ポルシェ・カイエンGTS(4WD/8AT)
今やポルシェの大黒柱 2017.05.16 試乗記 発表から7年、その後のマイナーチェンジからもはや2年半が経過した2代目「ポルシェ・カイエン」。もはや円熟の域に達した感のある同車は今、われわれにどんな走りを見せてくれるのだろうか。スポーティーな「GTS」グレードのステアリングを握った。正直、“シンパ”ではなかった
シュトゥットガルトのポルシェミュージアムの面白いところは、結局日の目を見なかったプロトタイプも展示してある点だ。市販されなかったのだから商品としてはいわば失敗作かもしれないが、それを正々堂々と並べてあるおかげで試行錯誤の過程がよく分かるし、そもそも他とは違うその姿勢が立派だと思う。「911」のホイールベースを延長した奇妙な4枚ドアモデルなどを見ると、ポルシェが企業としてごく初期の頃から911以外のモデルを生み出そうと苦労してきたことが、とりわけフル4シーターの主力モデルを模索してきたことが理解できるのだ。そんな彼らが21世紀になってついに掘り当てた鉱脈がSUVのカイエンである。2002年にデビューした初代カイエンのヒットが、高性能プレミアムSUVに向かう世の潮流を決定的なものとしたのはご存じの通りである。
もっとも、当時の私はカイエン推進派ではなかった。せっかくポルシェを手に入れようというのに、いったいなぜ、わざわざカイエンを選ばなければならないのか。世界で最も尊敬されるスポーツカーブランドがなぜ、重く巨大なSUVに手を出さなければいけないのか。古典的というよりも頭が固い守旧派オジサン世代の意見であることは重々承知だが、やはりそう思わずにはいられなかったのである。そのうえ、実際のカイエンにも4ドアモデルを作り慣れていない“隙”が散見された。走れば有無を言わせずに速く、特に「カイエン ターボ」のパフォーマンスは驚異的で、巨大なマスを破綻なくまとめ上げたポルシェの手腕には感心するほかなかったが、それでもゆっくり滑らかに走ることより、オンロードでただただ速く走ることが得意という4WDには懐疑的だったのである。瞬発力はそれほどでなくても快適なほうが平均速度は高くなる、が持論の私としては、カイエンではなくたとえば「レンジローバー」を薦めたものである。
SUVが7割
ポルシェのSUVなんて、というそんな意見は、今となっては時代遅れの世迷い言である。今ではジャガー、マセラティ、ベントレー等々、かつてはSUVを手がけるなど夢にも想像しなかった名門ブランドがこぞって参入しているうえに、少なくとも現実のビジネスにおいては「マカン」とカイエンのSUVシリーズがポルシェの販売台数の大半を占めているのが実情だ。
近年着々とセールスを伸ばしているポルシェだが、昨2016年の生産台数はおよそ24万台に上る。その中で一番の売れ筋は新顔SUVのマカンでざっと9万7000台、それに続くのはカイエンで7万台強だったという。要するにこのSUV2車種だけでポルシェの全生産台数の7割を占めているのだ。それに対して金看板の911は3万台強、ボクスター/ケイマンは2万5000台程度である。何となく知ってはいた人も、こうやってあらためて数字を目にするとちょっとショックではないだろうか。国別では世界最大市場に成長した中国(約6万5000台)ではポルシェといえばカイエンであり、911を知らない人も珍しくないというが、それが笑い話ではないことをうかがわせる数字である。現在のポルシェの屋台骨を支えているのはSUVのカイエンとマカンであることを認めざるを得ない。
V6ツインターボのGTS
ポルシェの「GTS」は「ターボ」を別格として除いた中のトップモデルという位置付けだったはずだが、ご承知の通り今では911もターボエンジンを搭載するご時世ゆえ、カイエンの場合も従来型の4.8リッターV8自然吸気に代えて3.6リッターV6直噴ツインターボを積んでいる。というより今やベーシックグレードの「カイエン」を除けばすべて過給機付きだ。440ps(324kW)/6000rpmと600Nm/1600-5000rpmを生み出すV6ツインターボは、弟分のマカンの高性能版「ターボ」に積まれているエンジンと基本的に同じものなのでなおさら紛らわしいが(カイエンのほうが若干強力)、このパワーは初代カイエン ターボに匹敵するほど、ついでに言えば価格も同様である。車重2.2t(車検証値)もの巨体にもかかわらず、最高速は262km/h、0-100km/h加速は5.2秒(スポーツクロノパッケージ付きは5.1秒)を誇るという。無理を技術で道理に変えてきたポルシェの面目躍如というところだろう。
