第20回:おかえり、バイパー
2017.11.07 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
相模原へドナドナされたっきり、帰ってくる気配のない「ダッジ・バイパー」。メカさんからの「費用がどれくらいになるか……」という電話に、頭を抱える貧乏リポーター。聞いて失笑、語るは涙のトラブルリポート、いよいよここに完結!
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闘病生活はおよそ3カ月
読者諸兄姉の皆さま、こんにちは。過日、十余年ぶりに“こむらがえり”に見舞われたwebCGほったです。足の痛みはもちろんですが、齢(よわい)36にして“咳(せき)をしても一人”というシチュエーションが、心に刺さりました。
よた話はこの辺にして、本題に入りましょう。長らく入院生活を続けている、わがバイパーについてである。
「作業はほぼ終了に近いのですが、本日試走でエアコンとライトを同時に使ったところ、電圧が低下するようでチャージランプが点灯しました。オルタネーターの発電不足が原因です。どうしますか?」
バイパーの修理をお願いしているコレクションズさんからそんな連絡が入ったのは、東京モーターショーも開幕直前の2017年10月24日のことだった。
「いくらになります?」
「部品代4万1000円+工賃1万円=5万1000円(税別)です」
「よろしくお願いします」
ささやかなLINEでのやり取りなのに、きちんと明細を伝えてくるあたりに、代表である本多さんの律義な人となりが表れているというものだろう。
と、いう訳で、帰って来ました! ダッジ・バイパー。
いやあ長かった。長かった。
8月19日の入院から数えて2カ月。最初に修理を申し込んだ7月12日からだと、実に3カ月を超える闘病生活だった。発端はエアコンの不調で、その時は記者もお店も「日帰りでいけるでしょう」とタカをくくっていたものだが……。
あまりの長さゆえ、皆さまの中には経緯を忘れてしまった方もおられることでしょう。かく言う記者もすっかり忘れた。そんな訳で、次項ではちょっと、これまでの出来事を整理させていただきます。「覚えているよ」という方は、3ページ目まで飛んでくださいまし。
さらば35歳の夏
【7/12】
エアコン不調(冷房が効かない)とエンジン警告灯の点灯について、コレクションズさんに相談。その後、何度かのメール&電話でのやりとりを経て、8月8日の入庫が決まる。
【8/8】
まずはO2センサー交換と冷媒ガスの充てんで様子を見ることに。
↓
エアコンがガスの充てんで治らないことが判明。ついでにエンジンの排気漏れも発覚。エンジン警告灯についてはO2センサー交換で対処し、いったんバイパーを持ち帰る。
【8/19】
交換してもらった新品のO2センサーがまさかの不良品。おのれデ●ソー。燃調不良が発生し、レッカーに乗ってお店に逆戻り。
【8/26】
主治医より一報。燃調不良はO2センサー交換で直ったものの、エンジン警告灯は点灯したまま。エアコン不動ともども、電装系が原因では? とのこと。
【9/24】
主治医より一報(その2)。健常なバイパーとコンピューターを交換しても、問題は解消せず。原因が総延長数kmにおよぶ配線にあることがほぼ特定される。
「費用がいくらになるか……」→「構わん。やりたまえ(泣)」
【10/19】
主治医から一報(その3)。排気漏れの箇所を特定。ガスケットではなくパイプ自体に穴が開いていたとのこと。取り外し、溶接にて穴埋めを行う旨の報告を受ける。
【10/24】
主治医から一報(その4)。本稿冒頭の報告。修理はほぼ終了したが、オルタネーターが亡くなりかけているとの由。最後の最後まで金のかかる野郎だ。
……以上がこれまでの経過である。入院期間は長かったが、実はSNSやら電話やらでお店からコンスタントに連絡があったので、心的負担はそこまでではなかった。自動車屋さんの良しあしは、技と人柄と見つけたり。
とはいえ、やはり3カ月である。1年の4分の1である。その間に記者はひとつ年を取り、2017年の夏は過ぎてしまった。そして二度と戻らない! ……まあ、戻ったところでたいした思いでなぞできやしないとは思いますが。それでも、やっぱり3カ月は長かったよ!
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結局、犯人は誰だったの?
それにしてもわがバイパー、いったいどこがどう壊れていたのか?
