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バッテリーはMade in CHINAしか認めない!?
エコカー戦略に見る中国のしたたかさ

2018.02.19 デイリーコラム 鶴原 吉郎
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他を圧倒する中国のNEV市場

中国政府は2017年9月28日、中国国内で自動車を販売するメーカーに、販売台数の10%を新エネルギー車(NEV)とすることを義務付ける規制を導入すると発表した。対象となるのは中国で年間3万台以上の乗用車を製造、または輸入販売する企業である。中国でNEVと認められるのは電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の3種類で、中国国内でFCVを発売する動きは今のところないことから、事実上NEVとしてカウントされるのはEVとPHVに限られる。

同規制におけるNEVの販売比率は、2019年の10%から2020年には12%に強化されることが決まっている。中国ではその後もさらに強化を続け、2025年にはNEVの販売台数を全体の20%にあたる700万台に増やすことを目標として掲げている。しかも、調査会社大手のIHSマークイットは、この数字よりさらに厳しく規制が強化される可能性もあると見ている。

中国ではこれまでも、最大で1台当たり100万円程度の補助金を支給することでNEVの普及を促進する政策をとってきた。この結果、2017年のNEVの生産台数は53.8%増の79.4万台、販売台数は53.3%増の77.7万台と大幅に増加した。このうち、EVの生産台数は66.6万台、販売台数は65.2万台である。一方、PHVの生産台数は40.3%増の12.8万台、販売台数は39.4%増の12.5万台となっており、EV、PHVのいずれにおいても中国は世界で群を抜いている。

2016年のEV販売台数で2位を記録した中国BYDオートの「秦」。
2016年のEV販売台数で2位を記録した中国BYDオートの「秦」。拡大

保護主義的な政策で国内企業を優遇

2016年の統計によると、中国はEVの世界販売の半分以上を占める存在となっており、2017年も圧倒的な市場規模であることは間違いない。ちなみに日本のEVの販売台数は、2017年に約1万7000台、PHVは約3万9000台で、合計でも約5万6000台と、中国の10分の1にも満たない。中国はこれまで補助金という「アメ」をテコにNEVの普及を図ってきたが、2019年以降はNEVの販売を義務付ける「ムチ」の政策に転換することになる。

中国がNEVの普及を目指すのは、北京や上海のような大都市における深刻な大気汚染への対策という側面もあるが、より長期的な狙いとしては、自国の自動車産業の競争力を高めることにあると見られている。習近平総書記は2017年10月の共産党大会で、建国100周年にあたる2049年を目標に、「社会主義現代化強国」を建設すると宣言した。「強国」の裏付けとなる経済力を高めるために、戦略的に強化する産業分野を定めており、EVもAI(人工知能)と並ぶ柱の一つと位置付けられている。エンジン車で日米欧に追いつくのは困難だが、歴史の浅いEVなら勝機があると見たわけだ。

とはいえ、まだ技術の蓄積が浅い現在、まともに海外企業との競争にさらされては勝ち目がない。このためNEVの普及では、国内企業を優遇する政策を採っている。NEVの補助金の対象となるEVやPHVは、中央政府の認定したメーカーのバッテリーを積むことが義務付けられているのだが、この中国の認定を得ているのは現在のところ、中国の現地メーカーに限られているのだ。このため、例えば日産自動車のEV「リーフ」などもNEVの対象にならない。

2018~2019年の中国市場導入が予定されている電気自動車「日産リーフ」も、現状のままではNEVの対象とはならない。
2018~2019年の中国市場導入が予定されている電気自動車「日産リーフ」も、現状のままではNEVの対象とはならない。拡大

日系メーカーを悩ませるバッテリー戦略

一方で、中国政府は現地企業の技術発展を図る目的で、これまで2社しか認めていなかった海外企業による自動車の製造販売合弁会社の設立について、3社目の設立を認める方針を打ち出した。さらにNEVに限っては、世界の大手完成車メーカーによる現地生産を加速させるため、現在は必須である中国企業との合弁を組まなくても現地生産できる方向で検討していることも明らかにした。とはいえ、そこで生産されるEVにも中国メーカー製バッテリーを積むことが事実上義務付けられるはずだ。海外の完成車メーカーとの取引を通じて中国バッテリーメーカーの生産量の拡大や技術力の向上を図る狙いがあると見られる。

中国国内で自動車販売を続ける以上、NEVの製造・販売は不可避なため、トヨタ自動車は2018年にPHVの現地生産を始める方針を明らかにしたほか、日産自動車、ホンダといった日本の完成車メーカーも2018年以降に廉価なEVを発売する方針を打ち出している。これらのEVやPHVがNEVとして認定されるためには、現地バッテリーメーカーからバッテリーを購入する必要がある。このため、日本の完成車メーカーは、性能要件を満たすバッテリーの調達先を見つけるのに苦労している状況だ。現在はバッテリーやモーターの技術で優位にある日本メーカーだが、圧倒的な市場規模を背景に猛追する中国メーカーの勢いは決して侮れない。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/編集=堀田剛資)

リチウムイオンバッテリー用のラミネート型セル。中国でNEVを販売するためには、中国製のバッテリーを搭載することが義務付けられる。
リチウムイオンバッテリー用のラミネート型セル。中国でNEVを販売するためには、中国製のバッテリーを搭載することが義務付けられる。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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