ベントレー・ベンテイガ(4WD/8AT)
何もかもがけた外れ 2016.12.21 試乗記 ベントレー初のSUV「ベンテイガ」がいよいよ日本の公道に降り立った。パワーとスピード、そしてラグジュアリー性において、他を凌駕(りょうが)すべく開発された“世界最高峰のSUV”。その実力を全方位的に探った。豪勢で高性能
現代の高級車ビジネスとしては当然の成り行きではあるのだろうけれど、現実に市販モデルとなったその威容を目の当たりにすると、正直感嘆というよりも唖然呆然(あぜんぼうぜん)が入り交じったため息が出る。とんでもなく豪勢で、驚くほど高性能で、そしてもちろん高価なベントレー初のSUVがベンテイガである。SUVがごくごく当たり前の風景になっている今、ベントレーの参入をとやかく言う時代ではないのは百も承知ではあるが、それでもなあ、とどこか割り切れない気持ちは残る。あのベントレーがSUVに乗り出すなんて、まるで伝統と格式を誇る名門ファッションブランドが、トレーニングウエアを売り出すようなものではないか、という違和感が正直拭えないのである。
いっぽうでマーケットがそこに存在し、欲しがる顧客がいるのなら、古くさいことを言っている場合じゃない、という気持ちもある。そもそもベントレーは高性能でスポーティーなドライバーズカーで名を上げたブランドである。ロールス・ロイスがSUVを作るよりはずっと収まりがいいのも事実だし、便利で楽チンだからと政治家の先生方がこぞって国会に乗りつけるミニバンよりもずっと“きちんと感”があるのは、ベントレーとしての価値を疑われないようにあらゆる手を尽くしてあるからだろう。6リッターW12気筒ツインターボという超弩級エンジンを搭載し、贅(ぜい)を尽くしたベンテイガは、プレミアムなどという言葉を歯牙にもかけない雄渾(ゆうこん)なモンスターSUVである。
技術で無理を道理に変える
もはや自動車というより石像か建築物のように威風、辺りを払う存在感のベンテイガは実際の寸法も堂々としたものだ。全長×全幅×全高は5150×1995×1755mm、ホイールベースは2995mm、軽量素材を多用しているとはいえそれでも車重は2530kgもある。W12気筒6リッターツインターボエンジンは、608ps(447kW)/5250-6000rpmの最高出力と、91.8kgm(900Nm)/1250-4500rpmの最大トルクを発生、ZFの8段ATとトルセン式センターデフを介して前後285/40ZR22サイズの「ピレリPゼロ」(オプション、標準は21インチ)を駆動する。こうして基本スペックを並べてもそのけた外れぶりが分かる。
そもそも2.5tを超える重量物を破綻なく動かすだけでも並大抵ではない。もちろん破綻なく、ではまったく不十分だ。何しろこれはベントレーだ。ペンを持ち上げるように軽々と、かつあくまで上品に遂行しなくてはならないのである。実際にまったく何事もなく静かに滑らかに動き出し、同じように止まる。トップギア100km/h巡航時の回転数は1300rpmにすぎないが、何しろ最大トルクは1250rpmから生み出されるので、走っている限りいつでも強大なトルクを生かせる状態にある。
悠々と滑らかに走るいっぽうで、フルスロットルを与えると、遠くで激しい雨が降り出したようなズワーッという迫力ある音を響かせて、巨像が怒りに任せて走りだすようにフロントを持ち上げて猛然と加速する。ベンテイガの0-100km/h加速は4.1秒、最高速301km/hというが、これは「ポルシェ911カレラ」並みの駿足(しゅんそく)である。繰り返すが車重は2.5t超にもかかわらず、だ。
グループの技術を総動員
W12エンジンは、もとはといえばフォルクスワーゲンのVR6という奇妙な狭角V型エンジンを2基並べてW12とし、それをツインターボ化したユニットである。ターボやインタークーラーからの吸排気系の取り回しや冷却を考えただけでも目まいがするほど複雑なエンジンだが、現代の規制に適合させるべくそれに加えてあらゆる最新メカニズムを搭載している。すなわち直噴とポート噴射を併用するデュアルインジェクション、低負荷時に半分の気筒を休止するシステムや、アイドリングストップ、さらには惰性で走る際にニュートラルに入れるコースティング機能と、フォルクスワーゲングループの技術を集中投下した“全部載せ”のスーパーSUVである。実際、高速道路を制限速度近辺で流すとオンボードコンピューターの燃費は10km/リッター以上に伸びるようだ。
