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フォルクスワーゲンhigh up!(FF/5AT)

“非”都市型モビリティー 2017.05.17 試乗記 塩見 智 「フォルクスワーゲンup!」が初のマイナーチェンジ。内外装ともにリフレッシュされた、“末っ子”の使い勝手をテストした。走らせて一番快適だったのは、小さなボディーとは結びつかない意外な場所だった。 

国産コンパクト群と真っ向勝負

新色ティールブルーに塗られた新型up!とご対面。一般的にサックスと呼ばれるこの色が、このクルマにはよく似合っている。実際よりも立派に見せようとしていないし、ベーシックカーだし……と投げやりな感じもない。新型は顔つきが少し変わった。フロントバンパーの形状が変わったために全長が65mm伸びた。それでもまだ3610mmにすぎない。全幅1650mmと全高1495mm、それにホイールベース2420mmは変更なし。登場時、スマートフォンみたいと言われた、特徴的なリアのスタイルは相変わらず。この部分のデザインは素晴らしいので変わらないでよかった。リアコンビランプのデザインもわずかに変わった。

乗ったのは、フォルクスワーゲン(VW)で最も安いup!の中では最も高い「high up!」。車両本体価格は193万8000円だ。この価格帯には、「トヨタ・アクア」「ホンダ・フィット」「日産ノート」「マツダ・デミオ」など、バラエティーに富んだメカニズムやコンセプトをもった国産エココンパクトカーがひしめく。「フィアット500」や「ルノー・トゥインゴ」「スマート・フォーフォー」など、海外勢のライバルも少なくない。国産車の場合、多くはup!よりひとつ上のセグメントで、より広い車内空間をもつ。時々これらを思い出して比較しながら東京~箱根を往復した。

「up!」が日本で発売されたのは2012年9月のこと。5年近い時を経て、2017年4月に初めてのマイナーチェンジが実施された。
「up!」が日本で発売されたのは2012年9月のこと。5年近い時を経て、2017年4月に初めてのマイナーチェンジが実施された。拡大
リアコンビランプのデザインは、大きな変更点のひとつ。赤と黒を対比させたカラーリングは、どこかステンドグラスを思わせる。
リアコンビランプのデザインは、大きな変更点のひとつ。赤と黒を対比させたカラーリングは、どこかステンドグラスを思わせる。拡大
インテリアで目を引くのは、細かい四角形が描かれ、光沢のあるダッシュパッド。写真は「ピクセルニュートラル」カラーで、ボディーカラーに合わせて、ほかに「ピクセルハニーイエロー」など、全4色が用意される。
インテリアで目を引くのは、細かい四角形が描かれ、光沢のあるダッシュパッド。写真は「ピクセルニュートラル」カラーで、ボディーカラーに合わせて、ほかに「ピクセルハニーイエロー」など、全4色が用意される。拡大
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まずはネガティブ要素が浮き彫りに

ストップ&ゴーを繰り返す都心の一般道は、up!が最も苦手とするシチュエーションだ。理由はひとつ。ASGと呼ぶシングルクラッチの5段ロボタイズドMTが搭載されるからだ。500も同種の変速機を採用する。MTベースのシンプルな機構なので安く済ませられる代わり、スムーズに運転するのにコツがいる。MTをうまく操ることができる人なら問題ないが、ATに慣れきった人が無頓着に運転すると、低速時にいわゆる“トルク抜け”によってぎくしゃくする。この特殊な変速機に対し“僕がうまくやってあげなきゃ”と意気に感じるマニアも中にはいるが、先に挙げた国産コンパクトカーと迷っているような層からすれば、ネガでしかないだろう。

久しぶりに運転してみて、こんなにパワーがなかったっけ? と感じた。1リッターだからこんなもんかな。プジョーやシトロエン、そしてスズキの1.2リッターエンジンと比べ、200ccの差でこんなにも違うのかなと思わせる。「ダイハツ・トール」に載る1リッターのほうが扱いやすく、力強いように思えたのはあっちがCVTだからだろうか。ターボ付きの軽自動車と同程度の最大トルクの値なのだが、多少なりともトルクカーブに盛り上がりがある分、ストップ&ゴーの繰り返しといった場面だと、軽自動車のほうが力強さを感じさせる。

あと、適切なドライビングポジションを得られない。ステアリングは上下を調整できるが、前後を調整できない。ペダルを優先させるとステアリングホイールが遠くなり、ステアリングホイールを優先すると足元が窮屈になり、常に足首を立てていなければならない。シートそのものは素晴らしい。平板に見えてホールド性が高く、硬すぎず柔らかすぎず、素材も滑りにくい。限られたコストを配分する際、シートにたっぷりとコストをかけるのは欧州車の特徴だ。

