マツダCX-8 XD Lパッケージ(4WD/6AT)
ゆったりでモッサリ 2018.03.01 試乗記 マツダのSUVファミリーに、3列シートを持つ最上級モデル「CX-8」が登場。ミニバンでは得られない、このクルマならではの持ち味とは何か。トップグレードの4WD車に試乗して確かめた。マツダらしいピープルムーバー
CX-8に初めて乗ったのは、横浜みなとみらいで開かれた新型「アルファード/ヴェルファイア」試乗会のあとだった。たまたま撮影の関係でそういう流れになり、そこまで乗ってきたwebCGスタッフからステアリングをバトンタッチした。
でも、アルヴェルの直後にCX-8というのは啓示的だ。「プレマシー」と「ビアンテ」の生産を終了したマツダが、ミニバンにとって代わる3列席SUVとして提案するのがCX-8だからだ。未来永劫(えいごう)にわたって「ミニバンやめました」ってことでもないだろうが、サードシートを持つピープルムーバーもこれからはSUVで、というアピールは、運転の楽しさとカッコよさを重んじるマツダらしくはある。
CX-8は、海外向けだったフルサイズSUV「CX-9」の日本版といっていい。2930mmのホイールベースは同寸だが、前後オーバーハングを18cmカットして、全長4900mmとした。長さ4.9mといえば、国産SUVとしては最大級で、「トヨタ・ランドクルーザープラド」(4825mm)よりも本家「ランドクルーザー」(4950mm)に近い。そこに6人/7人乗りの3列シートキャビンを設け、最新型「CX-5」用と同じ2.2リッター4気筒ディーゼルで走らせる。ガソリンモデルはない。
今回試乗したのは、シリーズ最上級の「XD Lパッケージ」の4WD(419万0400円)である。
乗り心地のよさに感心
比較試乗の意図はまったくなかったが、せっかくだからファーストタッチの印象を記すと、CX-8はアルファード/ヴェルファイアよりモッサリしていた。それもそのはず、アルヴェルの新しい3.5リッターV6は301psもある。ミニバンとはいえ、ハイパワーミニバンである。とはいうものの、大型ミニバンから乗り換えてモッサリ感じたのは、ちょっと意外というか、ザンネンだった。
CX-8 XD Lパッケージ4WDの車重は1900kg。“全部のせ”の最上級モデルだから、シリーズ最軽量グレードより110kg重い。同じXD Lパッケージ4WDのCX-5と比べれば、220kgも重くなっている。それでエンジンは同じ。最高出力190ps、最大トルク450Nmのアウトプットは発生回転数なども含めて変わっていない。このほどCX-8用エンジンに換装した最新CX-5にはまだ乗っていないが、175ps/420Nmだった従来型CX-5ディーゼルを思い出しても、力強さやキビキビ感には差がある。非力とは言わないまでも、パワーに余裕はない。
一方、アルヴェルよりよかったのは乗り心地だ。ボディーの剛性感が高い。特にフロアパネルのしっかり感は、大きな箱のミニバンより明らかに上である。長いホイールベースを実感させる足まわりは、どっしりしていてフラットだ。XD Lパッケージは19インチだが、荒れた舗装路でもバタつくことなく、足まわりはしなやかに動く。「CX-3」から始まるマツダSUVの中でも最も上質な乗り心地を提供する。
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2列目以降も快適
XD Lパッケージは6人乗り。2列目席には、最もおもてなし度の高いキャプテンシートが備わる。ひとつ下の「XDプロアクティブ」用は後ろへのウオークスルーが可能だが、こちらは左右席のあいだにコンソールボックスがある。サードシートだけでなく、VIPを乗せられる2列目席が備わるのも、CX-5に対するアドバンテージである。XD Lパッケージ4WDの場合、そのお代は約66万円だ。
キャプテンシートは大きく前後にスライドし、一番後ろにすると、あり余るほどのレッグルームが生まれる。ミニバンのように天井は高くないが、これくらいのほうが空気が重くなくてむしろ落ち着くという人も多いだろう。
サードシートは「緊急用」よりは広い。キャプテンシートを一番後ろに下げてしまうと、大人は座れなくなるが、少し前に出してもらえば、ある程度の長距離でもイケそうだ。このキャプテンシートだと、左右席間が大きく開いているので、見通しも悪くない。2列目以降でも乗り心地がいいのは、CX-8の長所のひとつである。
パワーも欲しくなってくる
CX-5と同じく、内装のつくりや雰囲気はドイツのSUVに近い。XD Lパッケージはナッパレザーのシートが標準で、長いキャビンを上等に見せていた。
試乗したのは、強い寒波に見舞われたときだったが、この最上級モデルにはシートヒーターとステアリングヒーターが付いている。このふたつがあれば、寒い朝もほぼ即暖でドライブが始められる。ただ、ステアリングヒーターは筆者の手のひらの皮にはちょっと熱くなりすぎで、手袋をしようかと思った。
約290kmを走り、2.2リッターディーゼルターボの燃費は12.7km/リッターだった。webCGの過去データを見たところ、200kg以上重くなっているわりにCX-5からの落ち込みは大きくない。
だが、大型高級SUVではあっても、特に高性能ではない。ひとことで言うと「ストレッチして3列席を与えたCX-5」なのだが、運転するとCX-5のような力強さやキビキビ感はない。それがボディーを余計大きく感じさせてしまう。ミニバンではないピープルムーバーとしてのSUVはありだと思うが、CX-8を名乗るなら、パワーユニットももう少しストレッチしたほうがよかったのではないか。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
マツダCX-8 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1840×1730mm
ホイールベース:2930mm
車重:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190ps(140kW)/4500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)
価格:419万0400円/テスト車=437万9400円
オプション装備:ボディーカラー<スノーフレイクホワイトパールマイカ>(3万2400円)/360度ビューモニター+フロントパーキングセンサー<センター/コーナー>(4万3200円)/BOSEサウンドシステム+10スピーカー(8万1000円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:4627km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:290.6km
使用燃料:22.9リッター(軽油)
参考燃費:12.7km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。