ただし、オンロード用4種に加えて4種(スノー/グラベル/マッド/サンド)のオフロード用ドライブモードが追加される「オールテレインスペック」はオプション(およそ80万円)で、さらにアダプティブクルーズコントロールやヘッドアップディスプレイ、レーンアシストなどで構成される「ツーリングスペック」(100万円)もオプションとなっている。極めつけはカーボン製のリアスポイラーやフロントスプリッタ―などの「スタイリングスペック」(ボディーキット)で、何と約280万円のオプションである。というわけで2695万円の車両価格でも十分に驚きなのだが、この試乗車には合計940万円余りのオプション装備が加わり、トータルでは3600万円を超える。
その決意に感心する
その値段とともにほとほと感心するのは、重量についても重心高についても明らかに不利な大型SUVにもかかわらず、無理を貫き通して道理に作り変えるという断固とした決意である。足まわりは車高調整付きのエアサスペンションとアダプティブダンパーだが、その容量も並外れていなければ、これだけのマスを正確に支えることはできない。今後普及するとみられる48Vシステムをいち早く使った電動アクティブロールコントロールシステムも安定したハンドリングに貢献していることは間違いない。その徹底ぶりはSUVにもかかわらずスポーツカー並みのハイパフォーマンスを実現した最初の「カイエン ターボ」や、絶対に400km/hの壁を越えるという目標を貫いた「ブガッティ・ヴェイロン」に通じるものがあると思う。ドイツに同じようなことわざがあるかどうかは知らないが、まさに断固として行えば鬼神もこれを避ける、である。
とはいえ、そこまでハイパフォーマンスとラグジュアリーを同時に追求する必要があるのかという疑問も頭を離れない。少なくとも日本ではなかなかふさわしい使い方が思い浮かばないが、初年度の日本向け割り当てである80台はたちまち行き先が決まったという。ここまで来るともはや車としての性能とかセグメントなどでは捉えきれない。ベンテイガの荘厳さに魅かれたオーナーの皆さんには、ぜひ紳士的にこのけた外れのSUVを扱ってほしいと思うのである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5150×1995×1755mm
ホイールベース:2995mm
車重:2530kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:608ps(447kW)/5250-6000rpm
最大トルク:91.8kgm(900Nm)/1250-4500rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.8リッター/100km(約7.8km/リッター、EU複合モード)
価格:2695万円/テスト車=3638万0700円
オプション装備:オプショナルペイント(75万9700円)/ボディー同色ロアーエリアペイント(17万7300円)/コントラストステッチ(26万3300円)/コントラストステッチ(ステアリング)(2万7500円)/オールテレインスペック(ドライブダイナミクスコントロール、ラゲッジマネージメント、トップビューカメラ、アンダーフロアプロテクション)(80万1400円)/フロントシートコンフォートスペック(フロントシートマッサージ&ベンチレーション、3点シートベルトの自動高さ調整&メモリー、フロントコンフォートヘッドレスト)(47万3400円)/サンシャインスペック(ダブルサンバイザー、リアウィンドウの電動式ブラインド)(27万4800円)/ツーリングスペック(アダプティブクルーズコントロール、Bentleyセーフガードプラス、ヘッドアップディスプレイ、レーンアシスト、ナイトビジョン、トラフィックアシスト)(104万6100円)/リアプライバシーガラス(26万2400円)/ヒート機能付き3本ステアリング(12万6800円)/ディープパイルオーバーマット(6万5600円)/イベントスペック(42万5500円)/スモーカースペック(7万8000円)/ベントレーシグネチャーオーディオ(49万2900円)/ハンズフリーテールゲート(11万5200円)/バレーキー(3万7200円)/22インチ5本スポークアロイ(ポリッシュ)(107万6200円)/スペースセービングスペアホイール(9万2200円)/ボディーキット(283万5200円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:5994km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:288.1km
使用燃料:51.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.6km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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