ジャガーFペース ファーストエディション(4WD/8AT)/Fペース S(4WD/8AT)/Fペース 20d Rスポーツ(4WD/8AT)
予想を超える仕上がり 2016.05.12 試乗記 ジャガー初のSUVとなる「Fペース」が、いよいよ公道へと躍り出た。では、実際に乗ってみたら……? 日本への導入が予定されているディーゼル車とガソリン車に、アドリア海に臨むモンテネグロで試乗。その印象を報告する。ジャガーらしさが伝わる形
海岸線から鋭い傾斜が立ち上がる、たけだけしい岩山。その山肌を一気に駆け上がっていく、いつ終わるともわからないワインディングロード―― パリ発のチャーター便での移動から始まったジャガーFペースの国際試乗会は、2時間半ほどのフライトを経て到着したモンテネグロでの、そんなロケーションから本格的にスタートした。
イタリア半島の“かかと”から見て、アドリア海を挟んだ対岸。地図上ではそんな位置にある、独立からまだ10年に満たないこの国を訪れるのは、筆者にとっては初めてのことだ。
しかしながら、冒頭に紹介したように、試乗の“お膳立て”がしやすい環境である。Fペースで走り始めてすぐに「きっと今後も、この場を試乗会に使うブランドが出てくるだろうな」などと思ってしまった。
さて、日本でも2016年1月から予約受注が開始され、そのスペックもすでに明らかにされている、ジャガー初のSUVであるFペース。「パフォーマンス・クロスオーバー」というフレーズで紹介されるこのモデルのルックスは、モンテネグロの雄大なランドスケープの中でも、強い存在感を放つ。きわめて流麗で、かつスポーティーであるという、最新のジャガー車らしいアイデンティティーが、見事なまでに表現されている。
Fペースが「ポルシェ・マカン」を直接のライバルに想定していることは、スペックや価格から明らかで、ジャガーの関係者も、そうしたことをにおわせている。
そのマカンは、自身のDNAを明確化するために、どうしても「『911』をほうふつとさせるデザインアイコン」を入れ込まざるを得ない。それに比べると、Fペースのルックスは、より自由で新鮮に見えるというのが、率直な感想だ。
驚くほど静かで軽やか
最初に用意されたテストカーは、世界限定2000台のうち50台が日本に割り振られることになっている「ファーストエディション」だった。
ベースは、最高出力380psを発生するメカニカルスーパーチャージャー付きの3リッターV6ガソリンエンジンにZF製の8段ATを組み合わせる、トップグレード「S」。それに、22インチのシューズやスライド式パノラミックルーフ、専用のウインザーレザーシートなどを装着し、「2013年のフランクフルトモーターショーで披露されたコンセプトモデル『C-X17』の雰囲気を可能な限り忠実に再現した」というモデルである。
目にも鮮やかな「シージアムブルー」と呼ばれるボディーカラーも、この限定モデルだけに設定される専用色だ。
イグニッションオンでせり上がる、大きなダイヤル式のATセレクターをはじめ、インテリアの各部には、最新ジャガー車に共通のフォーマットを採用。ただし、そんなATセレクターにセンターコンソールの“一等地”を占領されたこともあってか、このFペースもインフォテインメントシステムはタッチスクリーン式。最新機能にバージョンアップされてはいるものの、操作のたびに画面を注視する必要に迫られるなど、その使い勝手は褒められたものではない。
一方、走りに対しては、第一印象から大いに好感が持てた。前述のように、22インチの巨大なシューズを履くにもかかわらず、ばね下の動きが驚くほど軽やかで、フットワーク全般が実に軽快。驚くほど低いロードノイズをはじめ、その優れた静粛性も特筆に値する。
かくして、走り始めて1kmと進まないうちに、想像をはるかに超えた快適性の高さに圧倒されることになった。
動力性能は十分以上
ボディー骨格は、最新世代のジャガーに共通する、アルミ材を主とした構造。「クラス最軽量」とうたわれるほど、軽さが最大の特徴とされているが、その新開発の骨格がすこぶる強靱(きょうじん)であろうことも、ボディーの振動がすぐにおさまる様子などから想像できた。
0-100km/hの加速タイムが5秒台半ばと、同等の速さを誇る「マカンS」の車重が1.9トンを超えることを考えれば、なるほど英国仕様で1861kgと伝えられているFペースは、たしかに軽いといえるのかもしれない。変速のスムーズさとムダのないトルクの伝達感が心地よいATが組み合わされていることもあって、その動力性能は、十分以上に強力と感じられるものだ。
1.9m超の全幅については、狭いワインディングロードでは持て余す場面もあったものの、全般的には、見た目よりもコンパクトに操れる印象が強い。この点も、Fペースの特徴のひとつだ。
