アウディQ7 3.0 TFSIクワトロ(4WD/8AT)
あらがいがたい高級感 2016.05.26 試乗記 ボディーの約4割をアルミ化して、旧型比で最大300kgものダイエットに成功した新型「アウディQ7」。新登場の2リッターモデルをダウンサイズの象徴として応援したいところだが、「3.0 TFSIクワトロ」のリッチは味わいには、あらがいがたい魅力があるのも確かだ。ライトウェイト大型SUV!?
アウディQシリーズの最高峰、Q7は、こんどのフルチェンジで大胆なダウンサイジングを敢行した。
ボディー全長が5090mmから5070mmに、2cm小さくなった。というのは「カッコ笑い」だが、車重は旧型比で最大300kgも軽くなっている。白鵬がふたり降りた感じだ。10年ぶりのフルチェンジでプラットフォームを刷新し、ボディーの4割をアルミ化するなどの成果だという。新型はドア、フロントフェンダー、ボンネット、テールゲートがアルミ製である。
さらにエンジンのダウンサイジングが大きく進んだ。日本仕様にも以前あったV8は落とされ、3リッターV6スーパーチャージャーが最大エンジンになり、2リッター4気筒ターボが新規参入した。
大幅な軽量化の結果、このクラスの大型SUVとしてはライトウェイトになった、とはいうものの、2tは下らない。そんなフルサイズ重量四駆がガソリンの2リッターエンジンで動くようになったのだから、欧州メーカー発の“ダウンサイジングターボ”もいよいよ本物になってきた。
例の問題で、フォルクスワーゲンアウディ車のディーゼル導入は遅れている。アウディはまず「A4」から始まる予定で、Q7のディーゼルはまだ少し先になるという。
今回試乗したのは、大きいほうの3リッターV6モデル。価格は2リッターより125万円高い929万円だが、試乗車にはさらに260万円あまりのオプションが盛られていた。
エアサスならではのしなやかさ
新型Q7 3.0クワトロは、実におごそかに走る高級SUVである。アウディジャパンで借り受けて、環八を走りだした途端、ああ、お金持ちって、うらやましい! と思った。
エンジンは、「A6」や「A7」にも使われている3リッターV6スーパーチャージャー。カタログ上はとくにSUV仕立てになっているわけではなく、333psのパワーや44.9kgm(440Nm)のトルクは発生回転数も含めて、変わりない。
オプション満載の試乗車だと、車重は2160kgに達するが、しかしその巨漢にも余裕しゃくしゃくの動力性能を与えている。0-100km/h=6.1秒は、272psだった先代3.0クワトロを1.8秒上回る。この試乗車を『CG』誌が計測しているが、ゼロヨンは14.7秒で駆け抜けている。こんなガタイでも、「TTクーペ」の高性能モデル並みに加速する。速いはずである。
高級な乗り味にはオプション(46万円)のエアサスペンションも大きく貢献している。フワつきはまったくないが、荒れた舗装路での足どりのしなやかさはエアサスを実感させる。
エアサスを選ぶと、オールホイールステアリングが付いてくる。高速では後輪を前輪と同位相にきって操縦安定性を増し、低速だと逆位相に振って小回りをきかせる四輪操舵(そうだ)システムである。前者の効果はわかりにくいが、後者は最小回転半径を5.7mから5.4mに縮めるという。全長5mと7cmのクルマとしては立派だ。フルロックでの低速旋回中、外から注意深く見てると、後輪がわずかにきれてるのがわかる。
3列目は「プラス2」と考えるべき
このクラスの話題作、「ボルボXC90」と比べると、ダッシュボードなどの内装はビジネスライクでおもしろみに欠けるが、装備は豊富だ。
計器パネルは、バーチャルコックピットと呼ばれるアウディの最新インターフェイスである。速度計とタコメーターを最小化して、真正面にカーナビの地図を展開できる。俯瞰(ふかん)画面にして走っていると、行く手をドローンの目線で見渡せて、わかりやすいし、おもしろい。渋滞アシストをはじめとするドライブ支援機能も充実している。
乗車定員を2名プラスの7名にするオプション(35万円)のサードシートは、起立も格納も電動式。ただ、このボディーサイズをもってしても、居住性は補助イスの域を出ない。バックレストは角度が立ち気味で、足もとも窮屈だ。2列目シートの背もたれが立ちはだかって、見通しも悪い。だから、オプション扱いにするのは賢明だと思う。
エアサスペンション装着車は、荷室側壁にあるスイッチで、リアを約5cmローダウンできる。ノーマルだと荷室床面は地上高75cm。「A4アバント」より10cm以上も高い。重量物の出し入れ時にはありがたいローディングモードである。クルマをこんなにデッカくするからいけないのだが、現代の経済成長はそういうマッチポンプで成り立っている。
3.0クワトロがお薦め
相前後して、2リッターモデルにも乗ってみた。どんなクルマも、心情的にはベーシックモデルを応援したいが、Q7の場合、エアサスペンション付きの3.0クワトロを知ってしまうと、悠揚迫らぬこの高級感には抗し難いと思った。
2.0クワトロのエンジンは、新型A4クワトロと同じ252psの4気筒ターボ。スタートダッシュの力強さなどはなかなかのものだが、右足のわずかな踏み込みにも反応する3リッターV6のリッチなトルク感はない。
