ジャガーFペースSVR(4WD/8AT)
歴史へのけじめ 2021.10.20 試乗記 マイナーチェンジしたジャガーのハイパフォーマンスSUV「FペースSVR」に試乗。同社のビスポーク部門、スペシャルビークルオペレーションズ(SVO)が強化したパワーユニットやシャシー、個性的な内外装の仕上がりを、ワインディングロードで確かめた。SVRを名乗る資格
スペシャルビークルオペレーションズ、略してSVO。ジャガー・ランドローバーの各モデルをベースに、パフォーマンスアップや内外装のビスポークといったパーソナライズを担当する同社の一部門だ。そのSVOが隅々まで手を施したプロダクションモデルがSVRになる。
やたら片仮名が多くて申し訳ないのだが、要はAMG的なものをライフスタイルモデル化した商売上手なドイツ勢ばかりにおいしいところは持っていかせないという意向が満々と感じられる。そういう商業的な事情はないと言えばうそになるだろう。
でも、SVRはジャガー・ランドローバーのなかでは大切にされている称号のようで、あらゆるモデルにバラまかれているわけではない。ちなみに今、日本市場で展開されているのは「レンジローバー スポーツSVR」と、このFペースSVRの2車種だ。同等のパワートレインを積むモデルはほかにもある。とはいえ、総合力としてSVRを名乗るには彼らなりのハードルがあるのだろう。社としてのパワートレイン戦略も目まぐるしく変わるなか、SVRの商品企画もSVOの立ち位置そのものも変節を迎えているのかもしれない。やたらアルファベットばかりで申し訳ないのだが。
というわけで、FペースSVRだ。搭載されるAJV8系ユニットは、もとを正せば1996年、21世紀に向けてゼロスタートの完全刷新をもくろみ、初代「レクサスLS」、つまり「トヨタ・セルシオ」に搭載された1UZ-FEを徹底的に研究してその成果を反映したというそれが源流となる。
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緻密なアップデート
その後AJV8系ユニットは度重なるリファインの末、5リッターのキャパシティーに米イートン製スーパーチャージャーという長年突き詰められてきた組み合わせではあるが、最高出力は550PS、最大トルクは700N・mの最新世代へと進化。FペースSVRは登場から2年余が経過しているが、昨2020年末のマイナーチェンジで実は最大トルクが増強されており、0-100km/h加速は4秒フラット、最高速は286km/hと若干の向上を果たした。
ドライブトレインは通常時にはほぼFRとなり、路面状況やドライブモードに応じて前輪側にリニアにトルクを配分するジャガー独自のインテリジェントドライブラインダイナミクスを継承。電子制御LSDによるアクティブなベクタリングも搭載するなどハイパフォーマンスSUVとしてはフルスペックと言っても過言ではない。組み合わせられるトランスミッションはSVOが手がけた最も過激なスポーツモデルである「XE SVプロジェクト8」のハードウエアを流用した8段ATとなる。
シャシーまわりではダンパーやブッシュ類のリセッティング、パワーステアリングのアシスト量の見直し、ブレーキ容量や冷却性能の拡大、電動ブースターの採用など細かなアップデートを受けている。特にタッチの良さを売りとするジャガーの、ことのほかユーザーの要求値が高いセンシティブなグレードに電動ブースターを用いてくるあたりに、ジャガーの並ならぬ電動化への決意が垣間見える……というわけではなく、より繊細なボディーコントロールを実現するためのアップデートとみるべきだろう。
昨2020年末のマイナーチェンジでは、全グレードを通じて内装も大きく改められた。センターコンソールには11.4インチの湾曲液晶ディスプレイを置き、オンライン接続型のインフォテインメントシステム「Pivi Pro」も標準で装備される。また、サラウンドカメラやADASなども全グレードで標準装備化されるなど、安全機能強化も果たされている。
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イギリスの出自を示す外装色
試乗車は日本でも限定で7台がデリバリーされた「BRGローンチエディション」と同じカラーをまとっていた。ちなみにBRGはブリティッシュレーシンググリーンの略。モータースポーツの黎明(れいめい)期に車両識別の意味合いも兼ねて指定された、イギリスの出自を示す色だ。
近ごろの欧州スポーツ銘柄ではイメージカラーで緑系を使うのがはやりのようだが、この個体はマットフィニッシュとも相まって、いよいよ冬瓜(トウガン)のような質感を呈している。94万7000円という塗色代を聞くとドン引きするが、ともあれ、緑に塗られたジャガーの広報車を見るのは久しぶりだ。2007年の「XF」登場あたりを境に、ブランディングの柱に世代更新を掲げたこともあって、緑系のジャガーが表に現れる機会はめっきり減っていた。冬瓜色のSUVであっても、ジャガー+BRGというだけで、オッさん的には気分があがる。
大画面のディスプレイやレーシーなシェイプのシートに目がいくも、内装のオーセンティックな仕立てにやっぱりイギリスのクルマは落ち着くなぁとしみじみさせられる。ダッシュボードやセンターコンソールの骨格や、操作ものの配置もシンメトリック、ハンドルも丸く……と、いかがわしい要素が一切ない。
