レクサスLS500h“バージョンL”(4WD/CVT)
過去のことは忘れて 2018.03.21 試乗記 11年ぶりのフルモデルチェンジで、従来モデルとは一線を画すキャラクターを手に入れた「レクサスLS」。すっかりドライバーズセダンとなった新型の走りは、往年のLSを知るクルマ好きの目にはどのように映るのか?どうにもいまいち、しっくりこない
新しいレクサスLSについての記事は昨年(2017年)秋以来、『webCG』でもすでに何人もの先生方が書いておられるが、総じてどこかピンと来ていない気持ちがうかがえるのが興味深かった。というわけで、遅ればせながら私も今回、新型LS初体験をさせていただいたのだが、なるほど乗った瞬間に“これぞ!”と快哉をさけびたくなる……という気持ちになれなかったのは事実である。
新型LS最大の見せ場は、病的なまでのこだわりが感じられるディテールの数々だ。
高級セダンの文字通りの“顔”であるフロントグリルについては、その複雑すぎる編み込みに、いい意味で(?)寒気がするほどである。インパネに楽器の弦のごとく走るマグネシウム加飾の精緻さにもあぜんとするし、ダッシュボードはなんとも複雑に分割されて、これでもかと縫合されたレザーに包まれている。高級車のお約束であるウッドパネルをあえて最小限にしか使わない点にも、つくり手の強い思いがうかがえるようでもある。
そのいっぽうで、機能的にはあまり感心しない点が散見されるのが少し残念でもある。
たとえば、多機能化が止まらないインフォテインメント技術に対応するため、「インパネにいかに大面積の液晶を仕込むか?」が昨今の高級車のハヤリなのに、LSのメーターパネルやインパネ液晶はあえて小面積に抑制されている。まあ、それでなにかしらの新しい提案が感じられればいいのだが、正直なところ、同時に表示・操作できる項目が少なすぎる、そもそも見えにくい……といったデメリットのほうが目立ってしまっている。
また、まるで“引き上げ湯葉”のような造形のメーターフードからは、左右にスイッチノブが突き出ており、それで走行モード選択やトラクションコントロールを操作する。このスイッチレイアウトは「LC」も同様だ。ただ、これも「ここにメーターフードの軸ありき」というデザインの都合が最優先っぽい。この位置はそもそも操作しにくいし、ここに走行モードやトラコンがあてがわれたことにも「できるだけ操作頻度の低い機能を……」という消去法の発想が透けてしまう。
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このクラスで「500」を名乗るのなら……
動力性能レベルを示す数字が先代ハイブリッドの「600h」から「500h」に下げられていること、そして今回の試乗車が2WDより70kgほど重い4WDだったことを差し引くにしても、新型LS500hの動力性能がなんとなく迫力に欠けるのは否定できない。
もっとも、絶対的な加速能力に特筆すべき不足があるわけではない。ただ、このクラスで「500」を名乗って、しかもそれが電動化パワートレインならば、もっと地底から湧き出るような力強さを期待したくなる。しかし、実際には80km/h前後のゆるめの巡航でも、わずかな加減速でV6エンジンが始動と停止を繰り返す。それでも、エンジンが完全に黒子に徹してくれれば文句もないのだが、実際にはエンジン音はそれなりの音量で響くし、エンジン介入の出入りによる断続感もこれまでのトヨタ系ハイブリッドとしてはハッキリと強めだ。
各メディアでの開発陣の主張を見ると“あえて聴かせる”や“パワー感”といった表現がある。つまり、こうした事象には従来のLS=レクサスにあったであろう“クルマらしくない”や“迫力不足”といった評価に対する意図的な味つけの面もあるはずである。しかし、今のところは体感的な動力性能でも、あるいは洗練性でも、このクラスの高級車として少しばかり物足りないのは事実だし、同じパワートレインでもLCではもっと滑らかだ。
ユーザーイメージとの間にある“隔たり”
もっとも、そこには開発陣の意図以外にLSのウェイトが影響している可能性はある。LS500hのそれは2WDでも2.3t以上ある。今回の4WDだと約2.4tもあり、同じパワートレインのLCより400kg近く重いのだ。さすがにこれだけ重いと、パワートレインがせわしなくなるのも仕方ない。
というわけで、あらためて調べると、新型LSは良くも悪くもヘビー級である。最大の仮想敵である「メルセデス・ベンツSクラス」は4リッターV8ターボを積む「S560ロング」でも2WDで2.2t以下、4WDでも2.2t台半ばで、対するLSはV6ターボでもそれよりちょっと重いくらい。パワートレインがそれぞれで異なるが、感覚的にはLSはSクラスより100~200kgも重いイメージである。
ただ、重さはとくに低速での乗り心地にはいい方向に効く傾向にあるが、すでに諸先生方も書いておられるように、新しいLS最大の特徴は乗り心地が硬いことだ。“硬い”といいきってしまうと語弊があるかもしれないが、少なくとも日本的な低速走行でのフワフワとした快適性よりも、ドライバーズカーとしての機動性に重きを置いているのが、新型LSでグレードを問わずに通底する思想なのは間違いない。
