米国の批判をかわすのが狙いか?
額面通りに受け取れない中国の“市場開放”
2018.05.14
デイリーコラム
50%の出資比率規制を敷く中国の思惑
このところの中国の動きを見ていると、欧米が主導し、日本も追従してきた「資本主義」や「民主主義」といった、これまで「普遍的な価値」と見られてきたものが揺らいでいるのを感じる。トランプ政権に代表されるような「自国第一主義」が台頭し、欧州でも極右政党への支持が拡大する背景には、資本主義がもたらす貧富の差の拡大や、民主主義がもたらす政治の不安定さがある。そこへいくと、常に「もうすぐ崩壊する」「バブルが破裂する」と言われながらも一党独裁で政治を安定させ、「共産主義」と「自由経済」の“いいとこ取り”をしながら高い成長を維持してきた中国は、欧米型ではない新しいスタイルの政治や経済のあり方を創造しつつあるのか? という気さえしてくる。
共産主義と自由経済をうまく使い分けながら経済成長を維持してきた中国のやり方は自動車市場においても同じで、海外の技術を取り入れながら自国の産業を育成するために、外資系完成車メーカーの直接進出を規制し、現地企業と合弁企業を設立することを義務付けてきた。その出資比率も最大50%に限られ、中国側と合意しなければ何も決められないような仕組みとなっていた。
それでも海外の完成車メーカーが中国に進出したのは、人口13億人という巨大市場への期待があったからだ。実際、50%出資規制が公布された2004年に約500万台だった中国自動車市場は、2017年には2888万台と、6倍近くに伸び、断トツの世界最大市場になっている。いわば市場という“アメ”と引き換えに海外企業の技術を吸収しようとしたのが出資比率規制だったといえるだろう。
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“共産主義国”が“資本主義国”に市場開放を説く?
ところが2018年4月17日、中国政府はこの出資比率の50%規制を撤廃すると発表した。具体的には、まず2018年にEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)などの「新エネルギー車」を製造する企業は単独資本で現地進出できるようにする。次いで2020年に商用車、2022年に乗用車メーカーの出資比率の規制を廃止する。現在は外資系の完成車メーカーが現地メーカーと合弁企業を設立する場合に、合弁相手を2社までに制限しているが、この規制も撤廃するという。
ここに来て、中国が資本規制の撤廃を表明した最大の理由は米国をけん制することだろう。米国の通商代表部は同年4月3日、巨額の対中貿易赤字を問題視し、中国の知的財産権侵害に対抗する制裁措置として、中国製品に対して25%の関税引き上げを行う原案を公表した。増税の総額は500億ドル(日本円で約5.3兆円)規模に上る。それに先立つ3月末には、鉄鋼やアルミニウムの輸入関税引き上げも表明している。
中国の習近平国家主席は、米国が一連の関税引き上げ政策を発表した後の4月10日、ボアオ・アジアフォーラムで、外資系企業に国内市場を開放する方針を示した。その具体策の一つが、自動車分野における外資系企業の出資比率規制の撤廃だ。
このフォーラムで習氏は「中国の開放の門は閉じない」と発言したと伝えられている。外資系完成車メーカーの出資比率だけでなく、証券・金融関連でも外資系企業の過半出資を認めるなど、市場全体の開放姿勢を打ち出した。「自国最優先」の姿勢を強める米国に対し、市場の開放政策という交渉材料を持ち出すことで、米国が導入しようとしている巨額の制裁措置を回避しようとしていると見られているのだ。共産主義の中国が資本主義の米国に「市場の開放」を説くという皮肉な構図になっている。
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背後に垣間見える中国のしたたかな狙い
こうした中国の開放政策は、本来なら日本の完成車メーカーにはプラスになるはずだが、額面どおりには受け取れない面も多い。外資系完成車メーカーの動きを縛る規制は、資本規制だけではないからだ。例えば現在、中国では自動車の生産能力が過剰になっており、仮に日本の完成車メーカーが過半資本を握る現地法人を設立したとしても工場建設の認可が下りるかどうかは未知数だ。また、今後中国市場で生産台数が大きく伸びると見られているEVも、搭載する電池には中国現地企業製を採用することが事実上義務付けられている。
それに、これまで外資系完成車メーカーは、中国の商習慣への対応や政府との交渉で、中国の合弁相手企業を活用してきた面もある。従って、資本比率の規制が撤廃されたとしても、すぐに合弁を解消したり、出資比率を高めたりという動きにはならず、当面は様子見をする海外メーカーが多いだろう。
ただし、今後の政策の「さじ加減」によっては、外資系企業が資本比率を高め、現地の合弁相手に対する利益の配分が少なくなることも考えられる。場合によっては合弁を解消する動きも出てくるかもしれない。今回の資本比率規制の撤廃が現地資本の完成車メーカーに「独り立ちをしなければいけない」というプレッシャーを与えることは間違いない。
そこまで考えると、今回の資本比率規制の撤廃は、米国に対しては中国の自由貿易の立場を主張し、海外の完成車メーカーからは継続して技術を吸収し、なおかつ現地の完成車メーカーに対して技術力や品質を高めるプレッシャーを与えるという、非常にしたたかな政策であることが分かる。中国という国を率いる官僚集団の優秀さには、本当に舌をまいてしまう。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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