パワーユニットは従来型を踏襲しており、1リッター直3エンジンを搭載する。最高出力75ps、最大トルク95Nmにも変更はない。
パワーユニットは従来型を踏襲しており、1リッター直3エンジンを搭載する。最高出力75ps、最大トルク95Nmにも変更はない。拡大
トランスミッションも、従来型と同じシングルクラッチ式の5段ASGを搭載する。上手に乗りこなすにはコツが必要なところもそのままだった。
トランスミッションも、従来型と同じシングルクラッチ式の5段ASGを搭載する。上手に乗りこなすにはコツが必要なところもそのままだった。拡大
ホールド性に優れたファブリック素材のシート。「high up!」には、前席のシートヒーターが標準装備となる。
ホールド性に優れたファブリック素材のシート。「high up!」には、前席のシートヒーターが標準装備となる。拡大
後席は2人がけで、乗車定員は4人。リアのドアガラスはチルトするだけで開閉ができないため、カメラマン泣かせの撮影となった。
後席は2人がけで、乗車定員は4人。リアのドアガラスはチルトするだけで開閉ができないため、カメラマン泣かせの撮影となった。拡大

高速道路で一変する!

変速機のくせが強く、パワフルとはいえないup!。しかし高速道路へ合流すると、印象はかなり変わる。まず2速でフル加速し、吹けきって3速でまたフル加速、あとひと息で望む速度に達するかというあたりで4速に入って一気にエンジンの回転が落ち、途端にスピードアップが緩やかになる。それでも辛抱強く待っているとようやく望む速度に達し、アクセルを若干戻して5速で巡航という具合なのだが、そうなってからのup!の挙動が素晴らしい。ひと回りもふた回りも大きなクルマに乗っているような安心感に包まれる。よくできたダンパーは路面からの入力を素早く収束させてくれ、常にフラットな姿勢を保とうとする。ボディー剛性の高さもひしひしと伝わってくる。

100km/h巡航時のエンジン回転数は3500rpmを超えているが、遮音がしっかりなされているのか、それとも元来静かなのか、エンジン音はほとんど気にならない。ロードノイズもわずか。じゃあ車内は静かかというとそうでもない。盛大に風切り音が聞こえてくるのだ。ガラスのコストのせいなんじゃないかという気がする。けれど、何かを得るために何かを諦めるのがベーシックカーの運命だ。もちろん、我慢できないほどではない。

センスのない割り込みや、登り坂などで減速すると、速度回復に時間を要するが、それを踏まえても高速巡航はup!の得意技というべきだろう。ではワインディングロードではどうか。箱根のように勾配が強い山道の登りでは非力さが目立ってつらいが、平らな道や下り勾配ではスイスイと走らせることができる。マニュアルモードに入れていてもエンジン回転がレッドゾーンに達するとギアアップするのはやや興ざめだが、マニュアル操作に対する反応は悪いほうではない。パドルはない。シフトレバーを前後させて行うマニュアル変速は、押してアップ、引いてダウンの方向。BMWや、BMWに憧れるマツダのように、引いてアップ、押してダウンのブランドもある。どちらかが正しく、どちらかがおかしいというわけではないが、押してアップのほうがややメジャーか。急に変わると戸惑うので、乗り換える前のクルマと違うという人はしばらくは気をつけよう。

高速域に入ると水を得た魚のような「up!」。非力さを感じさせない走りもさることながら、どっしりとした安定感すら漂わせる。
高速域に入ると水を得た魚のような「up!」。非力さを感じさせない走りもさることながら、どっしりとした安定感すら漂わせる。拡大
奇をてらわないデザインのメーターパネルは、視認性の高さが特筆もの。スピードメーターは220km/h(!)まで刻まれている。
奇をてらわないデザインのメーターパネルは、視認性の高さが特筆もの。スピードメーターは220km/h(!)まで刻まれている。拡大
荷室の容量は標準で251リッター、リアシートを倒した状態で959リッター。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
荷室の容量は標準で251リッター、リアシートを倒した状態で959リッター。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)拡大
リアにはパークディスタンスコントロールが備わる。カメラ映像はないが、色と目盛りのついた警告を示すことで、障害物までの距離や方向を視覚的につかめる。
リアにはパークディスタンスコントロールが備わる。カメラ映像はないが、色と目盛りのついた警告を示すことで、障害物までの距離や方向を視覚的につかめる。拡大

