マセラティ・レヴァンテS(4WD/8AT)
駆ければ勇ましく 流せば紳士的 2016.05.21 試乗記 マセラティのSUV「レヴァンテ」がいよいよ公道に降り立った。マセラティのDNAは、同社史上初のSUVにどう受け継がれたのだろうか。ガソリンの上級グレード「レヴァンテS」に試乗した。カッコいい、そしてデカい
そもそもが生粋のレーシングコンストラクターでありながら、市販車として1960年代から4ドアサルーンを手がけていたという史実をみても、マセラティというブランドはリベラルな社風があったのだろうか。そう考えられれば、マセラティがSUVを作るという事態に抱く戸惑いも軽くなるだろう――。
と、当初はそんなくらいの感じで捉えていたレヴァンテと、初めて対面したのは先のジュネーブモーターショーでのことだった。開始時間を散々引っ張った揚げ句、4台ほど束ねたスマホを両手に抱えてひょいと空いた一席に座ったのはグループを率いるマルキオンネ会長。余談ながら、氏がこの日も着用していたトレードマークのセーターは、ネクタイで有名なナポリのマリネッラのものらしい。いつも通販で買ってるみたいだね……と教えてくれたのは、マセラティの広報のお偉いさんだ。
やっとこさのアンベールとともに現れたレヴァンテをみての第一印象は、素直にカッコいい、そしてデカいだった。周囲に比較物のないショー会場で見てもそうなのだから、寸法はさぞやだろうと思っていたら、全長は5004mm、全幅は1968mmだという。
パフォーマンス、ユーティリティー、そしてセールスと、あらゆる面でターゲットとなるだろう「ポルシェ・カイエン」に対して明らかにひと回り大きく、「レンジローバー ヴォーグ」にほぼ並ぶサイズは、今後のライバルの動向も見据えての決定だろうか。何せプレミアムSUVカテゴリーは、ベントレーに次いでランボルギーニやロールス・ロイスの参入も確実視されている。もはやそれは、好むと好まざるとに関わらず、ビジネスとしてマストということなのだろう。
骨格のベースはギブリ
お察しの通り、レヴァンテのアーキテクチャーのベースとなっているのは「ギブリ」だ。ホイールベースも3004mmと同一。ただしモノコックの骨格構造は積載やトーイング、そしてオフロードなどの高負荷使用を前提に主要部位を強化しており、ハッチバックボディーにも関わらず静的ねじり剛性はギブリより20%ほど高められている。
そしてサスペンションもディメンションや剛性が全面的に見直されているほか、幅広いシチュエーションでの走行に対応すべくエアスプリングが採用された。これは駐車時の乗降性を高めるパークモードを含めて計6段階の調整が可能で、うち207mmの標準地上高より低い側の2つは0.31という優れた空気抵抗値をさらに高めるエアロモードとして機能し、同時に低重心化による運動性能の向上にも寄与している。そして高い側の2つは悪路走破性のためにあり、ストロークは最大40mm上昇、つまり長いホイールベースをカバーする247mmの地上高が確保できるというわけだ。オンロードでのスポーツ走行からオフロードでの最適な追従性までを考慮したスカイフックダンパーと併せて、これらの制御はシフトレバーの脇に据えられたドライビングモードセレクターでの設定と完全に連動している。
搭載されるエンジンはギブリと同じ、ガソリン2種、ディーゼル1種の計3種類。3リッターV6直噴ツインターボのガソリンユニットはグレードに応じて最高出力が350psと430psに区別される。そして61.2kgm(600Nm)の最大トルクを発生する275psのディーゼルユニットと併せて、トランスミッションは全車にZF製8段ATが組み合わせられており、トランスファーはマグナ・シュタイヤーとの共同開発となる湿式マルチプレートクラッチを電子制御する4WDシステムが搭載された。通常時は100%を後輪側に、ドライブモードの選択やスリップ率の変化に応じて最大で50%を前輪側に伝達するこのシステムに加え、レヴァンテは機械式LSDを後軸に備えており、ESPを活用したブレーキベクタリング機能と併せて旋回性を高めている。
