第318回:種の多様性
2025.09.08 カーマニア人間国宝への道絶対的エースはトルコンAT
担当サクライ君からメールが届いた
「今度、夜の首都高で『プジョー408 GTハイブリッド』にお乗りになりますか」
自分はいま「プジョー508」に乗っているが、408も自分好みのクーペSUV。あれにステランティス自慢のマイルドハイブリッドが積まれたのか。ふうむ。
「とりあえず乗る乗る~」
そう返信して当日を待った。
いつものように夜8時。われわれはシブいオフホワイトっぽいボディーカラーの408 GTハイブリッドで、首都高に向けて出撃した。
オレ:この色、なかなかいいね。
サクライ:ですね。
オレ:走りもいいね。前に乗ったMHEVの「アルファ・ロメオ・ジュニア」より乗り心地がしっとりしてるし、車重に対してトルクも足りてる。
サクライ:ですよね。
オレ:でもさ、やっぱDCTは、発進とかバックがイマイチなんだよな。
サクライ:はい。車庫入れでギクシャクするのが難点です。
私のプジョー508(2リッター直4ディーゼル)は、アイシン製のトルコンATが積まれている。細かいセッティングがいまひとつな部分はあるものの、なにしろ日本製のトルコンだ。信頼性はウルトラ抜群だし、発進や車庫入れで気を使う必要もゼロ。508は、いつでもどこでも安心して乗れる、わが家の絶対的エースとなっている。
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MHEVはステランティスの切り札
オレ:408も、1.2リッター直3ターボ車と1.6リッター直4のPHEVは、アイシン製の8段ATでしょ。なのになんでMHEVはDCTにしたんだろ。
サクライ:ですよね。
オレ:やっぱりあっちじゃ、トルコンは眠いとかつまんないとか、まだ言われてるのかな?
サクライ:そうなんですかね。
私が乗った感じ、自分の508(トルコン)とこの408 GTハイブリッド(DCT)を比べると、変速スピードはむしろトルコンのほうが速く感じる。それはトルコンがクッションの役割を果たしているからで、実際の変速はDCTのほうが微妙に速いのかもしれないが、有意な差はない。
そして前述のように、発進や車庫入れでは断然トルコンだ。ギア数も8段対6段でトルコン優位。耐久性もトルコンのほうが上(たぶん)。わざわざDCTを採用した意味がわからない。ヨーロッパ人には、「DCTのほうがいいに決まってる!」という思い込みがあるのか。
首都高に乗り入れると、408 GTハイブリッドは水を得た魚のごとく、生き生きと走り始めた。
オレ:やっぱ、ゴー・ストップや車庫入れがなけりゃ、ぜんぜん気持ちよく走るね。
サクライ:そうなんです。
オレ:ヨーロッパはゴー・ストップが少ないから、DCTのデメリットを感じないんだな。それとこのパワートレインの美点は、エンブレがしっかり利くことだね!
サクライ:そうなんですよ!
オレ:つってもそれはDCTじゃなく、回生ブレーキの効果だろうけど。
サクライ:僕、ステランティスのMHEVに5車種乗りましたけど、トランスミッションの仕上がりは408が一番いいですよ。
オレ:ええっ、もう5種類も乗ったの!? スゲー!
1.2リッター直3ターボ+マイルドハイブリッドは、ステランティスの切り札として、プジョーをはじめ、シトロエン、アルファ・ロメオ、フィアットなど、速攻でさまざまな車種に積まれつつあるのだった。
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選択と集中の結果
オレ:たぶんステランティスは、そのうちディーゼルをやめるよね。
サクライ:でしょうね。
オレ:そうなると、ステランティスのクルマって、いずれ全部この1.2ターボ+マイルドハイブリッドになっちゃうのかな?
サクライ:小さめのは全部そうなるかもです。
オレ:ステランティスって11ブランドあるんだよね?
サクライ:いえ、14ブランドです。
オレ:ええーっ! そんなにあったっけ? それが全部コレ?
サクライ:さすがに全部はならないと思いますけど、欧州系はだいたいコレになるかもですね。
オレ:……確かにコレ、悪くないけど、コレばっかりだとさみしいな~。
サクライ:選択と集中なんだと思います。
オレ:選択と集中もいいけどさ、コレがコケたら14ブランド全部コケるかもよ!?
サクライ:総コケですね。
私はイタフラ車にたくさん乗ってきたので、結果的にいまステランティス傘下にいるブランドのクルマを、計14台買っている。私が好きなブランドは、フェラーリを除いてほとんどステランティスになっちゃったのだ。そのステランティスのパワートレインが、だいたいコレに統一されてしまったら、あまりにも多様性に欠ける。
多様性は、種の生き残り戦略の最重要要素。人類も、人それぞれ体質がいろいろだから、地球上で大増殖することに成功した。種にとって、一本足打法はリスクが大きすぎる!
この1.2リッター直3ターボ+マイルドハイブリッド、カーマニア的な評価はまずまず高いが、燃費もパワーもトルク特性も、抜群というほどじゃない。そして価格は、408の場合、「ピュアテック」と呼ばれる1.2リッター直3ターボの純エンジン車よりも40万円高い。
そもそも、どのブランドに乗ってもコレってんじゃ飽きる。「BEVは何に乗っても似たようなもん」という嘆きと、同じ結果を招いてしまう。カーマニアとしては、ステランティスのパワートレインの多様性維持を祈るのみである。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一/車両協力=ステランティス ジャパン)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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