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第32回:大傑作か大駄作か

2017.03.07 カーマニア人間国宝への道 清水 草一

巨匠ガンディーニも愛用したワゴンR

延々とディーゼル乗用車について書き連ねている当連載だが、閑話休題、今回は自動車デザインについて熱く語りたい。お題は「スズキ・ワゴンR」だ。

ワゴンRといえば、初代および2代目のデザインは機能美の極致であった。初代の奇跡的な傑作ぶりはまさに奇跡だったが、2代目はそれをさらに深化させた、日本自動車史に燦然(さんぜん)と輝く金字塔だと確信している。

私は2代目ワゴンRの登場間もない1999年、箱根で偶然「フェラーリF355」と並んだ光景を見、ワゴンRの方が美しいことに愕然(がくぜん)とした。2代目ワゴンRに比べると、フェラーリF355のデザインは未完成かつ未成熟。全高が低く全幅が広いスーパーカーフォルムに頼った、比較的ありふれたデザインだと思わざるを得なかった。

当時の私の直感を裏付けてくださったのは、他でもない巨匠マルチェロ・ガンディーニ氏である。氏は約10年前、マンガ『カウンタック』の作者である梅澤春人氏の「いま世界中で販売されているクルマのなかで、デザインが最も優れていると思うクルマは何ですか?」という問いに対して、「ワゴンRに決まっているじゃないか! 私の普段の足もワゴンR。それしか使っていないよ」と答えたという。

ちなみにガンディーニ氏所有のワゴンRは、ボディーとエンジンサイズを拡張した欧州仕様とのこと。つまり日本でいう「ワゴンRソリオ」と思われる。軽自動車のワゴンRに比べると、デザインの完成度ははるかに落ちるが、それでかの巨匠を魅了したのだから、偉大としか言いようがない。

「スズキ・ワゴンRスティングレー」を試乗中の筆者。故・前澤義雄氏が眠る墓苑(ぼえん)周辺にて。


	「スズキ・ワゴンRスティングレー」を試乗中の筆者。故・前澤義雄氏が眠る墓苑(ぼえん)周辺にて。
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2代目「スズキ・ワゴンR」
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「フェラーリF355」(写真=池之平昌信)
「フェラーリF355」(写真=池之平昌信)拡大
「スズキ・ワゴンRソリオ」。2代目「ワゴンR+」の一部改良を機に車名に“ソリオ”の文字が加わった。
「スズキ・ワゴンRソリオ」。2代目「ワゴンR+」の一部改良を機に車名に“ソリオ”の文字が加わった。拡大

キャデラックにそっくり

そのワゴンRが6代目となり、デザインテイストが大転換された。詳細は他の記事を参照していただきたいが、3タイプどのデザインを見ても、かつての機能美を捨てて装飾に走った大駄作に思えた。

中でも「スティングレー」の顔は、信じられないことにキャデラックそのもの! 私はその画像を見た瞬間、「ひえ~、グッチャグチャじゃないか!」と叫んだ。

しかしクルマは実物を見てみなければわからない。

味の素スタジアムで行われた試乗会で、実物に対面してビックリした。スティングレーのデザインは、グッチャグチャではなかった。決して悪くない。むしろ意外とカッコいい!

私は混乱した。このデザインをどう解釈すればいいのか?

悩みつつ付近を走っていると、そこが故・前澤義雄氏のお墓のすぐ近くであることに気付いた。

日産のチーフデザイナーとして初代「プリメーラ」などの傑作を世に送り出した前澤さん。私と12年間にわたって『ベストカー』誌でデザイン論を戦わせた前澤さん。前澤さんはこのワゴンRをなんと言うだろう……。

私はワゴンRで前澤さんのお墓の脇まで乗り付け、墓石に向かって「前澤さん、新型ワゴンRのデザイン、どうですか!?」と問いかけたが、答えはなかった。アタリマエですね。

新型ワゴンRスティングレーは、これまでの直線基調を捨てて複雑な曲線を多用し、デコレーションの多いコッテリ系デザインになっている。ヘッドライトやグリルの意匠は、どう見てもキャデラックそっくりだ。

しかしこれが全体としてバランスが取れている! だからカッコよく見える。どうにも釈然としないぜ!!

6代目となる新型「スズキ・ワゴンR 」。
6代目となる新型「スズキ・ワゴンR 」。拡大
6代目「ワゴンR」のサイドビュー。
6代目「ワゴンR」のサイドビュー。拡大
モータージャーナリストとして活躍した故・前澤義雄氏。『ベストカー』誌では筆者との掛け合いでその独特なキャラクターに注目が集まり、ファンも多かった。
モータージャーナリストとして活躍した故・前澤義雄氏。『ベストカー』誌では筆者との掛け合いでその独特なキャラクターに注目が集まり、ファンも多かった。拡大
新型「ワゴンRスティングレー」
新型「ワゴンRスティングレー」拡大
「キャデラックSRXクロスオーバー」
「キャデラックSRXクロスオーバー」拡大

自動車デザインは深淵ナリ

試乗後、新型ワゴンRのデザイン原案者である金子唯雄氏(四輪デザイン企画課専門職)にインタビューすることができた。

氏によれば、驚いたことに新型ワゴンRは、初代や2代目への原点回帰を目指したという!

金子氏「3代目以降のワゴンRは、いわゆる道具から普通の乗用車の方向に転換したんです。特に4代目と5代目は、前後の絞りなどにそれが表れています」

ええーっ!? と思うが、言われてみればそうかもしれない……。ワゴンRは先代まで、ずっと直線基調を貫いていたのでつい見落としてしまうが、面を見ると張りのある丸みを帯びるようになっており、つまりフツーの乗用車的になっていた!

金子氏「今回はそれを元に戻すべく、前後の絞り込みを極力減らし、平面的にしています」

うむう。これまた言われて見れば……。

サイドウィンドウ下端などの曲線につい惑わされるが、確かにサイドパネルは平面的。平面に曲線を描いているのだ! 真横から見ると、その平面に描かれたグラフィック、前後ウィンドウの対比が実にバランスよくカッコいい。

スティングレー以外の2モデルは、サイドの曲線とフロントマスクの直線とのバランスが悪く凡庸だが、スティングレーには統一感がある! まるでキャデラックのパクリではあるが、GMがこのサイズのキャデラックを作っても、ここまでうまくバランスさせるのは不可能ではないか?

このデザインを傑作とは言えないが、少なくともカッコいいし、売れそうだ。嗚呼(ああ)自動車デザインとは実に深淵(しんえん)ナリと、カーマニアはひとりごつしかなかったのである。

(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)
 

新型「ワゴンR」のデザインに携わった金子唯雄氏。
新型「ワゴンR」のデザインに携わった金子唯雄氏。拡大

5代目「ワゴンR」


	5代目「ワゴンR」
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先代の「ワゴンRスティングレー」
先代の「ワゴンRスティングレー」拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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