アウディQ7 55 TFSIクワトロSライン(4WD/8AT)
新時代のアウディ・ライド 2020.11.03 試乗記 アウディがラインナップする3列シートのフルサイズSUV「Q7」が、フルモデルチェンジから4年を経て大幅な改良を受けた。パワートレインが刷新された改良モデルはどのような走りを実現しているのか? スポーティーな「Sライン」モデルで試した。想像以上に取り回しがしやすい
アウディQ7を見るたびに、その大きさに少しあきれつつ、しかし「苦手だな、このクルマ」と感じないでいられるのは、この2代目が果たした進化のおかげである。
具体的に言うとそれは、MLB evoプラットフォームがもたらした軽量化と、4WSの採用。特に可変ステアリングと連動するリアステアによって、Q7はとても小回りが利くのである。ちなみにその最小回転半径は5.3mと、アウディの主力機である「A4」(5.5m)よりも小さい。1970mmという全幅に気をつかわないと言ったらウソになるけれど、見晴らしのよい運転席でハンドルを回せば、思った以上にこの巨体を、直感的に動かすことができる。
そんなアウディQ7を今回試乗に連れ出したのは、同車がフルモデルチェンジから4年を機に大幅な改良を受けたからである。
ただ外観に関しては、さほど大きく変わった印象を受けない。そのシングルフレームグリルはこれまでのヘキサゴン(六角形)から、アウディのSUV製品群「Qシリーズ」を表すオクタゴン(八角形)へと変わったという。しかし2辺増やされたのはグリル下部であり、それも極めて辺が短いから、遠目から見ればほぼヘキサゴン(笑)。Qシリーズの“奇数モデル”は“偶数モデル”に対してオーソドックスなSUVスタイルだから、「便宜上そろえました」という感じなのだろうか。テールゲートに追加されたアルミ製ストリップのコンサバぶりも上品であり、この程度の変更ならマイナーチェンジ前のオーナーもさほど気にならないだろうと思える“意匠合わせ”だった。
二律背反を技術で克服する
いっぽう、インテリアに最新のインフォテインメントシステムがインストールされたのは、前期型オーナーにとっても気になる部分だろう。メーターナセルの中に収まる「バーチャルコックピット」は従来型にもあったものだが、ダッシュボード中央に2段構えで収まるタッチスクリーンは、ピアノブラックでまとめられたインパネともトーンがそろい、極めて洗練度が高い。大画面の迫力を自慢するでもなく、さも当たり前のようにすましている様は、ちょっとスノビッシュだ。
アウディはこのタッチパネルにフィードバック機能(ボタンを押すとクリック感が出る)を仕込んでいるが、正直、運転中は旧来の物理スイッチの方が操作しやすい。フェザータッチでボタンの位置が探れるから、ブラインドでも余計なボタンを押さないで済む。とはいえ見た目は格段にタッチパネル式が今様であり、すでに時代はこちら側へとシフトしている。将来的に音声操作機能やジェスチャー操作機能がさらに発達すれば、こうした話題すら過去のものとなってしまうのだろう。
さてクルマの話が家電化する前に、Q7のインプレッションをしよう。Q7で筆者がいつも感心するのは、その大いなる“癒やし”感である。これを実現しているのは、前述した車格に比しての車重の軽さ(2160kg)と4WS、そして上品な乗り味でボディーを支える、エアサスペンションの3つだ。
軽いとはいえ2tを超えるクルマだけに、その乗り味には基本、重厚感がある。しかしひとたびステアリングを切れば、Q7は軽やかに向きを変え、混み合った街なかをすいすいと泳いでいく。その際、路面からの入力はエアサスが素早く吸い上げてしまうから、乗り心地はすこぶるいい。
「重厚なのに、軽やか」
この乗り味はミドルサイズを超える高級SUVの多くが求める性能で、言葉で書けばその美点はすべて同じものになってしまうのだが、それでもQ7の癒やし度は頭ひとつ抜きんでている。
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21インチの大径ホイールを見事に履きこなす
「メルセデス・ベンツGLS」に比べ少し小ぶりで軽量なボディーは、確実にその分イナーシャが少なく、ロールやピッチングが抑えられる。「BMW X7」もハンドリングにこだわりを感じられるクルマだが、リアステアを持たない分だけ、スポーティーさよりもまったり感のほうが支配的になる。
試乗車はスポーティーなサスチューンのSラインで、かつオプションの21インチタイヤが装着されていたが、バネ下の動きは専用のサスペンションチューニングによって見事に制御されていた。うねりが大きい路面では多少横揺れ感も出るが、大径タイヤの存在が気になるほどではない。
