マセラティ・レヴァンテGT(4WD/8AT)
エコとエロのあいがけ 2022.03.01 試乗記 官能的なクルマづくりで知られるマセラティ。その高性能SUVである「レヴァンテ」に、初のマイルドハイブリッドバージョンが追加された。時代に即した電動化モデルの乗り味は、われわれを満足させてくれるのだろうか?あれもないし、これもない
「マセラティ・レヴァンテGT」、ついにデリバリー開始! 広報車両も準備され、メディアへの貸し出しも開始! なのだが、かく言う私、元マセラティオーナーでありながら、レヴァンテのハイブリッドシステムがどんなメカなのか、まったく知らないまま試乗に臨んだ。
なぜ知らなかったのかといえば、それは、先入観なく試乗に臨むため……ではなく、見落としていただけである。正直なところ、欧州製ハイブリッド車への関心が薄かったことも否めない。
なにしろ、かの地では、間もなく内燃エンジン搭載車の販売が禁止される。ならばEVか、さもなくば、消えゆく純内燃エンジン車に気持ちが動こうというものだ。いまさらハイブリッドかぁ、という気持ちがなかったと言えばうそになる。
予習は「レヴァンテのハイブリッド」という伝聞のみで臨んだ試乗。私の事前予想では、「V6ターボ+プラグインハイブリッド、EVモードでの航続距離55kmくらい」というものだった。欧州製PHEVの定番コースだ。正直、そういうのには少々飽きている。
が、クルマを受け取って走りだした感じは、なんかちょっと違った。まずEVモードらしきボタンが見当たらない。物理ボタンがないのはもちろんのこと、モニター内を探しても全然見つからない。見つかったのは、センターコンソール部の「スポーツ」「オフロード」「I.C.E.(効率重視)」等のボタンだけだった。
エンジンも、V6ターボにしては音が軽いような気がする。なんとなく雰囲気が控えめで、マセラティらしいイケイケ感があまりない。これはひょっとして、V6のターボを外すか小型化したうえに、マイルドハイブリッドあたりを装着したりしているのか!? と思いながら、都内一般道をノロノロ走って帰宅した。
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“マセラティなムード”がいい
足まわりは意外とスポーティーに締め上げられている。ただ、路面のジョイントを越えた時のショックはうまく吸収するし、スポーツモードに入れて自動的に車高が一段下がっても、ハードさはそれほど増加せず、快適性を保つ。スポーツモードに入れたとたん「勘弁してください!」という乗り心地になるクルマも少なくないが、このクルマはそのあたり、想定カスタマーの要望にしっかり応えているのではないだろうか。
このまずまず快適な乗り心地、そしてレヴァンテの堂々たる体躯(たいく)、ゴージャスそのものの内装からは、イタリアンな「甘い生活」感が濃厚に漂ってくる。それはフェラーリやランボルギーニにはない、余裕ブチかましのドルチェ・ヴィータだ。「ギブリ」や「クアトロポルテ」よりもイケてるゴージャス感がある。さすが、はやりのSUV。パワートレインは謎のままでも、最先端の「モテるオヤジ」という雰囲気だ。
かつて私が88万円で購入した「マセラティ430」は、すべてが没落貴族感に満ちていたが、レヴァンテは違う。ビジネスでも成功した現役富裕層なのだ(イメージです)!
ところで、このパワートレイン、何ですか?
帰宅後、調べて驚愕(きょうがく)した。4気筒ターボ+マイルドハイブリッドとはこれいかに!! マセラティに4気筒なんて出てたのか!? それってどこのエンジンブロック!? V8の片バンクなの!?
それについては、どの記事も触れていなかったが、たぶん、アルファ・ロメオのものなのでしょう。排気量が1995ccで同じだし。そこにエレクトリックターボと48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたのでしょう。マセラティ、あと数年(?)しか売れないのに、こんなの、よく頑張って開発したなぁ。エライ!
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まるでランエボかインプのような……
『webCC』のニュース記事によれば、このパワーユニット、「システム最高出力330PS、同最大トルク450N・mを発生し、最高速255km/h、0-100km/h加速5.7秒という実力を有す(※欧州仕様車の値。日本仕様車は同245km/h、同6.0秒)。リッターあたり165PSという高出力を実現しながら、既存の3リッターV6ガソリンモデル比で18%、3リッターV6ディーゼルモデル比で3%のCO2排出量を削減。マセラティらしいパワフルな走りとCO2排出量の抑制を両立したと紹介されている」とのことだが、編集部から自宅までの一般道での燃費は、約5km/リッターにとどまった。これでV6ガソリンターボ比で18%の改善なのか……。考えてみればV6タ-ボなら4km/リッターがいいところかも。納得!
