ベントレー・ベンテイガV8(4WD/8AT)
アグレッシブさが光る 2018.06.01 試乗記 ベントレー初のSUV「ベンテイガ」のラインナップに加わった4リッターV8モデルが日本に上陸。W12とのパワー差は58ps。その走りには、どんな違いがあるのか? 2台を比較し、「V8」を選ぶ理由について考えた。カイエン ターボと同じだけど違う
ベンテイガの追加モデルとして4リッターのV8ツインターボが公開されたのは、今年2018年3月に開催されたジュネーブショー。ご存じのようにベンテイガは、ベントレー自慢の6リッターW12を搭載した同社史上初のSUVだった。2015年のフランクフルトショーが、そのワールドプレミアの場であったことを考えると、V8モデルは約2年半後にして初めての追加モデルということになる。
情報感度の高い事情通であればすでにお分かりのように、ベンテイガのV8モデルが採用したパワーパックは、同じフォルクスワーゲングループに属するポルシェの「カイエン ターボ」に共通するものだ。ベンテイガがデビュー時に搭載した最高出力608ps、最大トルク900Nm となる6リッターのW12ツインターボに対して、今回追加されたV8エンジンは4リッターのツインターボ。最高出力は550ps、最大トルクが770Nmというスペックである。
W12とV8、この両車のパワー差は58psだ。従来モデルが現代の量産モデル最高峰といわれる12気筒エンジンだけに(この上は唯一「ブガッティ・シロン」のW16気筒のみ)、そうした気筒数やカタログデータ(数値)だけを見てしまえばV8が見劣りすることは否めず、追加されたV8モデルを下位グレードやエントリーモデルと切り捨てることは難しくない。しかし世の現行SUVを冷静に眺めてみれば、550psのパワーは依然としてトップクラスといえるパフォーマンスの持ち主であることもまた事実である。
同じ4リッターV8エンジンを採用するポルシェSUVの頂点に位置するカイエン ターボとは、パワースペックはもちろんのこと、ドライバーの意思をくみ取ったかのように反応する気持ちのいいZF製8段ATとの組み合わせや、SUVにとって重要なオフロード性能を左右する前:後=40:60となるトルク配分を持つ4WDシステムを採用する点も同様。したがってもちろん両車を、「パワートレインを共通使用する兄弟車」だと判断できよう。
けれども、カイエン ターボとベンテイガが同じではないことは、興味を持ってこのリポートを読んでいるクルマに明るい方々には、あえて言うまでもない事実。スポーツカーブランドの作り上げたSUVとラグジュアリーブランドの威信にかけたSUVでは、たとえクルマの中心を成す重要な基幹部品が同じであっても、細部の作りはもちろんのこと、ドライビングテイストや路上での存在感さえも異なっていることは明白だ。その差はトヨタとレクサスの比ではない。
いかにカイエンのインテリアがラグジュアリー志向にレベルアップしようが、実車が放つオーラはもちろんのこと、ブランドヒストリーや製品の価値観にいたるまで、違いは永遠に埋まることはない。もっともそうでなければ両車が個別に販売されている意義もないだろう。
見た目では区別のつかないV8とW12
さて、日本に導入されたばかりのベンテイガV8、同じパワーパックを採用するカイエンとの比較は別の機会に譲るとして、今回は従来のベンテイガ、すなわちW12との違いについてチェックしたい。
実際にW12とV8の両車を並べ、W12とV8のエクステリアから両車の識別点を探し出すのは、しかし、そう簡単な作業ではない。見て分かるように(いや実際には見ても分からないのだが)、エクステリア上ではその差が極めて小さいのである。
ストックの状態では、ブラックアウトされたグリル、20インチが標準サイズとなる新デザインのアロイホイール(W12は21インチが標準サイズ)、シルバーのフィニッシャーを採用したエキゾーストパイプなどがV8の特徴であり主な差異となる。
「コンチネンタルGT」では、エンブレムにある「Bマーク」がW12(=黒)とV8(=赤)に分けられ、カラーリングでモデルを識別することも可能だったが、ベンテイガではエンブレムを黒に統一。これも両車の識別を難しくしているひとつの要因だ。もちろん、「V8」や「W12」といった搭載エンジンを示す分かりやすいエンブレムの装備もない。
インテリアでは、W12ではHDDナビ+TVが標準装備であるのに対して、V8ではオプション扱いになっているのも装備的な違い。さらに後述するが、W12では標準装備される遮音性の高いウィンドウが未採用であったり、スタビライザーの仕様が両車では異なっていたりと、目に見えないポイントも違いとして挙げられる。
だが、こうして見える部分を挙げても、路上においてそれらは分かりやすい両車の識別点とはならないのである。理由は簡単だ。そもそもベントレーは、新車オーダー時にさまざまな仕様で世界に1台だけの車両を作るビスポークオーダーシステムを採用しており、ユーザーが新車時のオーダー時に内外装のカラーリングや素材、装備を選び、クルマができあがってくるからである。
