第2回:簡単に、買えると思うな、8リッター(字余り)
2016.11.11 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
第2回を始める前に、まずは読者諸兄姉に御礼を一言。メールやフェイスブックでのご声援、本当にありがとうございます。
愚生、これを支えに貯金が枯れ尽きるまで走り続ける所存です。当エッセイは不定期ですが、購入にまつわるネタを出し終えるまでは毎週掲載で突っ走りますので、お時間のある時にご笑納くださいませ。
そんなわけで、第2回は購入までの経緯を語らせていただきます。
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タマがないわけではないのだが……
PS
どうでも良いことなのですが、現在MINIの後継機を物色中です。
(1)ポルシェ944ターボ(コミコミ318万円くらい)
(2)初代ダッジ・バイパーGTS(コミコミ550万円くらい)
今尾様は同思いますか?
※誤植&誤変換は原文ママ。
Gmailの記録によると、私が(一方的に)師と仰ぐ自動車ライターの今尾直樹氏に、上述の追伸を添えたメールを送ったのは2016年7月26日のこと。恐らくこれが、私が周囲に「バイパー探してます~」と己が愚行を暴露した、最初の例だと思われる。
わが記憶が確かなら、このとき私はすでに「次のクルマはバイパー」と心に決めていた。天下のポルシェを併記し、あまつさえそれを先に挙げているのは、思春期の男子がエッチな本を購入する際、ほかの本でサンドしてレジに持っていくのと同じ心理が働いたからである。
それはさておき、記者は上述のメールからおよそ2カ月でバイパー購入にいたるのだが、その間、とにかく物件探しで困った。お察しの通りタマがないのだ。ゼロではないのだが、なんと言うか絶妙な感じでタマがない。
具体的な話をさせていただくと、文中の“初代ダッジ・バイパーGTS(コミコミ550万円くらい)”というのは、某中古車情報サイトで実際にヒットした物件である。このとき、初代バイパーのクーペはほかに、東海地方で1件出ていただけだった。
走行距離が3万kmちょい、しかもダイムラー・クライスラー日本時代の正規輸入車ということもあり、この個体は現在のわがマイカーより100万円以上高い値札を下げていた。それでも私は実際にブツを拝みに行ったのだが、店に着いたときには、その個体はタッチの差で“売約済み”となっていた。
しからば、次の候補は東海地方で出ている個体ですね、となるところだが、こちらはリアにGTウイングがそそり立ち、どでかいホイールがギラギラ光り、とにかく自分の好みではない。「赤いボディーカラーはいいんだけどな」などとつぶやきつつ、私はこの物件をスルー。新たな個体が出てくるのを待った。
待てど暮らせど来ぬ人を……
それからというもの、バイパーの新しい個体はまったく浮世に姿を現さなかった。『カーセンサーnet』にも『Goo-net』にも物件新着お知らせメールの登録をしておいたはずなのに、わがスマホは巌のごとく沈黙を守り続けたのだ。
もちろん、昭和生まれの記者は電脳世界のみに頼ることなく、古式ゆかしく書店で自動車雑誌を立ち読みしては物件欄をチェックしていたのだが、こちらも目ぼしいタマはナシ。気分はもうツチノコ探検隊である。相違点は根性のなさで、わが心は次第に「もう、しばらくクルマはいいかなあ……」という方向に傾きつつあった。
事態が動いたのは、2016年9月20日のことである。
中目黒で催された“焼き肉会”の帰り、ポケットに差していた私のスマホがブルった。画面を起動して、今度は私がブルった。神奈川県のとある自動車販売店に、ついにヤツが現れたのだ。
酒が抜けるのを待ち、掲載情報をじっくりと精査し、しかる後に見積もり請求と在庫確認のための「物件問い合わせメール」を送ったのは翌21日の午後4時。祝日だったにも関わらず、早くも22日には折り返しのメールが届いていた。
内容は丁寧だった。見積もりに加えてこちらが質問していた改造箇所についてもきちんと説明があり、しかも掲載写真から私が推定した内容とズレがない(くくく……私とて素人ではないのだよ!)。“アメ車”に疎いお店がテキトーに出しているわけではなさそうだ。
一方、物件そのものについては2000年にアメリカで初度登録され、2008年に日本に渡ってきた、すなわち中古並行モノだ。いささかハードルは高いが、「ピンクスリップ」付きなので米国時代の素性については担保されているはず。
私は、おもむろにスマホに手を伸ばした。
「もしもし? お宅のバイパー、ちょっと試乗させてもらえませんか?」
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バイクなんかで行くからだよ!
