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フェラーリのオーダーメイド車「フォーリ・セリエ」とは?
2017.10.18
デイリーコラム
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先日、フェラーリの創立70周年を記念して、東京の両国国技館に約40台のフェラーリ車が展示された。その中に並んだ「セルジオ」「J50」といったモデルが、現代におけるフェラーリの「フォーリ・セリエ」シリーズである。その中身や歴史的背景について詳しく解説する。
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技術の進化によって徐々に下火に
フォーリ・セリエ(Fuori serie)とは、イタリアで使われているクルマの用語だ。近年、フェラーリがその名を用いた限定モデルを発表したことから、この言葉を目にする機会が増えてきた。
イタリア語でFuoriは「外部、外」など、serieは「シリーズ」のことを意味し、フォーリ・セリエは「量産型でないクルマ」あるいは「注文生産、オーダーメイドのクルマ」を示しているといえば分かりやすいだろう。
現代のクルマは、それが少量生産モデルであっても、顧客が自分の趣味に合わせてクルマを仕立てようとしても、注文できるのは、メーカーが設定したオプションリストの中からボディーカラーや内装、装備品などを選ぶ程度だろう。
ところが20世紀の初めにはそうではなかった。大多数の自動車メーカーはエンジンや変速機などの駆動系や、サスペンションを取り付けたランニングシャシー(ベアシャシー)を製造するだけにとどめ、ボディーを自社内で製造することはほとんどなかった。顧客はこの状態で契約を済ませ、そのメーカーが推奨している、または顧客が気に入ったボディー製造会社に依頼し、用途と好みを反映したボディーを架装することが一般的だった。カタログを見ながらある程度、基本形が決まったデザインの中から選ぶほか、顧客の希望を聞きながらデザイナーが白紙からスケッチを描き上げることもあった。どう仕立てるかは顧客の情熱と資金力次第ということになる。英語圏ではコーチビルダー、イタリアではカロッツェリアと呼ばれている専門会社がそれを請け負っていた。それがイタリアなら、「○○カロッツェリアのフォーリ・セリエ」という言い方になる。ロールス・ロイスやベントレーを擁するイギリスはもちろん、名だたる高級車が居並ぶフランスやドイツ、アメリカにも著名なボディー専門会社が存在していた。
クルマの大量生産が盛んになると、メーカー自身がボディー架装も手がけた完成車の状態で販売することが主流になっていった。もちろん、お仕着せのクルマでは飽き足らない客も存在し、コーチビルダーまたはカロッツェリアに完成車を持ち込んで、好みのスタイリングに造り替えたり、そうした用途を想定してメーカーが用意したベアシャシーを購入したりして持ち込む場合もあった。
だが、車体構造が変わり、別体のシャシーフレームを持たない完全なモノコック(単体)構造になると、シャシー部分と分離させてボディーだけを架装し直すことは技術的にむずかしくなっていった。それでもイタリアのカロッツェリアは、1960年代になっても、フィアットなどをベースにした、魅力的なスタイリングの少量生産車をほそぼそと手がけ、伝統を守ってきた。
さらに技術が進んで、クルマの安全や環境対策が厳しくなり、設計の手法も3次元のCAD(computer-aided design)に移行すると、データもなしにボディーに大規模な変更を加えることは不可能になった。
フェラーリ草創期におけるフォーリ・セリエ
最近になってフェラーリが取り組んでいるフォーリ・セリエは、既存のカタログモデルから派生した極少量限定生産のモデルだ。量販型とは異なったテイストのスタイリングと希少性を持つことが評判になっているが、これはCADデータを所有しているメーカーだからできることだ。
さて、ここでフェラーリとフォーリ・セリエについて触れておこう。今から70年前、エンツォ・フェラーリが自身の会社を興した時、レースの資金を得るため、周囲から勧められてロードカーを生産したといわれている。彼の名声のもとにつくられた高性能車を求める王室や富豪、映画スターらを相手に、レースモデルから派生した華やかなロードモデルを高い価格で少数生産販売していた。顧客はローリングシャシーの状態で購入し、レースカーも手がけているカロッツェリアに好みのボディーを架装させることが一般的だった。
初期にはアルフレード・ヴィニヤーレが営む、カロッツェリア・ヴィニヤーレがその多くの需要に応えていた。その後、エンツォ・フェラーリはロードカービジネスを自社でコントロールしようと、ジョヴァンニ・バッティスタ・“ピニン”・ファリーナが率いるカロッツェリア・ピニンファリーナと密接な関係を築くことになる。ピニンファリーナも当初はフォーリ・セリエが主体であり、エンスージアストとして知られる映画監督のロベルト・ロッセリーニからの注文で、妻の女優、イングリッド・バーグマンのためのモデルを製作したことは、よく知られている。その後、1959年にフェラーリはピニンファリーナにボディーのスタイリングと生産を任せた「250GTピニンファリーナ・クーペ」の量産を開始。次第にフェラーリからもフォーリ・セリエは少数派になっていった。
現代では、フェラーリに限らず、ワンオフ(フォーリ・セリエ)のボディーを架装したヒストリックカーは、市場で量産型よりはるかに高価で取引されている。それは注文主と作り手の意思がクルマに表れ、希少性が高いことが魅力だからであろう。
(伊東和彦<Mobi-curators Labo.>/編集=藤沢 勝)
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伊東 和彦
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