したがって「完全にない」とは断言できないが、世界に同じ仕様のベントレーが2台と存在しないのがこれまでの通例。内外装に関して、W12でリクエストできることは、V8でもほぼ同様にリクエスト可能であるため、見た目での識別が困難なのだ。例えばボディーカラーに合わせてW12でブラックのグリルを選ぶことも、また逆にV8でクロームグリルを選ぶこともできる。おのおののパーツが、すなわち搭載エンジンを示す決定打ではないということである。そもそもわれわれがなじみある量産ブランドのクルマのように装備でグレードを差別化するという概念がラグジュアリーブランドでは一般的ではないようで、それは考えてみれば当然の話にも思える。
装備の有無でグレードを作るのではなく、装備を加えていく(もちろん装備の省略も可能)、あるいは装備を選んでいくという作業が基本となるラグジュアリーブランドの常識をよそに、差別化うんぬんという分析は無意味ということだ。ついW12とV8の関係を上位/下位グレードと表現してしまいそうになるが、それは私を含めた残念な庶民感覚にすぎない。今回もW12とV8をラインナップするコンチネンタルGT同様に、「搭載エンジンが違う」とシンプルに考えるのがまずは大前提だ。
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エキサイティングなV8サウンド
W12のステアリングを握るといつも思うのが、圧倒的という言葉の再確認である。物理法則を無視したかのような加速感、それでいて重厚感あふれる極上の乗り心地、ひと目で誰もがベントレーだと理解してくれるステータス性。こうした魅力に加え、乗り出しで軽く3000万円を超えるラグジュアリーSUVで試すことははばかれるが、砂漠だろうがガレ場だろうが厭(いと)わず突き進むステージを選ばないオフロード性能が漏れなく付いてくるのがベンテイガである。クルマという実用的な機械に置き換えて考えれば、走る場所も、乗っていくシーンも選ぶことのないベンテイガを、究極の存在と言わしめる理由には事欠かない。
そうした、これまでの高級車やSUVのパフォーマンスといった常識をものともしないW12の比類なき走りを味わったあとでV8のステアリングを握れば、両車間で、大きく異なる印象を抱くことになる。
W12とV8では、エンジン単体で50kgの重量差があると聞くが、その違いは明確に伝わる。スッとステアリングを回した瞬間にその手に感じる鼻先の軽さは、V8をドライブする誰にでも体感可能。ステアリング操作にストレスなく反応するスポーティーなコーナリングが味わえる。
そうしたドライブフィールに加え、V8のエキゾーストサウンドが、比較的明瞭にキャビンへと届くことが分かる。モーターのようにスムーズに回るエンジンとその抑えられたサウンドがW12の個性だとするならば、ボリュームこそ同様に(そしてラグジュアリーブランドらしく)抑えられ、同時に洗練されてはいるものの、われわれがV8というパワーユニットに期待する(アメリカンV8に近い)エキサイティングなエキゾーストノートがベンテイガV8の魅力だ。コストや装備の簡略化としてではなく、この加速シーンのV8サウンドを聴かせるためにあえて遮音性の高いウィンドウを採用しなかったのでは? とさえ勘ぐってしまう。
加速フィールも両車では明確に異なっている。W12がSUVのマスや質量などないかのように、どこまでも息継ぎすることなく圧倒的な加速力を見せるのに対して、V8ではエンジン回転の上昇にシフトアップが見事にリンクし、なおかつ乾いたエキゾーストノートが織りなす気持ちのいい加速フィールをもたらしてくれる。ベントレーというラグジュアリーブランドであり、SUVでもあるが、クルマ好きならこの印象をスポーティーだと表現することに賛同を得られるはず。同時に、エンジンを駆使して、前へ前へと突き進むこうした感覚を嫌いにはなれないだろう。
高速道路と一般道を走った今回の試乗ステージでは、シャシーパフォーマンスにおいて、両車に大きな違いは見いだせなかった。それゆえ逆説的だが、W12の22インチタイヤ仕様に乗る限り、個人的にはV8でも22インチタイヤを許容しそうな印象を持った(今回試乗したV8はオプションで 21インチタイヤを装着)。22インチタイヤでも、21インチタイヤに快適性で劣るという感じを持たなかったのがその第1の理由である。大きなお世話だが、見た目だけを取ればもちろん明らかに22インチタイヤ装着車の方が、フォトジェニックである。
シンプルに表現すれば、W12はすべてにおいて頂点を極めた真の高級SUVであり、V8はベントレーという高級車の枠をはみ出さないスポーツモデルだと、両車の違いを紹介できそうだ。6250rpmからレッドゾーンが始まるW12に対して、V8ではより高回転まで使うべく6800rpmからレッドゾーンが始まる。深紅のブレーキキャリパーを標準採用したのに加え、V8モデル追加のタイミングでカーボンセラミックブレーキのオプション設定をスタートさせたのも、ベントレーがこのモデルをスポーティーな位置づけに置いている裏付けといえそうだ。
