ブランド設立から今年で70周年!
ポルシェのエポックメイキングなマシンを振り返る
2018.05.30
デイリーコラム
初のポルシェ車は356 No.1ロードスター
オーストリアはケルンテンという州の中にある小さな町、グミュント。モーツァルト生誕の地、あるいは世界遺産の都市として知られるザルツブルクからアウトバーンで南に1時間半ほど下ったこの地で、州政府から特別な走行許可を与えられた、小さなプロトタイプのオープンカーが初の公道走行を行ったのが、1948年の6月8日であったという。
そう、フォルクスワーゲン製の水平対向4気筒エンジンをミドシップマウントしたこのモデルこそが、実は「ポルシェ」の名が初めて冠された第1号車。すなわち「356 No.1ロードスター」が走り始めて、今年でちょうど70年が経過したことになる。
もちろん、そうした長い歴史の“全編”にはとても及ばないものの、自身が“初ポルシェ”を手に入れてからもすでに30年超という計算(驚!)に。
というわけで、ポルシェにとって記念すべきタイミングで、このブランドが生み出した作品の歴史を振り返ってみた。すると、自身でテストドライブの実体験があるものだけを取り上げても、「特にエポックメイキングな存在」と呼ぶことができるモデルが、いくつかあることにあらためて気付いた。そうしたモデルを懐かしく振り返りつつ、いま一度その記憶を呼び戻してみたい。
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何時間走っても疲れ知らず
まずは前述した、自身がオーナーとなった初のポルシェを振り返る。それは誰にもおなじみの「911」ではなく、直列4気筒エンジンを搭載したFRレイアウトの持ち主である「944S」というモデルだった。
一体どうして、そんな“マイナーモデル”を選んだのか? もちろん30年前の自分にとっても、911というモデルが気にならなかったわけではない。
が、空冷エンジンやRRレイアウトという「それこそが911の大きな特徴」というポイントが、当時の自分にはむしろ何とも古臭く思え、さほど食指は動かなかったというのが事実。それよりも944Sが備えていた、当時の日本のFR車とは全く次元が異なる、圧倒的にフラット感の高い乗り味に魅了されたのだ。
高速道路を、制限速度+αのスピードで何時間走り続けても、全く疲労感を覚えないそのフットワークの仕上がりに、「クルマの速さを決めるのはエンジンではないのだ!」と、このモデルをきっかけに気付かされたのだった。
かくして、一気に畏敬の念を抱くに至ったこのブランドの作品で、自身にとって最初のエポックメーカーとなったのは、後に中古モデルを超長期のローンで無理やり購入することになる初代「911カレラ4」、すなわち964型の4WD仕様だった。
そんな964型には、後に後2輪駆動の「カレラ2」も加えられることになったことから、当時は「やっぱりコッチが本命だ」という意見も多く聞かれた。
しかし、現行911の多くが4WD仕様であることを考えれば、量販タイプで初の4WDとなった初代カレラ4は、当然「ポルシェにとってエポックメーカー」であったことは間違いない。
このモデルでまず驚かされたのは、リアエンドにエンジンを置く4WDモデルゆえ、本来ならば全く異なるものとなっておかしくないその走りに、前出の944Sと共通するテイストが色濃く感じられたこと。そして、まさに“矢のように”進む直進性にも強く感心させられた。
前輪荷重が増したゆえに、むしろよりシャープになったターンイン時の回頭感の実現とともに、911はこのモデルで、RRレイアウトの持ち主ゆえの、積年の課題を解決する道筋を見いだしたのである。
現在の隆盛のきっかけはボクスター
次いで思い浮かぶポルシェのエポックメーカーといえば、996型911との“セット開発”で、ブランド初のモジュラー戦略を確立させた初代「ボクスター」だ。
厳しさを増し続ける排ガス対策を踏まえた水冷化への決心とともに、ポルシェ車が苦手としてきたメンテナンスフリー性を一気に進めた完全新開発の心臓を搭載することで、エンジンルームを封印。前後にトランクルームを備えたボクスターのパッケージングは、世にある2シーターモデルの中でも随一のラゲッジスペースを実現した。
同時に、911との共同開発で抑えられたコストによって、価格的にも見事に“エントリーポルシェ”としての立ち位置を確保。このブランドに新たな若い顧客を呼び込むことになった功績はとてつもなく大きく、それによって得られた資金や社内的な士気の高まりが、「カイエン」を筆頭とする後の“4ドアポルシェ”を生み出すひとつのきっかけにもなったと考えられる。
1980年代には倒産の危機すらうわさされたこのブランドの復権は、初代カイエンのデビューに続いて世に姿を現した、「カレラGT」にも象徴されていたように思う。
「本来はルマン用マシンのために開発された」とされる5.7リッターのV10エンジンは、後に「レクサスLFA」にそのお株を奪われるまでは「世界一魅力的なサウンドの持ち主」と、まさにそう受け取れたもの。典型的な高回転・高出力型の自然吸気大排気量多気筒エンジンは、これからの時代にはもう望むべくもないかもしれない。
2代目ボクスターをベースにしながら「ようやく」という感じでデビューを果たした初代「ケイマン」にも、ポルシェにとってのひとつの転機を感じた。
それは、2ドアクーペボディーの持ち主であるゆえに、一歩間違えれば兄貴分である911を脅かすことになりかねなかった存在だ。
それゆえに初代ボクスターベースのモデルは見送られたという過去を踏まえつつ、自ら“自粛”の動きをついに解禁することとなったのは、「911とはすみ分けていける」という、自信の裏返しでもあったはずなのだ。
もっとも、最近になってボクスターも含めてエンジンを4気筒へと切り替えたのは、CO2の削減という大義名分を語りながらも、実は「911とのすみ分けをさらに明確にする」という、マーケティング戦略の一環だとにらんでいる。
(文=河村康彦/写真=河村康彦、ポルシェ/編集=藤沢 勝)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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