アウディQ7 2.0 TFSIクワトロ(4WD/8AT)
見た目も走りも軽やかに 2016.05.05 試乗記 アウディの最上級SUV「Q7」が、10年ぶりにフルモデルチェンジ。新開発のボディーや高効率エンジンが自慢の新型は、どんなクルマに仕上がったのか? ベーシックな2リッター直4モデルで確かめた。デカけりゃいいってもんじゃない
今から10年前に、初代Q7を初めて目の当たりにした時の、第一印象……というよりも、まず驚かされたのは、とにかくそれが「巨大」なことだった。
デザインのテクニックで大きく見せるとか、全高が高いのでボリュームが増して見えるとか、そういった問題ではなく、とにかく実際の寸法が大きかったのだ。
全長は5mを大きく超え、全幅もあとわずかで2m。そもそもホイールベースが3mもあるというのだから。ショーファードリブンのストレッチリムジンでもないのに、なんぼなんでもこれはちょっとやり過ぎでしょ!? というのが、個人的な印象でもあった。
もっとも、このクルマが主戦場としていたのは、北米のマーケットだ。単なる旅行者とはいえ、かの地でいくつかの街を何度か訪れた経験からすれば、このボディーサイズが現地では問題にならないことは、想像できた。
その一方で、そんなアメリカという“巨大ガラパゴス市場”を念頭に開発されたモデルを狭い日本で安易に売るのは、迷惑だからやめてほしい! などと本気で思ったものだった。
当時、そうした気持ちを素直に原稿にしたためたら、反論の声がちらほら聞こえてきた。インターネットが発達して、誰もかれもが気軽に意見を発せられる今の時代だったら、ちょっとした“炎上事件”になったかもしれない……などと、初代登場のころを、懐かしく思ってしまう。
おどろきのシェイプアップ
10年ぶりにフルモデルチェンジが実施されて、新型のボディーサイズは、わずかながら小さくなった。だから、開発陣の中にも「初代モデルは、なんぼなんでも大き過ぎた」と考える人は、少なからず存在したのではないかと思う。
もっとも、実際のスペックでサイズ以上に注目したいのは、その車両重量の方だ。昨今、「従来型比で〇〇〇kgの軽量化」などとうたうモデルは少なくないが、その多くは、出力を同等とした上でエンジンの気筒数を削減した分が、数値に含まれている。
けれどもQ7の場合は、「ボディー単体で71kg軽量化した」とされており、車重は2リッターモデルが2000~2060kg、3リッターモデルが2080~2140kgと、先代モデルに比べて最大300kg以上身軽になっている。これは正真正銘、リバウンドなし(?)のシェイプアップ成功例と言っていいはずだ。
とはいうものの、重量が2トンを大きく超え、全長も5mを超えるクルマを、不特定多数の人にパーソナルカーとして薦めることには、まだ個人的に抵抗がある。それでも、直線基調を強めたエクステリアデザインのおかげで、従来型よりも見た目の軽快感は増しており、Q7というモデル自体が放つ現実的なムードもこれまで以上に強くなって、全般的に、より親近感が持てるクルマに仕上がった。
ATの出来や静粛性にも感心
日本に導入される新型Q7は、今のところ、2タイプのガソリンエンジンを搭載する。今回テストした「2.0 TFSIクワトロ」には、ターボ付きの2リッター直列4気筒ユニットが積まれるが、思い起こせば、初代モデルには4.2リッターのV8ユニットも設定されていた。エンジンの排気量が10年で半分以下になったと考えると、ちょっと感慨深いものがある。
そうなると気になるのが、「そんな小さな心臓で、十分満足に走れるのか?」ということ。軽くなったとはいえ、それでも2トン超という重量級ボディーの持ち主ゆえ、そんな心配が生まれるのも当然というものだ。
結論から言えば、さすがに“軽々”とはいかないものの、日常のシーンで不足なく走らせるだけの力量はある。ただし、より正確に表現するなら、そうした印象が得られるのは、エンジンだけでなく、8段トランスミッションの優れた仕上がりや静粛性の高さも手伝ってのことである。
頻繁に変速が繰り返されても気になるショックも伴わず、エンジン回転数と車速の伸びが気分よくリンクする、出来のいいAT。エンジン回転数がそれなりに高くなっても、その音が気にならない室内。それらの要素が合わさっての好印象といえる。
実際、さほど強い加速力を必要としない街乗りのシーンでも、エンジン回転数が3000rpmを超える場面は多く、やや素早い加速が必要となると、5000rpm付近まで回るシーンも珍しくない。そうした場合でも、エンジンノイズは厚いオブラートに包まれているかのようで、室内は高い静粛性が保たれる。
エンジン単体の実力のみならず、組み合わされるトランスミッションの出来栄えや防音・遮音性の高さもあって初めて、2リッターのQ7は、製品として成立しているという印象なのだ。
高級セダンの乗り心地
新型Q7では、この2リッターモデルにも、リアのアクティブステアリングシステムを同時に採用するエアサスペンションがオプション設定される。ただ、今回のテスト車には搭載されていない。一方で、標準サイズに比べて2インチアップとなる20インチのシューズが装着されていた。
同じくオプション扱いとなる「7シーターパッケージ」は選択されていたものの、今回のテストドライブは、1人もしくは2人乗り。こうした状況では、そのフラット感や乗り味は、同時に乗った3リッターモデルのエアサスペンション付きと比べても遜色ない。高級セダン「A8」に匹敵すると言っても過言ではない、上質な乗り心地を堪能することができた。
前述の20インチシューズも、特に快適性に悪影響を及ぼしているという印象はなかった。Q7はボディーの側面積があるので、大径シューズがもたらすルックス面のメリットは小さくない。しかし、いざタイヤ交換となれば標準の18インチよりもはるかに大きな出費を伴うのは確実。このあたり、てんびんに掛ける必要はありそうだ。
そんな大きなシューズも功を奏してか、コーナリング時の回頭性については、気のせいではなく、V6モデルよりも軽やかに感じられた。
一方、瞬間燃費計の表示において、走行シーンによっては3リッターのV6モデルを下回る場面も少なくなかったのは、やや気になった。スイートスポットにはまれば優れた燃費が得られる2リッターという排気量も、高負荷領域を多用すれば、余力の小ささがマイナス要因に働いてしまう可能性はあるだろう。
2リッターを下回る排気量を設定した背景には、ここを境目として税制が大きく変わるマーケットを強く意識したという事情も多分にありそうだ。1リッターもの排気量差があるとはいえ、実燃費は、3リッターモデルとさほど変わらないかもしれない。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
アウディQ7 2.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5070×1970×1735mm
ホイールベース:2995mm
車重:2040kg
駆動方式:フルタイム4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:252ps(185kW)/5000-6000rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)285/45R20 112Y/(後)285/45R20 112Y(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:804万円/テスト車=899万円
オプション装備:7シーターパッケージ<3列目シート+サンブラインド+4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナー>(35万円)/アルミホイール10Yスポークデザイン 9J×20+20インチタイヤ(29万円)/マトリクスLEDヘッドライト(31万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2392km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:212.9km
使用燃料:26.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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