その翌日。メカを知ったうえで、ちゃんと試乗させていただきました。
まずエンジン。マセラティの直4ターボ、なかなか新鮮でイイです! リッターあたり165PSを誇るだけに、本気感が漂っている。どこか「三菱ランサーエボリューション」や「スバル・インプレッサWRX」をほうふつとさせるフィーリングなのである。マセラティらしい色気は控えめだが、全力で頑張ってます! というスポ根感が胸を打つ。
ただ、車両重量は2280kg。いかに「ランエボやインプのエンジン+50PS」といえども、決してそんなに速くはない。速くはないが、スポーツモードでアクセルを床まで踏み込めば、4気筒スポーツエンジンらしい軽いうなりととともに、孝行息子が太った母を背負って全力疾走しているかのようで、グッとくるものがある。もちろん、「速くはない」といっても、日本の交通環境では十分すぎる加速力である。
首都高を流れに乗ってゆっくり流した時の燃費計の数値は、12km/リッターあたりを指した。おそらくこれ以上は不可能というくらい好条件下での記録だが、マセラティとしては望外の低燃費である。
好感度の高いキャラクター
一方、一般道でのゴー・ストップでは、太い低速トルクの恩恵にあずかるというイメージはあまりなく、出足はほんのわずかにトロい。そのあたりでは48Vマイルドハイブリッドシステムが大活躍しているはずだが、それがあまり感じられない。電動ターボのレスポンスも微妙に遅れがちに思える。それらでは間に合わないほど、車体が重いということだろう。V6モデルより軽いとはいえ、2280kgですから。試乗した個体はブレーキサーボ過多でカックン感も強く、街なかではやや乗りづらい印象だった。
同じく2リッター4気筒ターボ(300PS)を搭載する「ランドローバー・ディフェンダー」と比較すると、低速域のドライバビリティーではディフェンダーの勝ち。全開加速時の頑張りではレヴァンテの勝ちだった。スポーツモードでアクセルを床まで踏み抜けば、8段ATのシフトアップごとに「バルン」という軽いアフターファイアー音も楽しめる。しかもそれは全然でしゃばらず控えめなうなりで、そのあたりも親孝行な印象だ。
レヴァンテGTハイブリッドは、クルマの性格上、エンジンの軸足を全開性能に置きつつ、マイルドハイブリッドと電動ターボで日常域をカバーし、全体にマセラティとしては超エコなイメージで仕上げている。フロントサイドのエアインテークのブルーも、どこか国産ハイブリッドカーのようでほほ笑ましい。
というわけでこのクルマ、本気で好印象でした。だって、内外装はものすごくエロくてカッコいいし、お値段はV6より180万円ほどお安くて、エンジンがスポ根の孝行息子なのだから。そんなクルマの悪口言う者はいませんよ!
個人的には、V6ターボやV8ターボより、こういう孝行息子におぶってもらって、ガソリン代をあまり気にせずに(そんなに低燃費でもないですが)、甘い生活を満喫したいなぁと思いました。甘い生活もサスティナブルじゃないと。
(文=清水草一/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
マセラティ・レヴァンテGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5020×1985×1680mm
ホイールベース:3005mm
車重:2280kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:330PS(243kW)/5750rpm
エンジン最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2250rpm
モーター最高出力:--PS(--kW)
モーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
タイヤ:(前)265/45ZR20 XL/(後)265/45ZR20 XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:--km/リッター
価格:1134万円/テスト車=1497万円
オプション装備:ピエノフィオーレ ナチュラルレザー (57万円)/Bowers & Wilkinsサウンドシステム(45万円)/パノラマサンルーフ(38万円)/20インチ エフェストプラティナムホイール(38万円)/アダプティブLEDヘッドランプ(33万円)/メタリックペイント<Grigio Evoluzione>(33万円)/4ゾーンオートマチッククライメート(22万円)/アルカンターラルーフライニング&ピラー(21万円)/プレミアムパッケージ(18万5000円)/ブルーアルマイトブレーキキャリパー(15万円)/フロントシートベンチレーション(15万円)/ソフトドアクローズ(14万5000円)/シートヒーター付きリアシート(6万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(5万5000円)/トランク用キックセンサー(1万5000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1959km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:189.7km
使用燃料:26.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。