日本のミリオネアに愛される英国の名門
ロールス・ロイス成長の秘密と、今後の展望を探る
2018.02.12
デイリーコラム
日本での成長を支えるドライバーズカーの人気
2012年、ロールス・ロイスの日本における登録台数は90台だった。これに対し、2017年は225台と、わずか5年で2.5倍となっている(いずれも日本自動車輸入組合調べ)。この間、日本市場では何が起き、ロールス・ロイスは何をしていたのか。
まず、2013年の末に2ドアクーペの「レイス」がデビュー。2014年にはフルイヤーで販売が行われ、同年の成長に寄与した。翌2015年には、「ゴースト」がモデルチェンジして“シリーズ2”へと移行。2016年にはコンバーチブルの「ドーン」が発売となり、ともに販売増に大きく貢献している。さらに、この3モデルにはスポーティーな「ブラックバッジ」モデルも投入され、一時は各車の販売の半数以上を占める勢いを見せたという。
ロールス・ロイスといえば“ショーファーカー”、すなわち運転手付きで乗るクルマというイメージが強いだけに、2ドアのレイスやドーン、さらにはブラックバッジモデルといった“ドライバーズカー”が台数増の主要因となっているのは実に意外である。ちなみに、2017年はフラッグシップの「ファントム」がラインナップになかったにもかかわらず、わずかではあるが前年より販売を伸ばしている(223台から225台)。もちろん、それを支えたのも上述のドライバーズカーだった。
もうひとつ、同ブランドの成長を支える要因として挙げられるのが、セールスネットワークの強化である。ここ1、2年で広島、福岡、名古屋の3つの都市でショールームがオープンしており、日本における店舗数は6店舗と、それまでの2倍に拡充しているのだ。
ユーザー層が変わりつつある
もともと日本におけるロールス・ロイスの歴史は古く、すでに戦前からいくつかの商社によって輸入販売が行われていた。1960年代には、今日もロールス・ロイスを取り扱っているコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドが正規代理店となっている。こうした背景もあって、日本市場はロールス・ロイスの認知度が高く、かつ、そのヒストリーを含めてブランドに対する理解も深いとされている。
一方で、近年では顧客層がよりオーナードライバーへとシフトしていることも特徴として挙げられる。クーペやオープンカーに冷ややかな市場であるにもかかわらず、2017年に最も台数が出たのはドーンであり、また2016年はレイスが一番人気だった。日本市場において、ロールス・ロイス=ショーファーカーというイメージは過去のものとなりつつあるのだ。
これについて、ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋 北部地域広報マネージャーのローズマリー・ミッチェル氏に聞いたところ、「(4ドアの)ゴーストでも半分以上のユーザーが自らステアリングを握っています」とのこと。しかも、巨大サルーンのファントムですら「(オーナーの中には)“自らへのご褒美”としてクルマを購入され、休日は別荘へ奥さまとお出かけになる方もいます」と述べ、ユーザー層が変わりつつあることを明かした。
ちなみに、そういったユーザーはこれまでスポーツカーなどに乗っており、ロールス・ロイスは購入の対象外だったという。しかし、レイスやドーン、ブラックバッジモデルの登場によって“運転を楽しめるロールス・ロイス”に興味を持ち、購入にいたったのだ。なお、ここで言う“運転の楽しさ”とは、「むやみに飛ばすのではなく(もちろんアクセルを踏み込めば相当速いのだが)、優雅にゆったりと乗れ、ロングドライブを疲れなく快適に走ることができること」とのことだ。
ブランド初のSUV導入が見せる展望
こうした新しい顧客層が掘り起こされつつある日本市場について、ロールス・ロイス本社はどう評価しているのか? ミッチェル氏によると、「台数が安定して確保できる市場」と高評価だという。より具体的には、「これまで販売してきたモデルはコンスタントに台数を維持しつつ、新規投入モデルも他車種と食い合うことなく、販売が純増につながる安定市場」とのことだった。
最後に、今後の展開について聞いたところ、「“プロジェクトカリナン”の市販モデルとなるSUVがいよいよデビューします。夏ごろにグローバルで発表し、日本でも年内にはお披露目できるでしょう。これに伴い、今後は東京よりも北の地域でもネットワークの拡大を考えています。このモデルはSUVですから」との回答を得た。
いずれにせよ、新型SUVの導入により、フラッグシップのファントムから始まるラインナップがいよいよ完成する。ロールス・ロイスの今後に、大いに期待したい。
(文=内田俊一/編集=堀田剛資)

内田 俊一
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