ランドローバー・レンジローバー イヴォークSi4(4WD/6AT)【海外試乗記】
老舗ブランドの挑戦 2011.09.23 試乗記 ランドローバー・レンジローバー イヴォークSi4(4WD/6AT)最もコンパクトなレンジローバー「イヴォーク」が登場。日本上陸を前にイギリスで試乗した。
手抜きのない作り
衝撃は、そのデザインである。とりわけその3ドアモデル「クーペ」なんて、2008年のデトロイトショーに出展されたコンセプトカー「LRX」そっくりそのままなのだ。クーペとSUVの融合。よく使われるフレーズだが、ここまでうまくやりとげた例はそうはない。さらに言えば、カタチそれ自体だけでなく、レンジローバーという老舗ブランドがこれだけ斬新なスタイリングを打ち出してきたことにも驚かされずにはいられない。
もちろん、それはうれしい驚きだ。「レンジローバー イヴォーク」。第一印象で、強烈に印象づける存在である。
見た目だけでなく内容も進歩的だ。車体の基本骨格は「ランドローバー・フリーランダー2」を土台にしているが、実際には90%以上が刷新されている。特徴的なのは、サブフレームのマウント位置を変えてシャシーを27mm低く設定したこと。スリーサイズは全長4355mm×全幅1965mm×全高1605mm(クーペ)と、全長がコンパクトなだけでなくレンジローバーとしてはロー&ワイドなバランスになっている。ちなみに5ドアモデルは全高が30mm高いが、パッと見てそれと気付く人はそうはいないだろう。Cd値は0.35(5ドア)を達成したという。
アルミ製のボンネットにルーフ、樹脂製のフェンダーやテールゲートを用い、サスペンションまで一部をアルミ製とするなど軽量化も徹底された。もっとも軽いモデルで車重は1.6トンを切っている。
インテリアの意匠やクオリティには、ブランドの伝統が外観以上に色濃く息づいていて、コンパクトだからって手抜きはない。多用されたアルミ素材、丹念なステッチングなどは、このクラスへの期待値を超えている。
期待を超えるオフロード性能
明らかに異なるのは着座姿勢だ。前席は、伝統のコマンドポジションより低い位置に囲まれるようにして座ることになる。それでも他ブランド車と比べれば、まだ高くはあるのだが。一方、後席にはボディサイズからは想像できないくらいにゆとりがある。なにしろヘッドルームは「レンジローバースポーツ」より広いというのだから、まるで魔法のようだ。
まるでキツネにつままれたような感覚のまま走り出すと、ここにも驚きが待っていた。望外の乗り心地の良さである。新設計のサスペンションには連続可変ダンパー「マグネライド」が備わり、おかしな言い方だが、まるでレンジローバーのようにしなやかに、ゆるやかに路面をなめていく。深くストロークするような場面では、奥の方でやや硬さが出るものの、エアサスペンションかと思わせる懐深い乗り味には、これぞレンジローバーと感心させられてしまった。
それでいてステアリングの手応えは、今までにないほどダイレクト。レスポンスは正確で、思う通り軽快に曲げていくことができるのは電動アシストと考えればなおのこと、良い調律ぶりといえる。
そうなると心配なのがオフロード性能だが、当然開発陣も我々がどんな気持ちで試乗に臨んでいるかはお見通し。試乗コースには、さまざまな路面の悪路がこれでもかと用意されていた。率直に言って、ここでの走りも期待以上。おなじみのテレインレスポンスを適切なモードに合わせさえすれば、大抵のところは速度とステアリングの慎重なコントロールだけで通過できてしまう。並のクルマなら横転しそうなほど傾いても、深い水に漬かっても不安感を抱かせず淡々と進む様には、その血筋を意識せずにはいられなかった。
マグネライド無しだと、乗り心地はさすがにやや硬めになる。まったく不快ではないが、レンジローバーの名を背負うと考えると物足りないと思われるかもしれない。
語りたいことが多すぎる
最高出力240psを発生する2リッター直列4気筒直噴ターボエンジンと6段ATを組み合わせたパワートレインは、車重の軽さと相まって軽快な走りを実現している。一方で、オフロードでは必須の豊かな低速トルクも確保。サウンドジェネレーターによってつくり出された低音の効いたサウンドも特徴だ。レンジローバーらしいかどうかはさておき、スポーティな印象を増しているのは間違いない。
随分端折りながら記してきたつもりだが、イヴォークについては語るべきことが多すぎて文字数がまったく足りない。それでも、環境対策として車両全体で実に16kg分のリサイクルプラスチックと21kg分の天然素材/再生可能素材が使われ、生産に費やされるエネルギーも66%も低減されたこと、100台強のテスト車によって18カ月の間に計160万km以上のテストマイレージが重ねられ、ニュルブルクリンクでも計8000kmの全開・ノンストップテスト走行が行われたこと、12色のボディーと3色のルーフ、5種類のホイールに14種類のインテリアなど、きわめて幅広い選択肢が用意されているということは附記しておこう。
生産が行われるヘイルウッド工場はイヴォークのために設備が拡大され、年産10万台が可能になったというが、発表後の反響は予想以上とのこと。イヴォークは間違いなくレンジローバー史上もっとも多い台数が販売されることになるだろう。
無論、日本でも人気を呼ぶことは必至。都会の街中では最高に映えるに違いない。2012年春には5ドアだけでなく3ドアのクーペも上陸の予定。スターティングプライスは、これも驚きの400万円台後半となりそうだ。
(文=島下泰久/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。