ボルボS90 T6 AWD(4WD/8AT)/V90 D5 AWD(4WD/8AT)
新時代のフラッグシップ 2016.08.02 試乗記 ボルボの新しいフラッグシップモデル「S90/V90」に試乗。ジャーマンスリーが牛耳るラグジュアリークラスに投じられた“スカンジナビアの良心”は、われわれの期待にしっかり応えてくれる実力派だった。南スペイン・マラガからの第一報。2019年までにすべてが新世代へ
現在の「XC90」は、2019年までに“最も古いボルボ車”となる――地中海に面したスペイン南部の都市、マラガの近郊で開催されたボルボの最新セダンとステーションワゴン、S90/V90の国際試乗会は、そんなインパクトに満ちたフレーズが盛り込まれたカンファレンスで幕を開けた。
現行XC90は、日本では今年になって発売されたばかりの、まだまだ最新モデルの雰囲気が色濃いボルボ車。そこに“古い”なる形容詞があてはめられたのだから、一瞬「聞き間違えか!?」と思ったのも無理はないだろう。
が、冷静に解釈すればそんな冒頭のコメントは、「2019年までには現行ボルボ車のすべてが、新世代骨格の持ち主へと刷新される」と読み換えられることが分かる。
実際、XC90で初採用された“SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)”と呼ばれる中型モデル以上を対象とした新骨格は、早くもこのS90/V90へと展開されたし、「S60/V60」や「V40」などよりコンパクトなモデルにも2017年以降に、新開発の骨格“CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)”を採用すると、先だって発表済みだ。
加えれば、すでにプラグインハイブリッド・モデルが設定されている前出“SPA”を用いるモデルには、さらに2019年になるとピュアEV仕様が追加をされることも示唆されているのだ。
つまり、この時点ですべてのボルボが新骨格採用車となり、その中でもXC90は“最も古くなる”と宣言をされているわけだ。
伸びやかなプロポーション
かくして基本骨格に“SPA”を採用し、ハードウエア面では最新のXC90と多くの共通項を備えるS90/V90。
一方で、フラッグシップSUVのXC90に対し、セダンのS90、ステーションワゴンのV90でまず趣を大きく異にするのは、当然ながらまずはそのルックスということになる。
何だかボルボ車らしくなく、妙にスタイリッシュだな……と、S90とV90を目にしてそんな褒め言葉(?)が思い浮かんでしまうとしたら、恐らくそれは前輪位置が前に出されてフロントのオーバーハングが短く、ノーズもすらりと長いという、「FFレイアウトの持ち主らしからぬ伸びやかなプロポーション」が、ひとつの要因となっているに違いない。
ボディー骨格のみならず、エンジンやシャシー、さらには生産設備までを含めたすべての組織構造を一挙に改革するために、「スウェーデン史上で最大級の110億USドルを投資」というニュースは、まだ記憶に新しいところ。そして、その結果に生まれたひとつの結論が、「エンジンは4気筒(か、それ以下)のみ」というものだ。
こうなると、エンジンルーム周りも当然それに照準を合わせた、無駄のないパッケージングを構築できるという理屈だ。過大なオーバーハングを廃した“FR車のように伸びやかなプロポーション”は、見た目から判断できる新世代ボルボ車の証しでもあるわけだ。
ボルボらしさの再考
北欧の神話に描かれる雷神が手にする“トールハンマー”をモチーフとしたヘッドライトを、文字通りのアイキャッチャーとしたフロントマスクは、XC90以降に登場する最新ボルボ車に共通するアイコンだ。
ちなみに、最近それを採用したV40とすれ違った際には、まるで完全なニューモデルがやって来たのかと、その“フェイスリフト効果”の高さにビックリしたものでもある。
全長が5mに迫ろうというサイズの持ち主ならば、それも当然! と言われてしまうかもしれないが、S90の後席の居住性はやはり相当なものだし、コンビネーションランプのグラフィックなどからリアビューに「ボルボのワゴン」の雰囲気を強く残したV90では、視覚的な重心がグンと後ろ寄りとなったことで、またセダンとは異なった固有の雰囲気の持ち主に仕立てられているあたりがなかなかうまい演出だ。
そんなV90で、旧来のボルボVシリーズと大きく異なる考え方を示すのが、バックライト(リアウィンドウ)の強い前傾度だ。
理詰めに考えれば、そんな手法は当然、積載量を減少させてしまうもの。が、そこは「とことん積みたいのであればXC90を」という割り切りの判断が働いているに違いない。
こうして、これまでのボルボ車ではちょっとお目に掛かれなかった、自身の立ち位置までをも踏まえた巧みなマーケティングが感じられるところも、「なるほど、さすがは新世代」という印象なのである。
センターディスプレイの功罪
そして、そんなS90/V90のさらなる“見せ場”は――XC90での実績から、半ば予想が付いたものではあったが――そのインテリアにあった。