すでに何度か述べている通り、今回処置してもらったバイパーの症状は、後で発生、発覚したものも含め、(1)エアコン不調、(2)エンジン警告灯点灯、(3)燃調不良、(4)排気漏れ、(5)オルタネーターの発電力不足、の5件である。
このうちの(3)は交換したO2センサーの不良が、(4)はヘダーに開いた穴が原因だったと判明している。試乗で発覚した(5)はもちろん、オルタネーターの劣化だ。問題は(1)と(2)である。
修理に際し、まず疑われたのは定石通りコンピューターだった。しかし、前回述べた通りこれはハズレ。健常なバイパーのコンピューターと交換してみても症状は消えなかったし、逆に記者のバイパーのをほかの個体に移植してみても、症状は出なかった。となると、問題はやはり配線に潜んでいるということになる。
しかしである。クルマ1台に使われるワイヤハーネスの総延長は「富士山の標高(3776.12m)がひとつの指標」と言われているそうな。こんなもん、あてずっぽうで不具合を探していたら何年かかるか分からない。原因が突き止められたころには、わがバイパーは土にかえっていることだろう。
もっとも、そこは「バイパー直してウン十年」というコレクションズのメカさん。今回の問題についても、ちゃんとアタリをつけていた。そもそも、エンジン警告灯に信号を送る回路と、エアコンのコンプレッサーに信号を送る回路は、実は同じ系統……つまり“通り道”をシェアしているのだ。犯人はそこにいるに違いない! 早速、カプラーを抜き、配線の皮をむいての大捜査が始まった。
ところが、犯人はわれらをあざ笑うかのように、ようとして姿を現さなかった。暗礁に乗り上げる捜査。焦るヘイスティングズ。何度も切ってはつないで、ほぐしては戻してを繰り返していたメカさんは、「いったん、原点に返ろう」と、ひとつひとつカプラーをチェックするところからやり直してみたそうだ。
そしたら、エンジン警告灯が消えてしまったのである。
これにはメカさんも大いに戸惑ったそうだが、症状が治まってしまったのではしようがない。その後、エアコンについても始動してみたところ、あれほど勤労を断固拒否していたコンプレッサーも、すんなり動き出したとのこと。2つのトラブルが1つの原因に起因するものというメカさんの読みは、正しかったようだ。
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確かに費用はかさんだものの……
「おそらくは、車内へとつながるカプラー、アメ車ではだいたい『C100』と呼ばれている集中コネクターの接触不良だと思います。抜き差しを繰り返したり、接点復活剤を吹き付けたりしたことで、接触が戻ったのかもしれません。コストや時間との兼ね合いも考えて、今回はこれ以上深追いすることは避けましたが……」
原因を特定できなかったことにメカさんは恐縮していたが、記者としては直してくれただけで大満足である。次また同じ問題が発症したら、あらためてC100のカプラーを調べてみましょう。それより、問題が治まったのにカプラーを交換したり配線をいじったりして、いたずらに“修理費用”を上乗せさせなかったあたり、実直な判断だったと感謝いたします……。
……というわけで、ここでようやくお金のお話である。「リポーターの不幸は蜜の味♪」な読者諸兄姉におかれては、最大の関心事だったことでしょう。じらしました。お待たせしました。今回の修理でかかった費用は、以下の通りである。ばーん。
34万9218円(税込み)
……いかがでしょ?
この額をギョーカイ関係者の幾人かに話したところ、「普通」「つまらん」「3ケタ行けよ」と散々だった。皆、記者のシアワセと貯金残高を何だと思っているのか。
とはいえ、記者自身もこれは、施工内容を思えばフツーに納得のいく額だと思った。「エンジンハーネス総取り換え。アメリカからのキット輸入で施工費用に送料上乗せ」という最悪のシチュエーションまで覚悟していたから、より一層そう感じられたのかもしれない。無論、一介のペーペー編集にとって痛い出費であることには違いないが、同世代のポルシェやフェラーリとくらべたら、はるかにリーズナブルでしょう。
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のんびりのんびりいきましょう
以上が、都合3回の連載を通してリポートしてきたトラブルの結末である。
今回の一件で得た教訓は、やはりバイパーのようなテのクルマを所有するには、相応な胆力が必要というありきたりなものだった。
ただし、他のスポーツカーとは違い、ここでいう胆力とはマネー的な意味合いより時間的な意味合いの方が多分に強い。メカさんがよく口にしている通り、バイパーの基本はやっぱりトラックだ。細かな部分も汎用(はんよう)品が多く、構造がオーソドックスなので整備性も悪くない。だからこそタフで融通が利き、修理費用で絶望することもあんまりないのだろう(一品モノのボディーおよびフレームは除く)。
ただ、ひとたび“入院”となれば修理に時間がかかることは避けられない。かようにマイナーなクルマをきっちり診てくれるお店は少なく、そしてたいていの場合、そうしたお店は忙しいからだ。
また生息数の少ないクルマというのは、どうしてもギョーカイ内に蓄えられるノウハウの総量が、他のクルマと比べて少なくなってしまう。今回のトラブルに際しても、かいわいで「日本一バイパーを診ている」と評されるメカさんをして、「この症例は聞いたことがない」と漏らしていた。「ローバー・ミニ」は別格としても、これがポルシェやベンツだったらどうか。同じアメ車でも、「アストロ」や「マスタング」や「コルベット」だったらどうだったろうか。こうしたマイナー車特有の宿命もまた、ルーティン外のトラブルに対処できるお店やメカさんに、仕事が集中する遠因となっているのだろう。
なんにせよ、長期入院でも惑わず、腐らず。
可能であれば、バイクでも自転車でもなんでもいいので、もう1台くらい日々の交通手段を持っている方が無難でしょう。
この3回のリポートが、「バイパー欲しい! でも維持が不安」という将来の同士諸君にとり、有用なものとなってくれれば記者はハッピーである。
……なんて、キレイに終わると思いましたか?
そうは問屋が卸しませんよ。
お店でバイパーを引き取った翌週、まずは“快気祝い”の箱根ドライブで盛大なエアコンのガス漏れが発覚。せっかく充てんしてもらった冷媒ガスは、一度も役目を果たすことなくみんなシャバに出て行ってしまった。慌ててお店に舞い戻ったところ、今度は冷却系にエンジンオイルの漏れを発見。
「……来年1月の車検で、両方とも診ておきますよ」(byメカさん)。
まったく、どこまでも、どこまでも手間のかかる野郎である!
(webCG ほった<Takeshi Hotta>)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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