第59回:「EV化の流れは止まらない」のウソ
2017.09.19 カーマニア人間国宝への道ディーゼルが消えるってホント!?
このように支払総額255万円にて3年落ち2.4万km走行の「BMW 320d」を買った不肖ワタクシですが、購読している日本経済新聞には、不穏なことばかり書いてある。
「英仏が2040年に内燃車の国内販売を禁止」
「中国も内燃車全廃の時期を検討中」
「止まらないEVシフト」
世界はEV化に向けて完全に舵を切っている。その発火点となったのはフォルクスワーゲンのディーゼル不正。EV化の進展によって真っ先に消えるのはディーゼルエンジン。そのような論調だ。
本当ですか!?
もはやディーゼルに未来はなく、EV化は誰にも止められない。そのように断言されているように強く感じる今日この頃ですが、これ書いてる日経の記者サンは、次は絶対EV買うって決めてるんでしょーか?
よく「充電設備がもっと充実すればEV化は進む」といった記事も読みますが、EVって自宅に充電設備があることが前提だよね。そうじゃないと、しょっちゅう充電スタンドで急速充電しなきゃならないから。急速充電は電池の寿命を縮めるともいうし(テスラは例外とも?)。
とにかく持ち家で自宅に車庫がないとEV化はムリっつーか「はぁ?」って感じなわけですけど、日本の持ち家比率は61%。うち戸建ては55%。61%×55%で、EV化は33%が目一杯つーことになる。
もちろん、EVの販売比率は現在まだ0.6%に過ぎず、それが33%になりゃ「EV化は止まらないぞワッショイ!」って感じだけど、日本も2040年に内燃車禁止! とか政府が言い出したら、それこそ「はぁ?」と言うしかない。
エリート特急は燃費も優秀
一方我がエリート特急こと320dは、これまで約2000km走行し、平均燃費は17km/リッターほどをマークしております。
この数字は、仕事柄ロングドライブがかなりの割合を占めているからで、都内一般道では12km/リッターくらいだけど、高速巡航だと20km/リッター近く走ってくれるのです。
軽油の価格は現在リッターあたり99円(自宅近所のガソリンスタンド調べ)。レギュラーガソリンはリッターあたり124円(同)で、25%ほどの価格差があるので、ガソリン車に換算すると、燃料代ベースで21km/リッター強となる。4年間自家用車にしていた「トヨタ・アクア」の生涯燃費とほぼ同じ!
エリートの乗り物・BMW320dが、アクアと同じ燃料代で乗れている。あくまでロングドライブが多い私のような使い方ならば、の話ですが。
んで車両価格は、前述のように255万円。アクアの新車買った時の支払総額は約220万円。こういった数字を並べると、エリート特急がいかにお買い得だったか、ご理解いただけるかと思いますウフフ~。
では、エリート特急から新型「リーフ」に乗り換えるとどうなるのか。
「EVの電気代はタダみたいなもん」「ガソリン車の10分の1程度」というような漠然とした情報がいまだに流れていますが、少なくとも東京電力管内では、これはムリです。
EV化の流れは本当に止まらない!?
たとえば関西電力の「時間帯別電灯」を契約すると、
昼間 28.59円/kWh
夜間 9.94円/kWh(23時~7時)
夜間は電気代が約3分の1になるが、東京電力は原発事故以来、そんな安いプランはない。「夜トク8」の場合で、
昼間 32.14円/kWh
夜間 20.78円/kWh(23時~7時)
となっている。
これだとですね、リーフを月に約1000km走らせるために月に3回、40kWhのバッテリーに満充電すると仮定して、電気代は月額約2500円です。これに加えて「日産ゼロ・エミッションサポートプログラム2」(NCS充電スポットや日産販売店の急速充電器の多くが都度課金なく利用可能)の使いホーダイプランに加入すると、月額2160円。合計4660円となります。
対する我がエリート特急は、平均して17km/リッター走っているので、1000km走っての軽油代は約6000円。
大差ないやんけ!
燃料代と電気代が大差なくて、充電がめんどくさくて航続距離が短いEVをわざわざ買う人って、そんなにいるかね? いないよね、ノルウェーみたいに手厚い優遇策でもない限り。
英仏が2040年の内燃車全廃を宣言したのは、内燃車技術でリードするドイツ車に対する対抗心からだし(フランスの場合は原発大国という背景もアリ)、中国はEVじゃないと新規にナンバーが取れないといった特殊要因がある。
それらをもって「EV化の流れは止まらない」と断言するのはどうなのか!? まぁ止まらないにせよ、まだポタポタ程度じゃないか。
とにかく我が家には、EV化の流れは当分来そうにないであります。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信、webCG/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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