今回の試乗車も「バージョンL」という快適志向のグレードなのに、ダンピングが最柔の「コンフォート」を選んでも路面のツブツブははっきりと分かる。となると、ロードノイズも少し鮮明に感じられるのが必然であり、前記の“聴かせる”パワートレインとも相まって、新型LSを数日間あずかったにわか体験では「意外にうるさいクルマだな」という印象がもっとも強い。
レクサスLSといえば、初代以来“静けさ”を最大の売りにしてきたわけで、私を含む日本の中高年クルマ好きは、その点が本能的に受け入れがたい。『webCG』での新型LSに対する評価も総じてあまりさえない理由のひとつは、そこにあるのでは……と勝手に推察する。
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ターゲットは海の向こう
ただ、新型LSの基本フィジカル能力は先代比で飛躍的に高まっており、ドライバーズカーとしてのキャラが圧倒的に濃くなっていることは間違いない。今回の試乗車は4WDだったが、LSの場合は4WDになると自動的にアクティブステアリングや後輪操舵などが省略されるので、ある意味では素のフィジカル性能がより分かりやすくもある。
LS500hの4WDはダンパーのモードを硬くして、さらに走行スピードが増すほど印象が良くなるタイプのクルマである。低いヒップポイントもあって、街中をズリズリはいずるだけだと、つかみづらい車両感覚がちょっとストレスでもあるのだが、スピードが上がるほど体感的なサイズも小さくなる。
さらに、車体剛性感の高さや、全体に遊びの少ないリニアな反応は印象的。この巨体がベッタリと路面に食いついて、ちょっと驚くくらいにステアリングだけでグイグイと軽く曲がっていく。
ちなみにLSの4WDシステムは先代のキャリーオーバーである。つまり、前40:後60という固定的な駆動配分の、トルセンセンターデフをもつ完全フルタイム4WD。ある意味で古典的な機構だが、状況を問わずにきっちり4輪を駆動してくれるので、もともと安定したLSシャシーにさらなる絶大な安心感を加えてくれている。
このように新型LSの4WDは、そもそも基本フィジカルの高度さに加えて、可変機構が少なく、また昔ながらの常時全輪駆動式で、良くも悪くも荷重移動や繊細なステアリング操作に素直である。むかし鳴らした系の腕利き中高年エンスーが、新型LSの2WDに試乗してピンと来なかったら、ためしに4WDも乗ってみたほうがいい。こっちにピンと来る向きは少なくないと思う。
新型LSは「静か」で「控えめ」「デザイン性は今ひとつでも、実用性や使い勝手は最高」、そして「低速性能は世界一」といった、われわれ日本人が“日本代表”のレクサスとして誇りに思っていた部分をことごとく覆している。だからこそ、往年のLSを知る中高年のクルマ好きの多くが、新型LSに今ひとつピンと来ない。ただ、新型LSは「このままではジリ貧」という危機感のなかで開発された。今回の宗旨替えが海外市場で支持されれば、レクサスの勝ちである。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
レクサスLS500h“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5235×1900×1460mm
ホイールベース:3125mm
車重:2370kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
最高出力:299ps(220kW)/6600rpm
最大トルク:356Nm(36.3kgm)/5100rpm
モーター最高出力:180ps(132kW)
モーター最大トルク:300Nm(30.6kgm)
システム最高出力:359ps(264kW)
タイヤ:(前)245/45RF20 99Y/(後)245/45RF20 99Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:1500万円/テスト車=1585万1040円
オプション装備:ボディーカラー<マンガンラスター>(16万2000円)/245/45RF20 99Yランフラットタイヤ&20×8.5Jノイズリダクションアルミホイール<スパッタリング塗装>(16万2000円)/“マークレビンソン”リファレンス3Dサラウンドサウンドシステム(28万6200円)/セミアニリン本革シート<ホワイト>+アートウッド<オーガニック>(17万2800円)/寒冷地仕様<LEDリアフォグランプ+ウインドシールドデアイサー等>(2万4840円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W/ラゲッジルーム内&フロントセンターコンソールボックス後部>(4万3200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3923km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:467.8km
使用燃料:45.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/10.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。