第55回:中古車の愛と誠
2017.08.22 カーマニア人間国宝への道諸経費が高すぎる!
海千山千な中古ドイツ車専門店に、目当ての「BMW 320d」を見に来た私。
なにしろ180台中6番目に安かった激安車だ。激安車を売ってるお店は激安店。安い中古車には必ず理由がある。高い中古車には必ずしも理由はない。それが鉄則なだけに緊張感は高い。
思えばこれまで中古車を34台買ってきたが、「クルマを見るな、人を見ろ」で、信頼できそうなお店ばかりを選んできた。安さも大事だけど、気持ちよくクルマを買いたい! そうすると結果的に安上がり! そういう好循環があった。
しかし今回私は、グレードや価格だけでこのお店にやってきた。そこにぬくもりはない。決闘のようなものだ。
責任者らしき人物は、「あ~、お待ちしてました」とにこやかに迎えてくれた。事前にアポを入れるという、中古車店訪問時の鉄則を守ったおかげか。
見た感じは、海千山千の中年男。ただそんなに悪人風ではない。もちろんエグザイル風でもない。
「黒の320dですよね、こちらです」
そのクルマは十分キレイで、かなりいい感じに見えた。これが車両本体223万円。諸経費込みで255万円。諸経費が合計32万円というのはちょっと高いが、総額でも十分激安だ。
それでもやはり、諸経費が高いのは、非・良心的な店の揺るぎない特徴だけに、完全に心を許すことはできない。
フェラーリは男気価格
この真逆のビジネススタイルを採っているのが、エノテン(コーナーストーンズ代表・榎本 修氏)である。
私が最初にフェラーリを買った時(24年前)は、まだエノテンもフツーに車両本体+諸経費でやっていた。しかしその5年半後、「348tb」から「512TR」に買い替えた時はもう、総額表示一本勝負になっていた。
エノテン式総額表示は徹底している。とにかく全部込み。税金も車検費用も希望ナンバー手数料も何もかも込み。それ以上はビタ一文取らない。
エノテン「任意保険料は別ですウフフ~」
それはアタリマエでしょ!
しかしフェラーリは、任意保険に入るのが大変なので、そちらもエノテンが保険会社を手配する場合が少なくなく、「それは別です」と言っておく必要があるのですね。頭が下がります。
私の場合、24年来のなじみ客だけに、そのオール込みの金額が近年「900万円です」とか「1500万円です」とか、極端に切りが良くなっている。あまりにも男らしい! しかも内訳不明! 「そんな細かいこと言うのはやめましょうよウフフ~。1000万円ポッキリでお願いします!」そんな感じだ。
やはりフェラーリを買うということは、庶民にとっては人生の一大事だけに、そういった男気みたいなものが重要になってくる。だからエノテンは多数の信者を得、“フェラーリを2000台売った男”になった。そういうことだろう。
ただエノテンのビジネススタイルは、中古フェラーリという、お店への信頼感がウルトラ重視される商品だからこそ喜ばれる面もあろう。BMWのような、どこにでもあるクルマでそれをやったら、逆に怪しまれるかも。
買うべきか、買わざるべきか
わずか3年落ちだけに、クルマの状態は悪くないようだった。ただ、運転席シートの汚れと、カップホルダー内に落ちていたビスケット? のかけらが、ちょっと気になった。
(前オーナーは、それほどクルマを大事にしていなかったんだな~)
実はこういうこと、中古イタフラ車では経験がない。イタフラ車に乗る人は確実にカーマニアなので、確実にクルマに愛をかけるからだ。
しかしこのBMWは、3年落ちだからまだキレイだけど、愛はそれほど受けていなかったらしい。
私はちょっとだけ迷いつつ、店内で再度見積もりを出してもらうことにした。
しかしそれを見て、私の心は再度曇った。
(希望ナンバー手数料が2万円!)
これはどう考えても高い。だって役所が取る手数料は4100円くらいのはず。手間だって大したことないはず。高くて8000円くらいが相場じゃないか? それが2万円! そんなセコいところで車両本体価格の安さを取り返すのか~~~~!
この事実だけでもう、「ここは信用できない」と断念する道もアリだ。
実は、事前にお店についてリサーチしたところ、友人Kも安さに惹(ひ)かれて訪問していた事実が発覚したのだが、
友人K「諸経費が高いのでやめました。なんでこんなに諸経費が高いんですかってメールしたら、それっきり返事が来なくなりました」
いや、車検費用とかで多少盛るのは許せるが、希望ナンバー2万円は見え見えすぎる! それはダメだろ~~~~~!
しかし私は結局買いました……。その理由は次回に!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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