【F1 2017 続報】第4戦ロシアGP「赤と銀の総力戦」
2017.05.01 自動車ニュース![]() |
2017年4月30日、ロシアのソチ・オートドロームで行われたF1世界選手権第4戦ロシアGP。フェラーリにフロントローを奪われ、予選での優位性を失ったメルセデスだったが、レースになるとスタートでバルテリ・ボッタスがトップ奪取に成功。猛追するセバスチャン・ベッテルを抑えて、見事初優勝を遂げた。
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タイトル争いの行方を左右するのは
今季3戦を終えてメルセデス対フェラーリの2強対決が白熱。ドライバーズランキングトップのセバスチャン・ベッテル(68点/優勝2回、2位1回)と2位ルイス・ハミルトン(61点/優勝1回、2位2回)の、チャンピオン経験者2人が7点差でしのぎを削り、コンストラクターズチャンピオンシップでも1位フェラーリ(102点)と2位メルセデス(99点)が接戦を繰り広げていた。
コースでもポイントでも僅差の戦いになれば、チームの総力が試されることになる。すなわち各陣営のもう1人のドライバーも重要な役割を担うことになるのだが、フェラーリのキミ・ライコネンとメルセデスのバルテリ・ボッタスのこれまでの戦績はといえば、決して満足のいくものではなかった。
ニコ・ロズベルグの引退を受け急きょチャンピオンチームの仲間入りを果たしたボッタスは、3位2回、6位1回でランキング3位。同じマシンを駆るハミルトンに23点の差をつけられた。開幕戦オーストラリアGPでは3位表彰台、第3戦バーレーンGPでは初めてポールポジションを獲得するなど善戦もしていたが、バーレーンではポールから3位に脱落、また第2戦中国GPではセーフティーカーランにおいてスピンという失態を演じてしまうなど、誰もが納得できるほどのパフォーマンスは示していなかった。
さらに追い詰められているのは、2007年王者のライコネンだった。同郷のボッタスより10歳上、10月に38歳となる現役最年長ドライバーは4位2回、5位1回と表彰台がまだなく、34点でランキング4位。ベッテルの半分しかポイントを獲得できていなかった。GP20勝のベテランの走りに往年の鋭さや輝きが見られなくなって久しい。フェラーリ会長セルジオ・マルキオンネからのプレッシャーに耐え、チームに貢献する走りを見せない限り、来季のシートも危うくなりかねないのだ。
当然のことながら、チームにとっては所属する2人のドライバーが常にトップを争うようなレースが理想である。必然的にライバルチームのポイントを減らし、タイトルに近づけるからだ。また2人にポイント差がついた場合には、エースドライバーをもう1人が援護するという作戦も取りやすくなる。少なくともこれまでの3戦では、ボッタスとライコネンはそのような役回りを果たすことができなかった。
このままベッテル対ハミルトンの戦いを主軸としたシーズンとなるのか。ボッタスとライコネンの逆襲はあるのか。今後のタイトル争いの行方を左右するのは、これまでナンバー2の地位に甘んじていた2人のフィンランド人ドライバーであることは間違いない。
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フェラーリ、2008年以来となるフロントロー独占
今年で4回目となるソチでのロシアGPではメルセデスしか優勝したことがなく、その他のチームはポールポジションもなければレースをリードしたことすらなかった。そんな“シルバーアローの城”で、跳ね馬が予選からひと暴れした。
3回のフリー走行は、いずれでもフェラーリが最速。中でもライコネンは1回目トップ、2、3回目も2番手と、ベッテルに引けを取らない速さを見せた。これまでの3戦では、メルセデスが予選でパワーを上げてポール奪取という展開となっていたが、ロシアではそうはならなかった。
フェラーリが2008年6月のフランスGP以来となるフロントロー独占に成功。9年前にポールポジションを獲得したライコネンは、Q3最初のアタックで暫定1位となったものの、最後に僚友ベッテルに0.059秒差で敗れ惜しくも予選2位に。ベッテルが通算47回目の予選P1を決めた。
3位につけたのはメルセデスのボッタス。週末を通じてチームメイトのハミルトンをリードし予選でも奮闘、ポールタイムから遅れること0.095秒とフェラーリに肉薄した。タイヤをうまく手なずけられないでいたハミルトンは1周をうまくまとめられず4位だった。