Q7の快適な乗り味は、シャシーだけでなくパワーユニットによっても支えられている。エンジンはこれまで通り3リッターの排気量を持つV6だが、その過給機はスーパーチャージャーからツインスクロールターボに変更され、アウトプットが333PS/440N・mから340PS/500N・mへ向上した。そして新型はここに、48Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせている。
ただ、いくら48Vの電圧をもってしても、このサイズだとモーターの恩恵を強く感じるほどではない。ゼロ発進加速は内燃機関の押し出し感が主体であり、それが速度が乗ってタイヤが転がりだすと、エンジン回転が低く抑えられていく。そしてパーシャルスロットルから注意深くアクセルを踏んでいくと、エンジン回転は一定なまま、ジワーッと速度が上がる。つまり日常では、モーターのことを強く意識することはないだろう。そんな黒子具合だ。
ちなみに高速巡航では、100km/hでのエンジン回転は1500rpm程度。“滑走状況”が続くと、このパワーユニットは街なかでも積極的にエンジンをコースティングする。
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未来につながるシームレスライド
もちろんグッとアクセルを踏み込めば、Q7は期待にたがわぬ力強さで加速態勢へと入ってくれる。V6とは思えない、精緻で滑らかな吹け上がり。気持ちいいトルク感を維持しながら高回転まできれいに伸びていく様は、ツインスクロール化したターボの恩恵か。
この巨体でも加速時に車体が無粋なピッチングを起こさないのは、フルタイム4WD「クワトロ」の効果だろう。ちなみにQ7のクワトロは最新世代のウルトラ式(クラッチ式AWD)ではなく、今なおセンターデフ式。通常時のトルク配分は40:60で、安定している中にもリアからの蹴り出しが感じられて運転が楽しい。燃費性能においては後輪の駆動をカットするウルトラ・クワトロのほうが圧倒的に有利なはずだが、本来のテイストという点では、こちらに軍配が上がると筆者は感じた。
このままアクセルを踏み続ければ、きっと200km/h巡航だって楽勝だろう。でもQ7に乗っていると、そんな気持ちは起こらなくなる。その理由は快適な乗り心地と気持ちいい操作感に加え、高い静粛性が得られているからだ。
かつては雨が降ろうが槍(やり)が降ろうが、どこまでも矢のように真っすぐ突き進んでいく走りがアウディ最大の魅力だった。しかし今彼らが目指しているのは、こうしたスタビリティーを維持した上で、どこまでも静かに走り切ること。それを意識させられたのは、「e-tron」に乗ってからだった。ピュアEVであるe-tronに乗ったとき初めて、「あぁアウディは、この乗り味を内燃機関の時代から目指し始めていたんだな」と合点がいった。ピュアEVがもたらすシームレスライドへの違和感のないスイッチは、すでに始まっていた。そんなことを思わされるQ7の試乗だった。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディQ7 55 TFSIクワトロSライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5065×1970×1705mm
ホイールベース:2995mm
車重:2200kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340PS(250kW)/5200-6400rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)285/40R21 109Y XL/(後)285/40R21 109Y XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:9.3km/リッター(WLTCモード)
価格:1020万円/テスト車=1099万円
オプション装備:ボディーカラー<マタドールレッドM>(9万円)/アルミホイール 5ツインスポーク モデュールデザインマットグレー 9.5J×21+285/40R21タイヤ(23万円)/7シーターパッケージ<3列シート+4ゾーンオートマチックエアコンディショナー+パワードアクロージング>(29万円)/BOSEサウンドシステム(18万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1968km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:249.1km
使用燃料:40.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.2km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。