スマホを活用する手法には大賛成

新型には新しいインフォテインメントシステムがオプションで備わるようになった。大型モニターがあるわけではない。自分のスマホを使うのだ。センターパネル上部のホルダーに専用アプリをダウンロードしたスマホをセットしてBluetooth接続すると、専用のカーナビ機能が使えるだけでなく、瞬間/平均燃費などの走行データを表示させることができる。今やスマホを持っていない人は少ない。つまりだれもがカーナビ機能付きのAVシステム(並みの能力)をポケットに入れて持ち歩いているわけで、これを使わない手はない。本来は国産ベーシックカーにもこの発想があってしかるべきなのだが、このあたりはディーラーのもうけしろでもあり、なかなか進まない。

ただ、スマホは手で持って操作するのはやりやすいが、クルマに固定され、クルマと一緒に揺れるスマホを正確に操作するのは簡単ではない。どうしても意図しない場所をタップしてしまう。アイコンを大きめに設定するなど、このことを考慮したUIになっているが、何度か誤操作してしまった。とはいえ、スマホを活用する手法には大賛成。もう少しUIがこなれてきて、ユーザーもクルマに固定することを前提に大きな画面のスマホを選べば、使いやすくなるはず。もうCDプレーヤーもラジオも要らないから、その分スピーカーにお金をかけてほしい。ベーシックカーに限らず、すべてのクルマにそうなってほしい。

さほど渋滞が激しくなく、ストップ&ゴーの繰り返しが少ない地域で使うなら、up!は価格以上の価値をもたらす。人間側の条件としては、できればスマホをいじるのが嫌いじゃないほうがいい。こんなに小さくても得意なのは高速巡航だ。4人が快適に長時間乗っていられるし、燃費も悪くない。遠出して知らない地域で狭い道に遭遇しても、このサイズなら取り回しに困ることはない。けれど、クルマの多い都市部に住んでいて、近所の買い物へ行くのに使うのがメインで、セカンドカーだから高速道路を使うことはほとんどないというなら、決めるのは同価格帯の他車にいろいろ乗ってみてからでも遅くない。

(文=塩見 智/写真=田村 弥/編集=藤沢 勝)

オプションの「インフォテインメントパッケージ」を装着し、専用アプリ「Volkswagen“maps+more”」をインストールしたスマートフォンをBluetooth接続すると、ナビや走行データを表示できる。スマートフォンのすぐ裏にUSBソケットがあり、車内でケーブルがブラブラしないところは純正ならでは。
オプションの「インフォテインメントパッケージ」を装着し、専用アプリ「Volkswagen“maps+more”」をインストールしたスマートフォンをBluetooth接続すると、ナビや走行データを表示できる。スマートフォンのすぐ裏にUSBソケットがあり、車内でケーブルがブラブラしないところは純正ならでは。拡大
マップデータはGoogleマップではなく、ゼンリン製のデータを採用している。ルートガイダンス機能は1年間無料だが、2年目以降は更新料が必要となる。
マップデータはGoogleマップではなく、ゼンリン製のデータを採用している。ルートガイダンス機能は1年間無料だが、2年目以降は更新料が必要となる。拡大
ボディーカラーは試乗車の「ティールブルー」のほか、「ハニーイエローメタリック」と「タングステンシルバーメタリック」が新色として設定された。既存の色と合わせて、全部で7色から選択できる。
ボディーカラーは試乗車の「ティールブルー」のほか、「ハニーイエローメタリック」と「タングステンシルバーメタリック」が新色として設定された。既存の色と合わせて、全部で7色から選択できる。拡大
今回の試乗では、登り急勾配のある山岳路も含め、270kmあまりを走行。車載燃費計の数値で16.3km/リッターを記録した。
今回の試乗では、登り急勾配のある山岳路も含め、270kmあまりを走行。車載燃費計の数値で16.3km/リッターを記録した。拡大

テスト車のデータ

フォルクスワーゲンhigh up!

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3610×1650×1495mm
ホイールベース:2420mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:75ps(55kW)/6200rpm
最大トルク:95Nm(9.7kgm)/3000-4300rpm
タイヤ:(前)185/55R15 82H/(後)185/55R15 82H(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:22.0km/リッター(JC08モード)
価格:193万8000円/テスト車=202万4400円
オプション装備:インフォテインメントパッケージ<オートエアコン付き>(8万6400円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2733km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:273.0km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.3km/リッター(車載燃費計計測値)

フォルクスワーゲンhigh up!
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