試乗車はオプションの22インチホイール&タイヤを履いていたせいもあってか、路面状況によっては時折ビシバシ系の突き上げを感じることもあった。乗り心地的にも洗練を重ねているライバルの最新モデルに対しては、かつてのように大きなアドバンテージが築けているわけではない。が、大きな上屋のバウンドも嫌みなくひたっと封じ込めるダンパーのセットアップや、連続する凹凸でもタイヤを暴れさせないサスの追従性などは相変わらずのジャガーらしさとして特筆できる。
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AJV8系ユニットの集大成
もしフットワークを重視してこのモデルを選ぶというのなら、個人的には標準の21インチホイール&タイヤのほうがふさわしいと思う。一方で22インチが威力を発揮するのは、5リッターV8+スーパーチャージャーという今どきなかなかお目にかかれないキャパシティーから放たれるばか力をカッチリと受け止めて、走る・曲がる・止まるの応答の確度を高める……ということになるだろうか。
今回のマイナーチェンジでは車体姿勢や変速などの制御系、パワステのフィーリングなどにも細かく手が加えられている。そのすべてを公道での試乗で引き出すことは不可能だ。が、減速・旋回・加速という運転のつながりに歯切れよさや小気味よさよりも、滑らかさやしなやかさを強く感じる、いかにもジャガー的な振る舞いに、その仕事の密度が深く関係しているのだろうと察せられる。
2025年のBEV専業ブランド化を宣言しているジャガー。そのタクトから言えば、次期FペースはBEVである可能性が高い。すなわち、このマイナーチェンジモデルは最後の内燃機関搭載とイコールということになるのだろう。
そのトップグレードであるSVRには、かつて内燃機の雄として12気筒の量産まで手がけてきた、ジャガーのエキスパートたちの、歴史へのけじめの思いが宿っているようにも感じられた。ちなみに来年はウイリアム・ライオンズによってスワローサイドカーカンパニーが興されてから100年という、ジャガーにとっては節目の年になる。
(文=渡辺敏史/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ジャガーFペースSVR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1960×1670mm
ホイールベース:2875mm
車重:2100kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(405kW)/6500rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/3500pm
タイヤ:(前)265/40ZR22 106Y/(後)295/35ZR22 108Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1350万円/テスト車=1655万2000円
オプション装備:ボディーカラー<SVOウルトラメタリックペイント、サテンフィニッシュ ブリティッシュレーシンググリーン>(94万7000円)/カーボンファイバートリムフィニッシャー(19万5000円)/空気イオン化テクノロジー(1万9000円)/Meridianサラウンドサウンドシステム(24万2000円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(2万5000円)/ワイヤレスデバイスチャージング(2万8000円)/鍛造22インチ5スプリットスポーク“スタイル5117”<グロスブラック サテンテクニカルグレーインサート>(22万6000円)/リアシートリモコンリリースレバー(9000円)/ヘッドアップディスプレイ(7万7000円)/ヒーター付きウインドスクリーン(5万3000円)/スライディングパノラミックルーフ(24万3000円)/プライバシーガラス(8万1000円)/トレッドプレート<メタル、イルミネーション機能、JAGUARスクリプト付き>(2万2000円)/ラゲッジスペーススカッフプレート<メタル、イルミネーション機能付き>(7万5000円)/追加電源ソケット(4000円)/ピクセルLEDヘッドライト<シグネチャーDRL付き>(29万9000円)/アクティビティーキー(5万円)/パークアシスト(3万5000円)/ジャガードライブコントロール<アダプティブサーフェスレスポンス>(3万1000円)/パワージェスチャールーフブラインド(1万6000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:966km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:345.6km
使用燃料:50.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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