2強に次ぐのはやはりレッドブルで、ダニエル・リカルド5位、ウィリアムズで元気な走りを披露したフェリッペ・マッサの6位を挟み、マックス・フェルスタッペンが7位につけた。ルノーのニコ・ヒュルケンベルグ8位の後ろ、5列目にはフォースインディアの2台が並び、セルジオ・ペレス9位、エステバン・オコンは10位からスタートすることとなった。
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ボッタス、会心のスタートでトップへ
ロングランのペースに優れるフェラーリが逃げ切るか、それともメルセデスが2列目から逆転となるか。53周のレースは、フェルナンド・アロンソのマクラーレンがフォーメーションラップ中にトラブルを起こしストップしたことで1周減となって始まった。
緩い右コーナーのターン1を全開でクリアし、事実上の最初のコーナーであるターン2をトップで駆け抜けたのはボッタスだった。次いでベッテルが2位、緩慢な出だしだったライコネン3位、ハミルトン4位、フェルスタッペン5位と続いた。後方でジョリオン・パーマーとロメ・グロジャンが接触したことですぐさまセーフティーカーが導入されたが、4周目にはレース再開となった。
レース序盤は、会心のスタートを切ったボッタスが赤いマシン2台を従えて走行。1位ボッタスはファステストラップを更新しながら少しずつ2位ベッテルを引き離しにかかり、2秒だったリードタイムは2秒から10周を過ぎる頃には3秒、15周目には4秒を超えた。そしてボッタスの9秒後方を走る4位ハミルトンは、オーバーヒートに見舞われるなど苦戦をしいられていた。
レースも折り返しになると、1位ボッタスがバックマーカーに引っかかり始め、これを機に2位ベッテル、3位ライコネンが猛チャージをかけ始めた。1ストップ作戦が見込まれた今回、フェラーリとしては数少ないチャンスに賭けるしかなかったのだ。27周目になるとボッタスのリードタイムは2.5秒まで削られ、メルセデスはこの周にボッタスをピットに呼び、一番柔らかいウルトラソフトからスーパーソフトにタイヤを履き替えた。
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ベッテルの猛追を振り切り、ボッタス初優勝
30周目にライコネンがウルトラソフトからスーパーソフトにタイヤ交換。ハミルトンも翌周ピットに飛び込みこの動きにならったが、暫定首位のベッテルには「コースにとどまれ」との指示が出され、34周までスタートタイヤで走行を続けることになった。
これで1位に返り咲いたボッタス、その4.7秒後方に2位ベッテル、さらに3.5秒後ろに3位ライコネンという序列に戻った。4位ハミルトンはといえばこの時点でトップから22秒も離されており、結局ポディウムには届かずレースを終えることになった。
その前方で繰り広げられていた優勝争いは、まだ終わっていなかった。ボッタスより半分程度の周回しかこなしていないフレッシュなタイヤでベッテルが猛追。ギャップは40周を過ぎると2秒、41周目には1.7秒、翌周1.1秒と見る見る縮まっていった。初優勝がかかった重要な局面で集中を保ちたいボッタスは「あまり話しかけないで」と無線でチームにお願いするほど。手に汗握る接戦は、残り2周でDRSが作動する1秒内に突入するも、最後までミスなく走ったボッタスに勝利の女神がほほ笑んだ。
81レース目にして初めて表彰台の頂点に立ったボッタス、ポールポジションから今季3勝目をつかみ損ねた2位ベッテル、今年初めてポディウムにのぼった3位ライコネン、そしていいところなく終わった4位ハミルトン。悲喜交々(こもごも)の4者の間には目には見えないつながりがある。
ロシアでさえない結果を残したハミルトンだったが、チームメイトのボッタスが優勝してくれたことで、タイトルを争うベッテルとのポイント差を13点にとどめることができた。またフェラーリにしてみれば、ベッテルに加えライコネンもポディウムに上がってくれたことで、ハミルトンに余計なポイントを与えることを阻止できた。
こうした赤と銀の4人が繰り広げる総力戦が、今年のタイトルの行方を混迷へと導いていきそうである。
次戦からはいよいよヨーロッパに戦いの場を移す。第5戦スペインGP決勝は5月14日に行われる。
(文=bg)