アルファ・ロメオ・ミト コンペティツィオーネ(FF/6AT)
いまが食べどき 2016.09.06 試乗記 アルファ・ロメオのスポーティーコンパクト、「ミト」にあらためて試乗した。デビューから8年を経て、熟成はどこまで進んだのか。箱根のワインディングロードを目指した。いまミトに注目するワケ
クルマとの生活を楽しくしたいなら、いまミトに乗るのはいい選択かもしれない。8年も前の2008年に登場したハッチバックにそんなことを思うなんて、「え~!?」っと低いトーンで反論されてしまいそうだが、試乗を終えるころ、筆者は本当にそう思っていた。今回はそれがなぜなのかを、しっかり分析して報告しよう。
まずは少しだけおさらいをすると、ミトはフィアットの「グランデプント」とプラットフォームを共用したアルファ・ロメオのBセグメントカー。その名は「ミラノでデザインされ、トリノで作られた」から「Milano e Torino」、すなわちMiTo(ミト)になった。
余談だが、筆者はこのグランデプントのホットモデル「アバルト・グランデプント」が大好きだった。もっと詳しくいえば、おっとり顔をした初期モデルの方である。たしかキミ・ライコネンがF1に嫌気がさして、ラリーに転向したころ、これのWRカーに乗っていた。
初期のアバルト・グランデプントは、そのイメージとは裏腹に足まわりがとてもしなやかで、プレミアムコンパクトのはしりといえる味付けだった。だからコーナリングスタビリティーは高く保ちながらも、普段の乗り心地は快適。なおかつ見た目は派手過ぎずスタイリッシュで、しかも日本では少数派だったから、街中でもセンスよく目立った。もちろんパワーもそこそこ以上で、とにかくオシャレで楽しかったのである。
この傑作アバルト・グランデプントに対して、アルファ・ロメオはミトの存在を際立たせる必要があったのだと思う。しかし当時のアルファ・ロメオは、動力性能面で一番わかりやすいキャラクターだった直列4気筒ツインスパークを失ったばかりであり、あの「ローン!」とむせび泣く自然吸気エンジンが、ターボへとスイッチしたその落差が大きすぎて、がっかりさせられたのを筆者は覚えている。
またサスペンションもアバルト・グランデプントより少しスポーティー方向に振ったつもりだったのだろうが、残念ながら明確に差別化するまでには至らなかった。むしろ、ちょっと乗り心地の悪さが目立ってしまっていたと記憶している。
これぞアルファ・ロメオのフットワーク!
それなのに、なぜいまミトに乗るとよいのだろう? それは、いままでコツコツと続けてきたミトの努力が、報われたからだと思う。それと同時に、周りがどんどんつまらなくなっていったからである。
確証が得られたわけではないが、ミトのシャシーはおそらく着実に改良されている。それがスプリングレートなのか、ダンパーの減衰力設定なのか、ブッシュのコンプライアンスなのかはわからないが、細かい部分で熟成がなされ、そのハンドリングは当初の「プレミアムスポーティー」というコンセプトを、きちんと結実させたのだ。
ステアリングを切り始めたときの応答性は、クイック過ぎずリニア。だからターンインでは極めて気持ち良くコーナーへ進入できる。コーナーミドルでは、外側のタイヤ2輪をうまく接地させて、極めて高い旋回速度でクリアできる。その際、車体の軽さが生きて、微妙なアクセルオフやステアリング操作で、旋回中の姿勢が調整しやすい。これこそ、アルファ・ロメオじゃないか!
実際こうした小変更や小改良を、アルファ・ロメオはなんのアナウンスもなしによくやる。だから熟成したころが実は一番“食べどき”なのだ。
もちろん気になるところがないわけじゃない。試乗車に装着されていた17インチタイヤは内圧の指定が燃費重視で、乗り心地を著しく悪化させる領域がある。また「コンペティツィオーネ」と名付けたのも無理やりな気がする。大きなタイヤを履かせて、派手な名前を付けないと末期モデルは売れないと考えるのはやめにしたほうがいい。16インチタイヤを履かせて、本来ミトが持つ良さをもっとアピールしてほしいと筆者は感じた。また、レーンキープアシストや自動ブレーキといった現代の常識装備はやはり欲しいところだ。
時代がマルチエアに追いついた
ともあれ、こうしたシャシーの熟成と併せて、時代がやっとアルファ・ロメオに追いついたと感じさせられる部分がある。それは、1.4マルチエアターボエンジンの気持ち良さだ。
いまでこそダウンサイジングターボは欧州のスタンダードとなったが、ここに早い段階から着目していたアルファ・ロメオは、“環境性能ターボ”にもきちんとエンジンとしての楽しさを持たせている。
ただミトの場合は、前述した通り、ツインスパークとの落差が激しかったから、そのキャラが目立たなかった。だが周りがダウンサイジングターボばかりとなったいま、その良さがとても際立つのだ。
通常は燃費性能を最優先したスケジュールで走るミトは、D.N.A.スイッチを「D(ダイナミック)」モードに入れると、本当にキビキビと走る。過給の掛かり方は、ターボとしては理想的なトルクの押し出し感と伸びやかさを両立させていて、アクセルの踏み方次第でちょっとピリ辛(全開)にも、スポーティー(パーシャルスロットル)にも調整できるレスポンスの良さを持っている。
ミトはゆるキャラ!?
正直に告白すると、筆者はミトの「アルファ8C」顔がちょっと苦手だった。なぜなら、この顔がBセグメントの小さなボディーに埋め込まれると、なんだかコアラかウォンバットのように見えてしまったからだ。
でも不思議なもので、その走りが良くなると、印象はガラリと変わった。ミトのデザインを手がけたチェントロスティーレ・アルファ・ロメオにしてみれば不本意かもしれないが、ミトをゆるキャラだと思えば納得できるし、あるいはその少し緩慢なアルファTCTのつながりさえ、愛らしく思えてくるようになった。
すると、良いところがどんどん目立ってくるから面白い。ダイナミックにデザインされたインパネや、前後ともにレザーとなるシート、またそのパンチングレザーを使った座面や、刺しゅうで表現されたエンブレムにしても、質感が驚くほど高いことに気付かされる。そして前席にはアームレストまで用意されている。とてもBセグメントカーとは思えない、その堂々とした雰囲気や装備に、小さな高級車を感じた。
だからいま乗ると、意外やミトはいい。シンプルで性能が良く、ミニマムなモノの価値観が認められる世の中で、とても光って見えるのである。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ミト コンペティツィオーネ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4070×1720×1465mm
ホイールベース:2510mm
車重:1260kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:135ps(99kW)/5000rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/4500rpm(Natural/All weather)/23.5kgm(230Nm)/1750rpm(Dynamic)
タイヤ:(前)215/45ZR17 91Y/(後)215/45ZR17 91Y(ピレリPゼロ ネロ)
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:330万4800円/テスト車=334万2060円
オプション装備:ETC(1万0260円)/フロアマット(2万7000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4510km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:293.9km
使用燃料:27.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。