かつてはSUVとしての弱点を挙げることができたカイエンだが、現行の2代目(2010年デビュー、2014年末にマイナーチェンジ)の出来栄えには文句をつける余地はない。街中でも乗り心地は実に滑らかでスムーズであり、かつてのように低速でのゴツゴツ、ドシンという粗い挙動に不快感がたまり、ついつい飛ばしてしまうといった昔の面影はない。1600rpmから最大トルクを生み出すV6ツインターボは巧妙な8段ATと組み合わされているおかげで、その巨体を軽やかに滑らかに必要なだけ加速させ、のんびりと流しても、もちろんかっ飛ばしてもラフな挙動はまったく見られない。今のカイエンにはアイドリングストップだけでなくコースティング機能も備わるが、変速もコースティングからの復帰も、タコメーターの針を注視していない限りまったく分からないほど洗練されている。
ただし高価である
SUVとしては依然割り切れない思いもあるが、“カッ飛ばす”ほうは相変わらず得意分野である。よほど無理をさせない限り、リニアにラインをトレースして平然としているが、それにはエアサスペンション(35万5000円)などのオプション装備が効いていることを忘れてはいけない。GTSの車両価格は1424万円だが、例によって、エアサス以外にも約58万円のPDCC(ポルシェダイナミックシャシーコントロール)やアダプティブクルーズコントロール(同34万円)、LDW(22万円)などなど、およそ350万円ものオプション装備が上乗せされて総額では1780万円余りに達する。パフォーマンス向上に関わる機能は別にしても、安全運転支援システムをオプションとしてこれだけの金額を追加させる手法は、少なくとも911より一般的なユーザーが多いカイエンでは、そろそろ見直さなければならない時期ではないだろうか。
独立した各種スイッチが無数に並ぶインストゥルメントも、今ではむしろ古めかしい雰囲気だ。煩雑さを嫌ってタッチパネルにまとめてしまえばいいというものでもないが、コンソールを埋め尽くすほどにスイッチを並べるという手法も優先順位が定かではなく、かえって使いにくい。SUVはスポーツカーと違って実用性を潔く割り切ることはできないはずである。これだけ価格が上昇したカイエンが、次はどんな手でユーザーを納得させるのか、注目である。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ポルシェ・カイエンGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1955×1690mm
ホイールベース:2895mm
車重:2170kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:440ps(324kW)/6000rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)275/45R20 110Y XL/(後)275/45R20 110Y XL(ミシュラン・ラティチュード スポーツ)
燃費:9.9km/リッター(JC08モード)
価格:1424万円/テスト車=1781万7000円
オプション装備:ボディーカラー<ロジウムシルバーメタリック>(19万3000円)/インテリアカラー<サドルブラウン/ルクソールベージュ>(10万9000円)/コンフォートメモリーパッケージ<14way>(29万2000円)/エアサスペンション(35万5000円)/チルト・スライド式電動サンルーフ(26万8000円)/スポーツクロノパッケージ(13万9000円)/シートヒーター(フロント)(7万9000円)/アダプティブクルーズコントロール(34万4000円)/レーンデパーチャーウォーニング<LDW>/レーンチェンジアシスト<LCA>(22万5000円)/ライトコンフォートパッケージ(5万7000円)/ボディーカラー同色塗装エアベントストラット(24万2000円)/ステンレスドアシルガード<イルミネーション>(15万2000円)/カスタムカーゴマット(4万円)/カスタムフロアマット(7万7000円)/インテリアパッケージ:ステッチ(26万3000円)/ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロール<PDCC>(58万4000円)/ルーフレールおよびルーフプロテクションモールディング:ブラック(15万8000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3019km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:314.8km
使用燃料:52.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。