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違いは「ある」が誤差の範囲
厳密に言えば、W12の4.2秒に対してV8は4.5秒と、0-100km/h加速には0.3秒の差があり、同じように日本の道では無意味な数字かもしれないが、W12の最高速度は301km/hで、V8が290km/hだという違いも存在する。けれでも、そうしたスペックシートに並ぶ数字から受けるほど両車間に歴然たるパフォーマンスの違いはなく、ETCゲートをくぐりフル加速を与えた時に感じる背中がシートに押しつけられるようになる感覚は、演出こそ違ってはいるが、どちらでも同じように味わえる。現実世界でのその差は、ほとんど誤差といっていい範囲でしかない。ただ、数値にも感覚にも違いが「ある」といえるだけの話で、どちらも速さに不満などない。
同様に両車を乗り比べれば、確かに“ドライバー”が感じる走りの印象は異なってくるのだが、そうしてステアリングを握らない限り、エクステリアの識別と同様に、即座にW12かV8かを言い当てることは至難の業である。パッセンジャーシートやリアシートに腰を下ろし、法定速度でクルージングしているなら(これはベンテイガを「ああやっぱりこのクルマもベントレーだ」と再確認する瞬間でもある)、両車を明確に言い当てる自信などない。
大きな差となって表れていいはずのウィンドウの遮音性の差さえも気にならないのは、もてなしの心にあふれたラグジュアリーブランドという素地(そじ)ゆえの仕業だろう。どちらのモデルであってもキャビンは静かで快適な空間に終始し(もちろんW12の方がさらに静かなのだが)、それはわれわれがベントレーというブランドから想像するラグジュアリー感を決して裏切らない。
W12とV8の価格差は、メーカー希望小売価格で791万4000円。V8は2000万円を切る1994万6000円という価格設定だ。従来よりも、購入しやすくなったのは紛れもない事実である。しかし、2000万円を切る価格設定だからといってV8を薦めるのは野暮(やぼ)な話である。
ベントレーこそを最上のブランドとし、そのなかでも最高のベンテイガが欲しいのであれば、答えは決まる。迷わずW12である。だが、装備が(自分のセンスとニーズで)自由に選べ、加速シーンでのドライブフィールとハンドリングの軽快さが異なる以外、現実世界でのパフォーマンスにほとんど差がないとすればどうだろう。
購入検討者を迷わせる意図など毛頭ないが、V8は“エントリーモデル”などと簡単に紹介できるような数合わせのチープな存在ではない。むしろW12のオーナーに、「あと10歳若ければ、V8を選んでいたかもしれない」と言われるような、ベントレーのクオリティーにアグレッシブなテイストをまぶした魅力を持つモデルなのである。
(文=櫻井健一/写真=向後一宏/編集=近藤 俊)
テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガV8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5140×1998×1742mm
ホイールベース:2995mm
車重:2395kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(404kW)/6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
タイヤ:(前)285/45R21 113W M+S/(後)285/45R21 113W M+S(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:11.4リッター/100km(約8.8km/リッター、EU複合モード)
価格:1994万6000円/テスト車=2587万5400円
オプション装備:ツーリングスペック(109万8400円)/シティースペック(44万1300円)/ブラックラインスペック(89万5400円)/Mullinerドライビングスペック グレーペイント&ダイアモンドチューン(199万9700円)/ダイナミックライドシステム(69万5700円)/フロントシートコンフォートスペック<5シーター>(50万2000円)/ウッドセンターフェイシアパネル(9万0300円)/LEDウェウカムランプ(14万3300円)/3本スポーク デュオトーンステアリング(6万3300円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:725km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。