トン超えのボディーを軽いと感じさせる加速性能を持つ。直進安定性は4WDらしく申し分なく、ハンドリングも悪くない。ただ、オプション採用のエアサスの影響か、ステアリングの操作に対してボディーの上屋が遅れて追従する印象があり、「XC60」のようなソリッドさとは異なるフィーリングだったことは付け加えたい。
自慢のディーゼルは現状ラインナップされていないものの、ドイツ系ラグジュアリーSUVとは違った世界観と洗練されたデザインをXC90は持っている。記念すべき新開発SPAプラットフォーム採用第1号だけに、まだまだ乗り心地や静粛性、操作系に進化の余地は残されているが、XC90からはボルボの開発陣が持つ、「どのラグジュアリーブランドとも異なる、ボルボだけしかできない新しい時代を作る」という、ブランドを再定義するほどの強力な意気込みとメッセージを感じるのである。
(文=櫻井健一/写真=田村 弥)
【スペック】
全長×全幅×全高=4950×1960×1760mm/ホイールベース=2985mm/車重=2100kg/駆動方式=4WD/エンジン=2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー(320ps/5700rpm、40.8kgm/2200-5400rpm)/トランスミッション=8AT/燃費=11.7km/リッター/価格=909万円
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。