樹脂類の質感やトリム類の取り回しなど、レヴァンテのインテリアの仕上がりは、ギブリのそれを上回るほど入念な印象だ。マセラティといえばまず思い浮かぶだろうアーモンドシェイプのアナログ時計も、滑らかに作動する秒針を加えて文字盤を含めた精緻さが高められている。同じホイールベースでありながら着座姿勢はアップライトになるため、後席の足元空間もギブリに対すれば明らかに余裕があるなど、レヴァンテの車内環境はギブリを検討するカスタマーにとっても魅力的に映るはずだ。
素直で身軽なフットワーク
50:50の前後重量配分やSUVカテゴリーにおいて最も低い重心高をうたうレヴァンテの走りは、そこから想像できる通りの素直さが備わっている。オンロードのワインディングをハイペースで……という状況ではさすがに上屋そのものの絶対的な重量を感じないというほどではないが、身のこなしは十分に軽い。そして駆動系のマネジメントがしっかり運動性によっていることもあってか、パワーを掛けるほどに動きが生き生きしてくることが伝わってもくる。そしてブレーキも制動力やバランスだけでなく、踏み始めの穏やかな立ち上がりからストロークに比例して利きを線形的に高めていくなど、コントロール性も非常に高いものとなっている。
試乗したグレードは最もパワフルな430psのレヴァンテSだったが、トルクは十分に確保されており、8段ATとの組み合わせにより、積極的に低回転域を用いて常用域をカバーしている。また、日常的なスピードで走るに感心するのは高い静粛性で、高速巡航などはギブリよりも明らかに静かだ。風切音の小ささからみるに、これはCd値0.31に代表される空気抵抗の低さも一助となっているのだろう。
一方、0-100km/h加速で5.2秒というレヴァンテSの動力性能は体感的にも十分ながら、「カイエン ターボ」あたりを普段から扱う向きにとっては、若干物足りなさを覚えるかもしれない。ただし、それを補えるマセラティならではのサウンドの魅力はしっかりもたらされている。回せば勇ましく、流せば紳士的。メリハリの強い味付けは、乗り心地の面からもはっきり感じられる。
オフロードも期待以上
ブランドイメージから想像しても、悪路をガシガシ走るためにこのクルマを選ぶというユーザーも少ないだろう。が、レヴァンテのオフロード性能はそういう都会のユーザーにとって期待以上のところがもたらされているはずだ。
何より効いているのはエアサスによって稼がれる最低地上高だが、駆動配分の緻密さや微低速域でのスロットルコントロールのしやすさなど、オフロードモードにおける制御の基本もよく練られている。深い轍(わだち)の積雪路や別荘地などでみかける不整路など、車格さえ問題なければ日本の使用環境において扱いが難しい状況はほぼないだろう。
ピークパワーさえ求めなければ動力性能も扱いやすさも十分満たされるだろう、最もベーシックな350psのレヴァンテは1080万円。同じ四駆の「ギブリS Q4」が1135万円と聞けば、その価格が魅力的に映る向きも多いだろう。レヴァンテの日本における販売開始はガソリンモデルがこの9月。ディーゼルモデルはちょっと遅れて2017年春が予定されている。
(文=渡辺敏史/写真=マセラティ)
テスト車のデータ
マセラティ・レヴァンテS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5004×1968×1679mm
ホイールベース:3004mm
車重:2109kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:430ps(316kW)/5750rpm
最大トルク:59.1kgm(580Nm)/5000rpm
タイヤ:(前)265/50ZR19/(後)295/45ZR19
燃費:10.9リッター/100km(約9.2km/リッター EUモード複合サイクル)
価格:1279万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。価格は日本仕様のもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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