ところが、そんな限定モデルから、ベースモデルであるはずのSグレードに乗り換えると、走り始めてすぐに戸惑いを隠せなくなった。2インチダウンとなる20インチのシューズを履くからか、路面の凹凸に対するアタリは、ややソフトな印象である。しかし、同一路面でもファーストエディションに比べて明らかにボディーの揺れが大きいのは、不可解だった。
あれ? こちらは電子制御式ダンパー「アダプティブダイナミクス」を使っていないのかな? まずそんな疑問を抱いたほどだ。
「これは、タイヤサイズの違いだけでは説明がつかないな」。そんな思いを、コーヒーブレークの場で、シャシー担当エンジニアに率直にぶつけてみた。
日本での本命はディーゼルか
「タイヤを除けばサスペンションの仕様は同一です。ただし、選択オプションによる車重の変化次第では、アダプティブダイナミクスの制御も微妙に変えることはあります」 意外なことに、これがエンジニア氏からの回答だった。
実は、ファーストエディションについては、異なる2台の個体に乗って、いずれも共通の好印象を得ていた。一方、1台だけ乗ったSは、それよりもボディーのコントロール性が明らかに見劣りしたのだ。
この印象の違いは、個体差というには余りにも大きい。「日本に導入されるクルマは、ファーストエディションと同じ仕上がりであってほしい」と願うのみである。
ただ、その点で楽観的になれるのは、標準より1インチ大きい20インチのシューズをオプション装着した「Rスポーツ」の印象が、くだんのファーストエディションに近かったからである。
このRスポーツに搭載されているのは、最新設計の2リッター直列4気筒ディーゼルターボと8段AT。走り始めの一瞬だけは、車体の重さを意識させられるし、ガソリンモデルとは明らかに異なる、ディーゼルユニットならではのノイズが聞こえることは事実だ。けれども、そんなRスポーツも、静粛性については総じて満足できる水準にあるし、日常的な走行シーンでの力強さに不満を抱くことはない。
加えて、スターティングプライスが639万円からと、ガソリンモデル(849万円から)よりも大幅に値ごろ感があるとなれば、日本での販売はむしろこちらが主流になるのではないかと思える。
いずれにしても、見ても乗っても何かと気になるFペース。ジャガーならではの、新たな意欲作である。
(文=河村康彦/写真=ジャガー・ランドローバー)
テスト車のデータ
ジャガーFペース ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4731×1936×1652mm
ホイールベース:2874mm
車重:1861kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:380ps(280kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)265/40R22 106Y/(後)265/40R22 106Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.9リッター/100km(約11.2km/リッター、EU複合サイクル)
価格:1108万9000円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ジャガーFペース S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4731×1936×1652mm
ホイールベース:2874mm
車重:1861kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:380ps(280kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109W/(後)255/50R20 109W(ピレリPゼロ)
燃費:8.9リッター/100km(約11.2km/リッター、EU複合サイクル)
価格:981万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ジャガーFペース 20d Rスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4731×1936×1652mm
ホイールベース:2874mm
車重:1775kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:180ps(132kW)/4000rpm
最大トルク:43.8kgm(430Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109W/(後)255/50R20 109W(ピレリPゼロ)
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター、EU複合サイクル)
価格:728万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。