第88回:「正しいけど欲しくない」GT-R
2018.05.01 カーマニア人間国宝への道GT-Rのデザインは正しかったのか!?
中村史郎氏が「デザインとしては正しいことをしたという確信がある」と語った「GT-R」。私もまったく同感だ。
現行のR35 GT-Rのデザインは、R32からの「スカイラインGT-R」の流れをしっかり継承しつつ、よりマッチョに、よりロボットっぽく、あるいは兵器そのものに近い無敵感を漂わせている。
私が特に好きなのは、リアピラーの折れ曲がりだ。まるで力をためつつ、今にもバキョーンとはじけそうな予感を抱かせるじゃないか!
GT-Rのデザインは、あれしかなかったと考える。もちろんデザインの可能性は無限大なわけで、あれしかないわけはないのですが、なにせ自分じゃ1ミリもデザインできないので、私としては「あれしかない!」と言える。あるいは「完璧に正しかった!」ですかね?
しかし、じゃあそんなGT-Rが欲しいかと言われたら、典型的な日本のカーマニアである私は、躊躇(ちゅうちょ)せずに「NO」と答える。身銭切って買うスポーツカーは、もっと小柄で優美で有機的で、ウットリするようなデザインのものが欲しいので……。
いま乗っている「フェラーリ328」はまさにそれ。その前の愛車だった「458イタリア」も、大柄ながら方向性は同じだった。つまり、古典的ヨーロピアン・エレガンスと申しましょうか!
周囲を見渡すと、似たような意見のカーマニアが多い。まぁ私の場合、周囲はフェラーリファンだらけなので当然ですが……。
果たしてGT-Rのデザインは、本当のところ成功だったのだろうか。いや、もっと身近に言うと、日本のカーマニアにとって福音だったのか?
マイチェン効果で人気回復
取りあえず、日本での販売台数を見てみよう。
日産GT-R 国内販売台数
2007年 807台
2008年 4871台
2009年 474台
2010年 372台
2011年 530台
2012年 563台
2013年 654台
2014年 643台
2015年 639台
2016年 787台
2017年 1033台
登場時にはフィーバー現象(古墳語)を生んだGT-Rだったが、間もなく急速にしぼみ、販売は低めで安定していた。
が、17年モデルで久しぶりに比較的大きな刷新が実施された効果により、昨2017年は9年ぶりに年間1000台をオーバーした。
この数字をどう見るべきか? 他の国産スポーツカーの2017年1年間の販売台数と比較してみよう。
トヨタ86:7167台
スバルBRZ:2093台
マツダ・ロードスター:7005台
日産フェアレディZ:558台
「86/BRZ」と「ロードスター」は、順当に健闘しているという感じだろうか。一方フェアレディZは、カーマニア的には順当に立ち枯れ状態に思えるが、それでも“世界に誇る無敵のGT-R”の半分程度は売れている。Z人気が根強いのか、GT-R人気が弱いのか……。
しかしこれらのモデルは、GT-Rに比べると価格帯が大幅に下なので、もうちょっと近いところと比べるとどうか。
圧倒的なラグジュアリー需要
ホンダNSX:159台
「NSX」はGT-Rよりぐっと高いし、もともと日本市場への割り当て台数が少ないので比較にはならないが、デザインを比べれば、確固たる個性を持つGT-Rの大勝利だと考える(現時点でも!)。なにせNSXのデザインは、世界中のスーパーカーを鍋にブチ込んでグツグツ煮て、味がメチャクチャになった闇ナベみたいなものだ。何を目指したのかサッパリわからない。
じゃ、こっちは?
レクサスRC300h:494台
レクサスRC350:135台
レクサスRC200t:325台
レクサスRC F:107台
<計1061台>
「レクサスRC」軍団の中で、唯一GT-Rの価格帯に近いのは「RC F」だが、販売台数では約10倍もの大差をつけている。GT-Rの大勝利である。
が、こっちの数字を見ると、ウームとなる。
レクサスLC500h:1057台
レクサスLC500:1404台
<計2461台>
(ともに2017年3月登場)
「レクサスLC」の価格帯は、1300万円から1500万円台。GT-Rとかなりガチンコだが、こちらの勝負はGT-Rの敗北である。もちろんLCは新しいので、GT-Rが登場した当初の勢いと比べれば、GT-Rの勝利ですが。
それにしても、はるかに安価なRCが、国産車の頂点価格帯にあるLCに大敗北しているとは!
これは、現在の日本の高価格帯スポーツカーに求められているものを象徴している。つまり、中高年や富裕層のラグジュアリー需要が圧倒的にデカイということだ。
(文=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。