第89回:ボディーに突き刺さったリアピラー
2018.05.08 カーマニア人間国宝への道国産スポーツカー vs ポルシェ
「86/BRZ」、9260台。「ロードスター」、7005台。
「レクサスLC」、2461台。「レクサスRC」、1061台。
そして、「GT-R」が1033台の、「フェアレディZ」、558台で、「NSX」が159台。
昨年(2017年)、日本で売れたスポーツカーの台数を見てみると、国内でビジネス的に最も成功しているのは、レクサスLCということになるでしょうか?
LCと86/BRZとでは、売上額では同程度になる計算ですが。クルマは高価格になるほど利ザヤ率が大きいと申しますので。それが比較的少量生産のスポーツカーにも当てはまるのかどうか。開発費まで考えると、まるで見当もつきませんが……。
しかし国産勢だけ見ていてはイカン。今やスポーツカー好きは、大挙輸入車に流れているのだから。中でも圧倒的なシェアを占めているのがポルシェだ。
昨年、ポルシェがいったい何台売れたのかというと……。
ポルシェ全モデル合計:6923台
平均価格を考えると、実に恐るべき台数だ。ただしこれはSUVも含まれた台数。ポルシェのスポーツカーはどれくらい売れたのか?
GT-Rは“オワコン”なのか!?
ポルシェ・ジャパンはモデルごとの販売台数は公表していないが、日本ではSUV(「カイエン」と「マカン」)のシェアは半数まではいっておらず、「911」と「ボクスター/ケイマン」がそれぞれ約22%(2015年から2017年の平均)とのこと。
つまり、年間だいたい1500台ずつということになる。
ポルシェ911が年間1500台のところを、GT-Rが約1000台売った。これは、健闘と言っていいのではないかという気がしてくる。なにしろGT-Rは、もう登場11年目なのだから。
なんとなく日本では、“GT-Rはオワコン”というイメージがあり、それどころか日産が次期GT-Rについて計画を持っていないことが、「またまたカーマニアを切り捨てやがって!」という反感だけを生んでいる面さえあるが、どっこいGT-Rはそれなりに頑張っていた!
近年アメリカでは、R32 GT-Rの中古車が“神”的存在としてあがめられていたりするし、プレステ『グランツーリスモ』シリーズのヒーローとして、世界的名声も持っている。
プレミアムなスポーツカーは、少量ラグジュアリー化の時代。GT-Rのように体育会系の、オシャレドライブにはあまり向かない高価なスポーツカーは本流ではなく、限定モデルでさらに少量売る時代になった。
しかし、11年前、GT-Rがラグジュアリーになって登場していたら、それこそ「なんだこりゃ~~~!」と大不評を買ったのは確実。中身的にもデザイン的にも世界最速のロボット戦車としてリボーンしたのは、やはり正しかったのだ。
GT-Rのリアピラーに込められた思い
そんなGT-Rのデザインの中で、私は個人的に「リアピラーの折れ曲がりが一番好き」という話を前回書かせていただきましたが、それについて、中村史郎さんからお返事をいただきました!
史郎さんによると、流れるようなルーフラインにしなかった理由は、以下のようなものだそうです。
「ファストバックの流麗なラインは、スポーツカーの伝統的な手法なので、GT-Rには合わないと思っていました。桜井眞一郎さんとお話しする機会があって、『歴代の(スカイライン)GT-Rのデザインで、気にされていたところがありますか』とお尋ねしたところ、『リアピラーは寝かさずに立ててほしいとデザイナーにお願いしてきた』と言われました」
あのリアピラー形状は、桜井眞一郎氏の願いでもあったのですね。
「SUPER GTのレースを見ていて、キャビンの形に個性がないと、遠くから見てどれがどれだかわかりません。ボディーの下半身は市販モデルと完全に別物だし、カラーリングが激しいので。ですから、レースで遠くから見ても、GT-Rだとわかるようにしたかったんです」
現在GT-Rが主戦場にしているのは、国内レースのSUPER GT。海外レースに出ないのは残念だが、レースでの見え方も念頭にあったのですね。
「R34までのGT-Rのような立ったピラーでは、空力的に成り立たないので、ファストバックでありながら、ボディーに突き刺さるように結合した結果、ああなりました。結果的にロボット的な雰囲気と、存在感のあるプロファイルが実現できたと思っています」
自動車デザインとは、かくも深いのだなぁ。
(文=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。