基本はシンプルでクリーンな、いかにも“スカンジナビアン・デザイン”を感じさせるものでありつつも、そこに贅(ぜい)を尽くした素材の吟味感や華やかさを加えた仕上がりは、何とも新鮮で魅力的だ。加えて、シートのゆったりとしたサイズ感やボディーカラー/インテリアカラーの豊富さが、ボルボ車の良き伝統だ。
一方、XC90に続いて採用された、大型のセンターディスプレイ内に表示されたさまざまなアイコンを操作するタッチ式のスイッチは、残念ながら必ずしも機能的とは言い難い印象。操作の完了まで目視が欠かせず、そもそも走行中は振動で指先をアイコンに“命中”させるのが困難になるこの方式は、「必ずしも自動車の操作系には向いていない」という印象を新たにせざるを得なかったからだ。
装備の増加や機能の多様化に伴って増え続けるスイッチの数を、「もうこのあたりで何とかしたい」というデザイナーの思いは理解ができる。が、事は安全性に直結する問題だ。
今回も、ライバルに先んじた多くのハイテクデバイスの採用などで、「安全」には一家言を持つボルボが、この点をブレークスルーできなかったのは残念。本来は、優れた視界を確保するためのアイテムであるドアミラーが、その取り付け位置と大きさのため、背後に大きな死角を生み出してしまう点も含めて、“視界”と“操作性”にはまだ課題を残すことになっている。
スカンジナビアの良心
試乗会場に用意されたS90/V90は、いずれも4WDシャシーと組み合わされた「T6」と「D5」グレード。ターボとメカニカルスーパーチャージャーの双方を備え、320psの最高出力を発する2リッターのガソリンエンジンを搭載する前者は主にS90で。また、最高出力235psを発するターボ付き2リッターのディーゼルエンジンを搭載する後者は、主にV90でテストドライブした。
まず、S90でのスタート直後に感じたのは、同じコンポーネンツを採用するXC90に対して、明確に静粛性が優れる印象だった。
エンジン音が静かというにとどまらず、ノイズ全般のマネジメントが、XC90よりも向上している。あえて高回転域まで引っ張れば、確かに“4気筒音”が耳に届く。が、そもそも8段ATとの組み合わせで0-100km/h加速のタイムが5.9秒という俊足ぶりゆえ、そんな音が気になるまで回す機会など、まずあり得ないのだ。
一方、そんな静かさではディーゼルのV90も「負けず劣らず」。
パワー値は劣ってもトルク値では逆転するD5グレードは、常用するエンジン回転域がT6よりも低いことが大きな美点。“スムーズで静かで、速くて、頭打ち感ナシ”となれば、「当初はガソリンから」という日本にも、ディーゼルの早期の導入を期待したくなるのは当然だ。
レベライザー機能を目的とした後輪への設定にとどまり、XC90のように4輪に向けての設定はないエアサスペンションだが、S90でもV90でも基本的な乗り味は「それ」をほうふつとさせる、ゆったりとしなやかな印象。
ただし、路面状況により、大きく煽(あお)られるようなシーンに遭遇すると、絶対的なサス・ストロークはさほどではない印象……というのは、実はやはりXC90と共通するものであったりもする。
決して“鈍い”わけではないものの、ステアリング操作に対してややおっとりとした応答感が得られるのは、最近妙に「敏捷さ」を売り物としたがる一部のドイツ発のモデルたちとは、異なる狙いどころが認められるもの。
そんな“ジャーマンスリー”を中心としたライバルたちをキャッチアップしつつ、故郷であるスカンジナビアの地に対する思いをしっかり詰め込んだ仕上がりを示すのがS90とV90。なるほどそれは、新世代ボルボ車に対する期待値に、しっかり応えてくれる実力の持ち主であるのだ。
(文=河村康彦/写真=ボルボ)
テスト車のデータ
ボルボS90 T6 AWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4963×1890×1443mm
ホイールベース:2941mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:320ps(235kW)/5700rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2200-5400rpm
タイヤ:(前)--/(後)--
燃費:7.2リッター/100km(約13.9km/リッター)(欧州複合サイクル)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ボルボV90 D5 AWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4936×1890×1475mm
ホイールベース:2941mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:235ps(173kW)/4000rpm
最大トルク:48.9kgm(480Nm)/1750-2250rpm
タイヤ:(前)--/(後)--
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター)(欧州複合サイクル)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。








