ダブルウイッシュボーンのメカサスは、よく言えばスポーティーで若々しいが、乗り心地の豊かさはエアサスにかなわない。いちばん高い“リフト”から、いちばん低い“ダイナミック”まで、ドライブモードに応じて車高を自動的に変化させる機能もエアサスでないと付いてこない。
Q7に限らず、日本でのアウディセールスの特徴は、新車が出た直後は高いグレードが売れ、時間がたつにつれ、下のグレードが巻き返してくるのだそうだ。
アベノミクスが効いて、Q7に手が伸ばせる幸せな人には、エアサス付きの3.0クワトロをお薦めする。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
アウディQ7 3.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5070×1970×1705mm
ホイールベース:2995mm
車重:2160kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:333ps(245kW)/5500-6500rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/2900-5300rpm
タイヤ:(前)255/55R19 111Y/(後)255/55R19 111Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:11.4km/リッター(JC08モード)
価格:929万円/テスト車=1192万円
オプション装備:オプションカラー:グラファイトグレーPE(9万円)/7シーターパッケージ:3列目シート、サンブラインド、4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナー、シートヒーター(フロント/リア)(35万円)/アダプティブエアサスペンションパッケージ:アダプティブエアサスペンション、オールホイールステアリング(46万円)/バング&オルフセン 3Dアドバンストサウンドシステム(88万円)/プライバシーガラス(7万円)/マトリクスLEDヘッドライト(14万円)/リアアシスタンスパッケージ:アウディサイドアシスト、アウディプレセンスリア、サイドエアバッグ(リア)(14万円)/アドバンストオプティクスパッケージ:ナイトビジョン、ヘッドアップディスプレイ(50万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3225km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:262.9km
使用燃料:41.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
NEW
アルファ・ロメオ・ジュニア(後編)
2025.11.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「アルファ・ロメオ・ジュニア」に試乗。前編では内外装のデザインを高く評価した山野だが、気になる走りのジャッジはどうか。ハイブリッドパワートレインやハンドリング性能について詳しく聞いてみた。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.11.22試乗記初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――フォルクスワーゲンID. Buzzプロ編
2025.11.21webCG Moviesフォルクスワーゲンが提案する、ミニバンタイプの電気自動車「ID. Buzz」。“現代のワーゲンバス”たる同モデルを、フォルクスワーゲンをよく知るレーシングドライバー山野哲也はどう評価する? -
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記
2025.11.21エディターから一言アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!? -
みんなが楽しめる乗り物大博覧会! 「ジャパンモビリティショー2025」を振り返る
2025.11.21デイリーコラムモビリティーの可能性を広く発信し、11日の会期を終えた「ジャパンモビリティショー2025」。お台場の地に100万の人を呼んだ今回の“乗り物大博覧会”は、長年にわたり日本の自動車ショーを観察してきた者の目にどう映ったのか? webCG編集部員が語る。 -
「アルファ・ロメオ・ジュニア」は名門ブランド再興の立役者になれるのか?
2025.11.20デイリーコラム2025年6月24日に日本導入が発表されたアルファ・ロメオの新型コンパクトSUV「ジュニア」。同ブランド初のBセグメントSUVとして期待されたニューモデルは、現在、日本市場でどのような評価を得ているのか。あらためて確認してみたい。

