川崎のショールームで見たバイパーの第一印象は、「こんなお手ごろサイズのクルマだったっけ?」というものだった。
これは、周囲に同等サイズのクルマが並んでいたことによる完全な“目の錯覚”だったのだが、いずれにせよ、それが「バイパーを買う=そこそこヤバイ行為である」という私の警戒を、少なからず解いていた。もしお店側がそこまで計算し、クルマのレイアウトに気を使って私を待ち受けていたのだとしたら、今回の勝負、戦う前から負けていたと言っていいだろう。
外観を眺め、内装を調べ、電装品の作動をチェック。そこでは元中古車情報誌編集者(私のことです)の経験が遺憾なく発揮され……と言いたいところだが、実際には興奮しすぎてなんの情報も頭に入っていなかった。初めてのデートに舞い上がり、映画の内容も、食い物の味も分からない状態に陥っているDTと一緒である。
あまつさえ、このとき私は大チョンボをしでかしていた。
私は普段の足として“寅さん”こと「トライアンフ・サンダーバードスポーツ」に乗っており、この日もそやつにさっそうとまたがって……つまり、ごついバイクブーツを履いてお店を訪問したのだ。長靴でも運転できる軽トラならまだしも、3ペダルのスポーツカーを、そんなクツで運転できるわけがない。
仕方がないので、靴を脱いでバイパーに試乗。このお店がどれほど長く自動車の販売を手がけてきたかは知らないが、靴下姿で試乗に臨んだ客は自分くらいのものだろう。ホント、ご迷惑をおかけしました。
世界はそれを衝動買いと呼ぶんだぜ
それはさておき(本日2回目)、イベントなどで何度か姿を見たことはあったものの、記者にとってバイパーを運転するのはこれが人生初。その印象はなかなかに鮮烈だった。運転席からの、長大なボンネットの眺め。ヘンテコなドラポジ。けったいなMT。意外とちゃんと“スポーツカー”している各部の操作感。そしてなにより、ありあまるトルク。
読者諸兄姉にはわざわざ報告するまでもないことだが、このクルマ、トルクがありすぎる。売るほどある。冷蔵庫に入れておかないと腐っちゃうほどある。そして、漲(みなぎ)っておられる。
坂道発進でうっかりサイドブレーキを引っかけたままでも、シレっと走る。市街地だとシフトブロック機能のせいで強制的に1速→4速と変速させられるが、まったく無問題。700rpmからでもグググ……と前に出ようとする粘り強さは、クロカン用エンジンも顔負けだ。
無論、その毒蛇ならぬイノシシがごとき前のめりな生きざまこそ、記者の望むところである。
同乗の店員さんとなぜか「トヨタ・ソアラ」や「70スープラ」の話で盛り上がりつつ、246号付近の裏道をくるりとまわってお店に帰還。そのころにはすでに、記者は腹をくくっていた。
払おう、400万円。
この珍奇なクルマには、それに見合うだけの価値(?)がある。
後日、このてんまつをwebCG編集部のホープこと藤沢青年に報告したところ、「クルマをそんな風に衝動買いしちゃだめでしょう」と説教を受けた。失敬な。物件の問い合わせから契約書への押印までに5日もあったのだ。熟慮の末の購入である。しかし藤沢青年はかわいそうな生き物を見るまなざしをこちらにくれ、「5日……」と絶句しただけだった。
ギョーカイでのキャリアこそ当方が長いが、藤沢青年は“年上”“既婚”“キッズあり”と、社会人偏差値で記者を圧倒する男である。当方と見解が分かれた場合、大抵は氏の方が正しい。
認めねばなるまい。衝動買いであったと。
しかし同時に思うのだ。長い人生、一度ぐらい衝動でものを買わなきゃいけない瞬間があるでしょうよと。読者諸兄姉の意見はいかがでしょうか?
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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